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ITセンサー活用で目指す「有機米とコウノトリが育つ」農地づくり

コウノトリの生育環境を保全しながら生産を行う兵庫県豊岡市の「コウノトリ育む農法」。現在、「豊岡市スマート農業プロジェクト」の実証事業として、水田管理を省力化できる農業向けITセンサー「MIHARAS(ミハラス)」が活用されている。

豊岡市の有機米のこだわり
「コウノトリ育む農法」

「幸せを運ぶ鳥」として知られるコウノトリ。兵庫県豊岡市は1955年からコウノトリの保護活動に取り組んでいたが、1971年に同市で最後の1羽がなくなったことで、日本における野生のコウノトリが絶滅。

しかし、生息地域の保全活動を中心とした継続的な取り組みの結果、現在では約140羽が野生復帰を果たしている。その過程で確立されたのが「コウノトリ育む農法」だ。

豊岡市内の圃場では、たびたびコウノトリの姿を見かける。「コウノトリ育む農法」で作られている主な品種は、コシヒカリ。

 

「コウノトリ育む農法」とは?

米だけでなく、田んぼに暮らす生き物も育むことを目的に考案された農法。特有のルールが設けられており、例えば「オタマジャクシの変態を確認してから中干しを行う」「栽培期間中、殺虫剤や化学肥料は使用しない」「冬季及び早期灌水を行う」といったものがある。コウノトリ育む農法による米の作付け面積と消費量は、右肩上がりに増加している。

【「コウノトリ育む農法」の歩み】

—2005年——
●コウノトリの試験放鳥
●コウノトリ育む農法の確立と推進

—2007年——
●コウノトリが野外で誕生・巣立ち(国内で46年ぶり)
●農地・水・環境保全対策開始—2009年——
●コウノトリ育む農法の他地域への拡大

—2015年——
●コウノトリ育む農法・作付面積が300ha突破
●ミラノ国際博覧会でコウノトリ育むお米を出展

—2016年——
●ブランド米「コウノトリ育む農法のお米」が第18回米・食味分析鑑定コンクールの国際総合部門で金賞(ユメファーム)、都道府県お米
選手権で特別優秀賞受賞(グリーンいずし)
●アメリカに「コウノトリ育むお米」の輸出を開始

—2017年——
●コウノトリ育む農法・作付面積が400ha突破
●香港に「コウノトリ育むお米」の輸出を開始
●「コウノトリ育む農法のお米」が第19回米・食味分析鑑定コンクールの国際総合部門で特別優秀賞(チーム奥神)

—2018年——
●「豊岡市スマート農業プロジェクト」が開始され、実証事業として「MIHARAS」導入。複数の農家が利用を始める。
●オーストラリア、ドバイに「コウノトリ育むお米」の輸出を開始

「『コウノトリ育む農法・無農薬栽培』は、農薬や化学肥料を使用しません。減農薬栽培も殺虫剤は使わず、除草剤の使用量を大幅に削減することで、コウノトリのエサであり、害虫を退治してくれるカエルやヤゴといった田んぼの生き物を守ることができる農法です」。

こう説明するのは、豊岡市役所・コウノトリ共生部の山本大紀さんだ。山本さんいわく、本農法を取り入れることで、コウノトリが暮らしやすい環境作りや生物多様性の保全に貢献できるという。

豊岡市役所・コウノトリ共生部の山本さんと安達陽一さん。グレーダーのサイズを大きくするなど、米の食味を上げるための努力も進んで行う。

また、本農法での米作りに取り組むユメファームの青山さんは、「無農薬・減農薬で作られた米は、安心して食べることができます。コウノトリを育むだけでなく、人々の健康を守る米を作っていることに、誇りを感じます」と語る。

「コウノトリ育む農法」に取り組む生産者の皆さん

ユメファームの青山さんは、「MIHARASは水温も把握できるので、雑草の生え具合を予想できるようになった」と話す。

「子供や孫の健康を守りたい」という気持ちから、本農法を選んだ成田エコファームの成田市雄さん。

「農薬の減少によって、生物の生きる場所が増えてくれれば嬉しい」とコウノトリ育む農法に意気込む、植田農園の植田博成さん。

「コウノトリが住みやすい街は、人間も暮らしやすいはず」と話す、坪口農事の平峰さん。

このように、メリットの多い農法だが、田んぼの水管理には時間と手間がかかっていた。「この農法の無農薬栽培では除草剤を使わないので、田んぼに水を深く張り、雑草の成長を抑えます。水深がしっかりと確保されているかチェックすることが日々のタスクとなりますが、全ての田んぼを見て回ると2~3時間かかることも。農家の方々の大きな負担となっていました」と、山本さんは現場の様子を振り返る。

豊岡市のプロジェクトで
『MIHARAS(ミハラス)』を
試験導入

そこで今年5月、「豊岡市スマート農業プロジェクト」の第一弾事業として、豊岡市内の「コウノトリ育む農法」に取り組む農業者に「農業向けITセンサー『MIHARAS(ミハラス)』」を試験導入し、実証事業を開始した。

豊岡市スマート農業プロジェクトの相関図


「MIHARAS」を圃場に設置すると、逐一スマートフォンに水位や水温、地温といった情報が送られてくる。見回りの作業が省かれ、負担の軽減につなげることができるという。


田んぼに設置した、通信回線を利用した水位センサーとスマートフォンやタブレットが連動するため、水位や水温、地温をいつでも確認することができる。結果、田んぼをチェックする回数や時間の削減につながる。また、水位に異常が起きると、エラーを知らせるメールが自動で送られてくる。専用の画面は見やすく、操作も簡単だ。

「MIHARAS」を利用する生産者にその使い勝手をたずねると、皆「作業負担が減り、とても助かっている」と口をそろえる。こうしたIT機器を積極的に活用することで、農業の未来が大きく開ける可能性があると、山本さんは期待を込めて語ってくれた。

問い合わせ

ニシム電子工業株式会社

092-482-4700


photo&text: Yoshiko Ogata

AGRI JOURNAL vol.09(2018年秋号)より転載

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