コロナ禍におけるコメ需要の変化は?稲作農家が行うべきマーケティング戦略
2022/03/23
コメの需要減少と、それに伴う価格下落が大きな課題となっている。コロナ禍で小売需要と外食需要に変化が見られるなか、コメの生産者はどういったマーケティング戦略、経営を考えていくべきだろうか。
最近のコメ需要
令和4年産の主食用米の需要の見込みは675万トン―
2021年11月に農水省が発表した数字に驚いた方も多いでしょう。年間約8万トンであった主食用のコメの需要の減少ペースは、コロナによって10万トンを超えるペースに加速しています。供給量が変わらないのに、需要が下がれば、価格が下がります。近年の米価下落の大きな要因は、需要の減少です。
実際に、コロナ禍によって、コメの需要減は加速したと言えます。以下の表は、農水省の発表したコメの販売量の前年同月比の推移です。
コロナ禍によって外出自粛などが始まった令和2年の2月~3月以降に注目すると、小売向けのコメの販売量が伸びている一方で、中食・外食向けの販売量が大きく減少していることが分かります。外出自粛などの影響もあり、消費者が自宅で食事をするようになり、コメに限らず多くの農産物の需要は外食から小売にシフトしました。
しかし、令和2年の4月や6月に注目して販売数量の合計を見ると、小売向けが伸びたとしても中食・外食向けの販売数量の減少幅の方が大きく、小売では外食の穴埋めが出来ないことが分かります。家庭内でご飯を食べるよりも、外食の方がよりコメを多く食べているということです。そのため、コロナ禍で外食の需要が減少したことに連動して、コメの需要の減少幅が大きくなったのです。
では、コロナ禍が無ければコメの需要は安定していたのでしょうか。残念ながら、先に述べたようにコロナ禍の前から、コメの需要は減少の一途をたどっていました。少子高齢化、人口減少の状態にある日本国内ですから、需要が縮小していくことは必然と言えます。
しかし、それでもコメの需要の減少スピードは速すぎると言えます。この背景にあるのは、いわゆる「コメ離れ」です。このグラフは、博報堂総研が実施している生活定点調査の結果のうち、「お米を1日1回以上食べないと気が済まない」と回答した消費者の割合を、1992年から2020年までプロットしたものです。
グラフからは、1992年には7割以上の消費者が1日に1回はコメを食べないと気が済まなかったのに対し、2020年ではそれが約43%まで、約30ポイントも減少していることが分かります。お米から人々の気持ちが離れていってしまっていることの証左であると言えるでしょう。
昨今の主食用のコメの需要減少は、消費者の食のニーズの変化からくるコメ離れとコロナ禍による外食需要の減少のダブルパンチが効いていると言えます。
これから考えたい
コメの販売・マーケティング
では、今後、コメの生産者や販売事業者などは、需要減少・価格下落の状況の中で、どのような戦略を描けば良いでしょうか?
ここでは、いくつか、その切り口を考えてみたいと思います。
①輸出に力を入れていく
国内マーケットの需要が減少していくのであれば、海外に目を向けるのも一つの手段です。農林水産物・食品の輸出額は、最初の政府目標であった1兆円を達成し、次は5兆円を目指すとされています。そのため、積極的な政府の補助なども得られることが期待できますし、コメの輸出も伸びているマーケットです。国内だけではなく、世界に目を向けてコメを販売することを考えるのも、これからは重要です。
②コメの生産性を高める
国内でのコメの価格がどうなろうと、確実に収益があげられる生産体制を構築するのも一つの方法です。機械化・自動化などを駆使して、低コストに米の生産ができれば「薄利多売」で経営を成り立たせることができます。大規模にコメの生産を行いたい場合は、この生産性向上が肝となります。
③徹底した差別化で付加価値を付けて販売する
上で述べた②は生産コストを最大限に引き下げることで、安い米価でも利益を出す、ということでしたが、その逆のアプローチとして、当然ながら「通常のコメよりも高い単価で売れるコメを生産・販売する」という付加価値型のアプローチも可能です。
この方法をとる場合、一般的なコメとの違いをしっかりと消費者に訴求すること、いわゆる差別化が重要となります。食味、生産方法、圃場、肥料、栄養価……など、様々な切り口で差別化のポイントを探し、それを伝えなければなりません。また、付加価値型の場合は「通常のものとは違う」ということで独自の名前を付けてブランド化していくことも求められます。
④加工なども含めた新しい商品や販売方法を生み出す
例えば、ポン菓子をベースに朝食用のコメのシリアルをつくるとか、ガシャポンでコメを売るといった、「今までにない商品や販売方法」を生み出して、コメの販売を増やしていくアプローチです。
良く聞くイノベーションというものですが、なかなか生み出すことも、それがヒットすることも簡単ではありません。常にコメの販売や加工品のことを考え、思いついたアイデアをとりあえず形にしてみて…といった試行錯誤・トライアンドエラーが重要となります。既存の常識を捨てて、挑戦してもらいたいアプローチです。
以上、現状を踏まえた4つの切り口を紹介しました。そもそも国内における新たなコメの需要創造や消費喚起が必要である、と言えますが、それは業界全体の大きな枠組みで考えていく必要があります。コメの需要や販売をどうしていくのか、業界全体で大きな需要創造・消費喚起の取り組みを行いつつ、個々の生産者や販売事業者も自分達で考えて動いていく必要があるのです。
筆者プロフィール
公益財団法人 流通経済研究所
主席研究員 折笠俊輔氏
小売業の購買履歴データ分析、農産物の流通・マーケティング、地域ブランド、買物困難者対策、地域流通、食を通じた地域活性化といった領域を中心に、理論と現場の両方の視点から研究活動・コンサルティングに従事。日本農業経営大学校 非常勤講師(マーケティング・営業戦略)。