社会を飛躍的に変える!? 「SIP」次世代農業分野
2017/01/10
内閣府直轄プロジェクト、SIP。アグリビジネス創出フェアでは、「SIP」の一分野である農業に関する、「SIP次世代農林水産業創造技術」セミナーが行われ、「生産システム」、「施設園芸」、「新たな植物保護」の3つのコンソーシアムからプロジェクトが解説された。
「SIP」次世代農業分野
創造技術5年計画
SIPとは、内閣府直轄の科学技術イノベーション実現のために創設された国家プロジェクトのこと。社会的課題や日本経済再生に寄与する10の課題に取り組んでいる。実用化・事業化までを見据えて研究開発し、社会を飛躍的に変える科学技術イノベーションを推進している。
「SIP」の一分野が農業であり、それに関する「SIP次世代農林水産業創造技術」セミナーが、去る12月15日に開催された。セミナー冒頭に、本プロジェクトの概要を解説したのは、北海道大学教授であり農業分野のプロジェクトリーダーである野口伸氏。SIP次世代農林水産業創造技術プロジェクトは5年計画とされており、今年が3年目にあたる。
プロジェクトには二つの重点目標が設定されている。一つは日本型の超省力・高生産なスマート農業モデルの構築。水田農業と施設作物を対象としている。もう一つは、新素材開発等による農林水産物の高付加価値化である。健康機能性による海外製品との差別化と、新素材開発による新たな地域産業の創出により実現する。
<アグリビジネス創出フェア 「SIP次世代農林水産業創造技術」セミナーにて登壇する野口氏。>
3つのコンソーシアムが
プロジェクトを解説
■生産システム
「生産システムコンソーシアム」は、一つ目の重点目標である超省力化・高生産なスマート農業モデルの構築に寄与する。圃場における各種センシング情報や、気象情報等を基に多圃場における農作業を最適化するシステムを構築。自動化された農機と自動水管理システムとの連携により、農業従事者一人当たりの作業可能面積を倍増させて、生産コストを大幅に削減することや、これらを統合した技術をパッケージ化することで、農家の所得向上を目指している。
今回の講演では、ビッグデータの収集・活用、自動作業・水管理のインテリジェント化の各工程について、それが実現することでどのようなメリットがあるのか、また現在の進捗状況について解説された。
■施設園芸
「施設園芸コンソーシアム」の講演では、統合オミクス情報を利用したトマトの体系的最適栽培管理技術の開発が説明された。これも一つ目の重点目標に関する取り組みだ。オミクスとは、生物の体の中にある分子全体を網羅的に調べる学問のこと。植物体内の分子変動から生理機構を解明することで、これまでのトライアンドエラー的な農業からの脱却を図っている。
日本型のトマトがターゲットとし、生物情報工学的手法を用いて最適な栽培管理条件を選抜、それを植物工場で実証する。マニュアル化・プログラム化して品種とパッケージ化することで、普及・社会実装・海外展開を目指していることが説明された。
■新たな植物保護
「新たな植物保護コンソーシアム」は、「トマト地上部病害虫の新防除体系の開発」と題して行われた。「殺虫から制虫へ」を念頭に置き、殺虫剤使用量の半減、高品質なトマト生産、失敗しない病害虫防除、地域に根差した生産体系の構築を目標としている。
講演では、害虫の天敵であるタバコカスミカメの導入方法と、忌避・交尾阻害効果のあるアセチル化グリセリド使用のパッケージ化により実証試験を実施中であることが説明された。減農薬の実現により、付加価値の高い栽培が可能になるという。
内閣府直轄プロジェクト「SIP次世代農林水産業創造技術」は、農業就業人口の減少と、忍び寄る高齢化という危機的状況にある日本農業の課題解決に向けて、着実に進行している。プロジェクト終了まで残り2年、さらなる進展と社会実装に大きな期待が掛かる。
Text:Reggy Kawashima