【異業種からの農業参入のススメ②】失敗しない7つのポイント
2026/01/05
企業の農業参入には大きな可能性がある一方で、農業特有の難しさから撤退を余儀なくされるケースも少なくない。シリーズ「異業種から農業参入のススメ」2回目は、異業種から参入する企業が着実に事業を軌道に乗せるための7つのポイントを解説する。
メイン写真:AU USAnakul@Shutterstock.com
1.事業目的とビジョンを明確にしよう
2.徹底的な情報収集と市場・地域分析が必須
3.収益の柱をつくる事業モデルの検討
4.事業計画には具体的な数値目標を
5.農地の確保と参入形態の選択
6.農業技術の習得と人材育成・確保
7.販路開拓とマーケティング戦略
8.まとめ
1.事業目的とビジョンを
明確にしよう

企業が農地を利用して農業に参入する手順(出典 千葉県)
農業参入の目的を整理することが、すべての出発点だ。「本業との相乗効果」「地域貢献」「新規事業の柱」など、参入の動機によって取るべき戦略は大きく異なる。
食品メーカーであれば原料の安定調達、建設業であれば公共工事の減少を見据えた事業転換、小売業であれば差別化商品の開発など、本業との連携を明確にしよう。定食レストランの「やよい軒」や持ち帰り弁当の「ほっともっと」を運営する株式会社プレナスは、米の安定調達と農業の課題解決を目指して参入し、スマート農業を活用した事業モデルを構築している。
目的が曖昧なまま参入すると、困難に直面した際の判断基準を失いやすく、撤退を余儀なくされるケースもある。農業は短期間での収益化が容易ではないため、「なぜ農業に参入するのか」という問いへの答えを明確にしておくことが重要だ。
2.徹底的な情報収集と
市場・地域分析が必須

埼玉県では県がつなぎ役となり企業の農業参入を支援(出典 埼玉県)
農業は地域性が極めて高い産業だ。気象条件、土壌、水利、既存の農業形態など、参入予定地の特性を十分に理解する必要がある。
農業参入相談窓口は各都道府県にあり、支援体制が整っている。埼玉県では、県が「つなぎ役」となって市町村や関係機関と連携し、ワンストップで情報提供するとともに、参入地域との調整や農地の一括借り受けの支援などを行っている。
市場分析では、栽培予定の作物の需給動向、価格変動、競合状況などを把握しておきたい。作物選定の際には、供給過剰による価格低迷のリスクや、栽培に必要な技術レベルなども考慮する必要がある。
地域の既存農家との関係構築も重要だ。地域に溶け込めず孤立してしまうと、栽培技術の助言が得られなかったり、農業用水の利用で問題が生じたりするおそれがある。参入前から地域の農業者や自治体と良好な関係を築いておきたい。
3.収益の柱をつくる
事業モデルの検討

6次産業化とは(出典 農林水産省)
農業は天候に左右される産業であり、一つの収益源では経営リスクが高い。複数の収益の柱を組み合わせた事業モデルを検討することが、安定経営への近道となる。
例えば、施設園芸での野菜生産を主軸としながら、加工品開発、農業体験の受け入れ、レストラン経営などのような6次産業化による収益の多角化を目指してみよう。また、契約栽培による安定した販路の確保と、市場出荷や直接販売による収益性の向上を組み合わせる方法もある。
本業との相乗効果を生む視点も重要だ。兵庫県の老舗清酒メーカー・白鶴酒造は、2015年に農業法人「白鶴ファーム」を設立し、酒造好適米を栽培している。酒づくりの繁忙期(秋冬)と稲作の繁忙期(春夏)が異なることで通年雇用を実現し、原料米の安定供給と品質向上を両立させている。
農業参入から10年で約35ヘクタールまで作付け規模を拡大し、洗米排水を肥料として活用するなど循環型農業にも取り組んでいる。収益モデルを考える際には、初期投資額と回収期間、ランニングコスト、想定される収量と販売額を具体的に試算して、黒字転換するまでの道筋を描いておこう。
4.事業計画には
具体的な数値目標を
農業に参入することを決めたら、具体的な数値目標と行動計画を盛り込んだ事業計画を作成する。以下は事業計画書の項目例だ。
・会社の概要
・事業コンセプトと目的
・目指す農業経営の姿(面積、栽培品目、栽培方法、販売方法、労働力、参入スケジュールなど)
・栽培および販売方法
・農地管理と労働力の確保
・年次別の栽培、販売計画、収支計画
事業計画書は、市町村への説明や、補助制度・金融機関への融資の申請にも必要となる。農業にはさまざまな補助制度があるため、活用できる施策を事前に確認しておこう。
5.農地の確保と
参入形態の選択

農地バンクを活用するメリット(出典 農地中間管理機構)
農地の権利取得には、「農地所有適格法人」として要件を満たす方法と、リース方式で参入する方法がある。農地所有適格法人は農地を所有できる反面、議決権や役員構成などに制約がある。一方、リース方式は農地の所有ができない。事業計画に応じて最適な方法を選択しよう。
農地を借りるには、農地中間管理機構(農地バンク)を活用する方法がある。各都道府県に設置された機構が農地を借り受け、参入企業に転貸することで、複数の地権者との個別交渉が不要になる。市町村や農業委員会が農地情報の提供から契約までをサポートしてくれる。手続きには数ヶ月を要するため、余裕を持ったスケジュールが必要だ。遊休農地の活用であれば、自治体も積極的に支援してくれるケースが多い。
6.農業技術の習得と
人材育成・確保
農業技術の習得は、参入企業が苦労する点だ。栽培技術は座学だけで身につくものではなく、現場での経験が不可欠となる。効果的な技術習得の方法として、以下のアプローチがある。
・農業法人での研修受け入れ
・都道府県の農業大学校や研修制度の活用
・先進農家への視察と交流
・地域の農業者の雇用
・農業参入コンサルタントの活用
特に重要なのが、農業経験者の雇用だ。技術指導ができる人材を確保できれば、栽培の失敗リスクを大幅に減らせる。大和証券グループの「大和フード&アグリ」は、社員の半数を大和証券からの出向者、残りの半数を農業・食品関係業界からの転職者で構成し、金融ノウハウと農業技術を組み合わせた経営を実現している。
7.販路開拓と
マーケティング戦略
「つくれば売れる」時代ではない現在、販路開拓も重要だ。参入前から販売先を確保しておくことで、栽培開始後の収益化をスムーズに進められる。
販路の選択肢は多様化している。本業の販売チャネルを活用できる場合は、大きなアドバンテージとなる。食品関連企業であれば既存の流通網、小売業であれば店舗での販売、飲食業であれば自社店舗での使用など、自社の強みを最大限に活かそう。
長野県松本市の「株式会社かまくらや」は、車の販売業の社長と製麵業の社長が2009年に創業し、そばやジュース用トマトを中心に栽培している。「地域に必要な農作物を安定供給する」という思いのもと、BtoBで契約栽培をしており、JAや地元の製麺会社、メーカーと協働で安定供給体制を構築している。
まとめ
企業の農業参入は決して容易ではないが、これらのポイントを押さえて着実に準備を進めれば、成功の可能性は高まる。特に重要なのは、「農業は簡単」という思い込みを捨て、謙虚に学ぶ姿勢を持つことだ。地域の農業者に学びながら、ひとつひとつの課題を着実にクリアしていくことで、農業は企業に新たな成長の機会をもたらしてくれるはずだ。
DATA
農林水産省「企業などの農業参入について」
農林水産省「企業の農業参入を支援します」
取材・文:佐藤美紀





