“食べられるバラ“を新たな形に! 女性起業家が切り開く農業の未来とは
2020/01/10
「食べられるバラ」を生産・加工する「ROSE LABO株式会社」の代表・田中綾華さんは、22歳の若さで同社を創業。自社製品が各種百貨店で取り扱われるまでに、ブランドを成長させた秘訣とは?
普通の女子大生から一転
バラ農園の経営者に
ローズウォーターをたっぷりと含んだマルチミストや、バラが豊かに香るコンフィチュールなど、食用バラを使ったさまざまな製品を展開する「ROSELABO」。多くのメディアで取り上げられるほど、製品と企業に対する世間の注目度は高い。
ROSE LABOの代表を務める田中綾華さんは、およそ6年前までは、普通の女子大生。“目標もなく、流されるまま生きていた”と、当時を振り返る。
そんな時、運命的に出会ったのが「食べられるバラ」だったという。
「とてもワクワクしたのと同時に、大きな可能性を感じました。『食べられるバラ』とともに、第二の人生をはじめよう、と」間もなく大学を中退し、ネットで見つけたバラ農園に弟子入り。およ2年間という短い期間ながらも、苗の植え方や剪定方法といった栽培の基本を貪欲に学んだすえ、ROSE LABOの立ち上げを企画した。
しかし、資金調達の壁が、田中さんの前に立ちはだかった。「農業の場合、生産物が流通するまで資金が回収されません。なので、ベンチャーキャピタルからは、ほぼ相手にされなくて。結局、身内や銀行から資金を借り入れ、ようやく初期投資ができました」
その後、人脈をたどって手にした1000坪の土地にハウスを構え、「食べられるバラ」の栽培をスタートさせた。
農園のある埼玉県深谷市は昼夜の気温差が大きく、丈夫なバラを育てることができる。
女性スタッフたちの
感性や能力が支えに
事業を軌道に乗せるためには、事前のリサーチと戦略の構築が欠かせない。
まずは食用バラの場合、グロサリーのマーケットにおける競合は少ないものの、ビジネスチャンスが多いコスメのマーケットにおいては、競合が多数存在するという情報をキャッチ。そのうえで、グロサリーの分野で地位を確立したのち、コスメ業界に参入するという戦略を打ち立てた。
さらには、自身が広告塔となり、メディアへの出演やビジネスコンテストへの参加も積極的にこなしつつ、高級レストランや百貨店などに販路を絞った。こうした努力が実を結び、ブランド力と認知度が確実にアップ。昨年から目標としていたコスメ業界にも華々しく参入している。
写真右:「ナチュラルレインR」は、ローズウォーターをたっぷり含んだ化粧水と美容オイルの2層式化粧水。/写真左:「Rボディミルク」は、クラウドファンディングによって資金を集め、製品化された新商品。
現在、ROSE LABOには全部で14名のスタッフがおり、そのおよそ9割を女性が占める。
また、今後も積極的に女性の採用・起用を進めていく予定だという。その理由として、製品の顧客の多くは女性であり、消費者目線で製品づくりができることと、女性ならではの細やかな感性や能力があるからと語る。
「観察力が高く、物事の変化に気づきやすいのが女性のもつ特徴です。弊社の女性スタッフも、バラの調子が悪い時、真っ先に気がついてくれることが多いですね。また、一つの作業に没頭せず、次の段取りなどを考えられるのも、彼女たちの特徴でしょうか。
例えば、バラを刈り取りながら品質をチェックし、さらには新製品を企画し……と、複数の作業を同時に行える傾向が強いと感じています」世代が近いこともあり、職場内のコミュニケーションも活発。日常会話から発想を得て、新製品が企画されることもあるという。「売れる製品をつくるうえでは、女性たちの“生の声”が大切。商品を手に路上に出て、道ゆく人にパッケージに対する印象をヒアリングすることもあります」。バラと農業に誠心誠意打ち込んでいる田中さん。
最後に「農業女子」の今後について、お話いただいた。「女性の意見が反映されることで、生産物はより魅力的になります。農業において女性が活躍できる余地は、まだまだ残されているはずです。」
マーケティングの肝
1.ファンとの交流を大切にする
ブランドのファンからの情報が、のちに商品開発や商品をPRする際、大きく役に立つことも。田中さんは、定期的に開催しているファンミーティングにて、肌への悩みや商品に対する感想を直接聞くようにしているそう。
2.“ストーリー”もアピールする
商品が生まれるまでの経緯も、積極的に顧客に伝えるのが大事。「消費者のトレーサビリティへの意識が高まっており、商品そのものよりも、商品にまつわるストーリーに魅力を感じてくださる方が多いようです」(田中さん)。
3.女性の意見を取り入れる
多くの家庭では、買い物における決定権を握っているのは女性。「コスメはもちろんグロサリーも、女性の目線を意識して企画・開発するようにしています。女性たちの声を反映させた商品は、おのずと人気になる印象があります」(田中さん)。
Close up!
Fan meetingでお客様の声をリサーチ!
定期的に、南青山にある事業所にてファンミーティングを開催。ブランド紹介や食用バラの育て方の説明、ワークショップなどが行われる。
ワークショップの内容は、回によって異なる。2019年9月に開催された回では、講師の指導のもとハーバリウムを作成。
母親である英子さんと。英子さんは、ハーバリウムアーティストの資格をもっており、今回のワークショップで講師を担当。
Profile
田中綾華さん
1993年東京生まれ。2015年9月、「『食べられるバラ』を通して、世界中の女性を美しく、健康に幸せにする」をテーマとした「ROSE LABO」を設立。現在、埼玉県深谷市におよそ1000坪の農園を、東京・南青山に事業所をもつ。
HP:ROSE LABO公式サイト
Instgram:@ayakatanaka.roselabo
Photo&Text:Yoshiko Ogata
AGRI JOURNAL vol.13(2019年秋号)より転載