“可変施肥”の技術で肥料コストを低減できる? 経済効果は10aで2万3000円!
2020/01/16
施肥は作物の品質をより良くするために不可欠だが、過剰施肥は必要以上にコストがかかるだけでなく、かえって食味を悪化させる原因となる。そんなジレンマを解消するのが「可変施肥」という技術である。農業ジャーナリストの窪田新之助氏が説く連載コラム第5回。
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施肥量とコスト面のジレンマ
北海道最大の畑作地帯である十勝地方を車で回っていると、土の色が黒と茶でまだら模様になっている畑が散見される。色むらが生じているのは火山灰土と赤土が混ざっているため。そのほかさまざまな理由で地力にむらは生じるので、何とかしてなくしたいというのは、作り手としては変わらぬ思いだろう。
そのためには畑でいくつかの地点で土をサンプリングして、土壌を診断することが10年以上前から推奨されてきた。その結果に応じて肥料の量を決めようというわけだ。
ただ、それはあくまでも畑全体の地力を把握する手段に過ぎない。だから一枚の畑で肥料を均一にまくことになる。結果、必要以上に施肥してしまう個所が出てくる。そうなると北海道の畑作四品目では、馬鈴薯なら食べたときのホクホク感と関係するデンプン含有量が、甜菜(=ビート)なら水分やアミノ酸含有量が高まって糖度が低下する。もちろん肥料のまき過ぎはそれだけ余計な出費となる。
衛星とドローンのデータで
地力を把握
それを解消するために北海道で最近広がりつつあるのが可変施肥。名前の通り、一枚の畑の中で生じている地力のむらに応じて、地点ごとの施肥量を微妙に変えていく技術だ。
この技術を使うには、まずは地力を把握しなければいけない。その方法はいくつかある。ここでは帯広市にある㈱ズコーシャ(農業・環境・まちづくりにフォーカスした総合コンサルタント会社)の取り組みを紹介しよう。
同社は農家に向けて、農地の肥沃度について地図上で色分けした情報を提供している。その情報を作るため、まずは衛星データを基に地力のむらが顕著に生じている畑を特定する。続いてその畑でドローンを飛ばして撮影し、その画像を解析して先の情報を作り出す。それを顧客である農家に伝える。農家はそのデータを可変施肥機に取り込む。あとは可変施肥機を畑で走らせるだけだ。
面積拡大の中で重要さは増す
気になるのはその経済効果。同社が見せてくれたのは、北海道の畑作四品目のうち甜菜と馬鈴薯について。甜菜の試験をみると、三つの圃場でのデータがある。最も効果があったところでは、10a当たりで肥料は8528円を減らせた。さらに収量は同1万4771円増えた。つまり、経済効果は総計で同2万3000円になる。
十勝地方では平均的な経営耕地面積は40haを超える。この経済効果を経営耕地面積に換算すれば、相当なコストダウンになる。もちろん可変施肥機を購入するにも数百万円がかかるというので、導入するにも簡単ではない。とはいえ、道内では個々の経営耕地面積がだんだんと広がる中で、検討の余地は十分にある技術なのではないだろうか。
PROFILE
農業ジャーナリスト
窪田新之助
日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人RobiZyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。福岡県生まれ。