無農薬・減農薬でも規模拡大! お米の高付加価値化を実現する若手農家のノウハウに迫る
2020/08/19
日本随一の“米どころ”である新潟県南魚沼市で、お米の高付加価値化を実現して規模を拡大している生産者がいる。そのノウハウと美味しいお米に懸ける想いをここでご紹介しよう。
6年連続金賞受賞!
自然環境と共生する
無農薬・減農薬に懸ける
水稲で規模拡大と聞けば、広大な圃場を大型の農機で作業する光景を思い浮かべるはずだ。そんな一般的な規模拡大とは異なる手法で成長を続けているのが、新潟県南魚沼市の関農園だ。管理する水田の面積は16ha。絶対値としては大規模ではないが、そのうち3haが有機無農薬、残りは減農薬と、一際手間の掛かる農法であることを考えれば、かなりの規模と言って良いだろう。
南魚沼市は、越後山脈、魚沼丘陵、谷川岳などの名峰に囲まれて形成された魚沼盆地にある。
関農園は代々米作りをしてきた水稲専業農家。右端が代表取締役の智晴さん。スタッフさん2名を挟み左が先代のお父様。
関農園は、日本随一の米どころの南魚沼市にあって、とびきり美味しいお米を作っている。米・食味分析鑑定コンクールの国際大会で6年連続金賞(そのうち5回は国際総合部門金賞)を受賞、ギネス記録世界最高米には4年連続で認定されている。関農園のお米が特別であることには、理由がある。有用微生物群で有機肥料を一年程、醗酵、分解させたボカシ肥料を使用しているのだ。
美味しさの秘密の一つが、ボカシ肥料。自宅脇の作業場にて、米ヌカを主体に魚粕、海藻、カニ殻を有用微生物群により発酵、熟成させて自作している。
「ボカシ肥料は父の代から試行していたものを発展させました。私が本格的に米作りに取り組むようになった当初は、美味しさの追求を重視していましたが、ボカシ肥料が土と自然環境を豊かにしてくれることに気が付いたのです」と、関農園の代表である智晴さんは語る。
「朝ウチの田んぼに行くと、もの凄い数のアキアカネがワァっと一斉に飛び立つんですよ。6月下旬にはホタルを見ることもできます。そんな環境で米作りをしているうちに、いつの間にか、この南魚沼の水田と、ここに暮らす生き物を大切にしたいという想いに駆られまして……それで水田微生物や小動物など自然との共存が可能な環境保全型農業を始めました。美味しいうえに安心・安全なお米をお客様はもちろん、自分の家族や大切な人たちに食べてもらえることになるのだから、迷うことはありませんでした」。
生き物も豊かな関農園の田んぼには、6月にはホタルが、秋になると絶滅が心配されているはずのアキアカネの大群が舞う。
美味しさはもちろん、食の安心・安全だけでなく、環境保全型農業への理解は高まっており、無農薬や減農薬でも、やり方次第では慣行農法よりも利益を求めることも可能だ。関農園の圃場でも「収量にしても、当園では田植えさえしてしまえば、その後ほぼ田んぼに入らなくても(除草作業をしなくても)8俵は穫れている」という。
規模拡大は目的ではない
小さくても「世界一」に
智晴さんの言う「やり方」というのは、栽培技術のみならずビジネスも意味する。関農園では自社で直売所を運営しつつ、オンラインショップを構築して直販を行っている。
またSNSなどを通じて、日々の作業の様子などをこまめに発信することでお客様とのコミュニケーションや信頼関係の構築に一役買っている。直販主体の経営のキッカケとなったのは、驚いたことに地元の感度の高い土産物屋さんであったという。
関農園代表の関智晴さん。プロスノーボーダーとして活動した後、家業の稲作を手伝ううちに稲作の面白さに魅了され『日本一美味しい米をつくりたい』と農家に転身。
「父の代ではJAに納めていました。特栽でしたから幾分かは高く引き取ってくれていましたが、それでも労力や生産コストを考えると、その金額で納め続けるのは厳しかった。一方で、私は『世界一のお米を作りたい』という夢があったから、この農法を続けたかったのです。
そこで、自社ウェブサイトやオンラインショップの準備を行いながら、まずは近隣の土産物屋さんにお願いして、お米を置いて頂いたところ、『美味しい!』と言ってリピーターになってくださるお客様の口コミが広がってくれました。ちょうどその時期に、自社で運営するオンラインショップの構築を終えていたので、名前を覚えてくださったお客様が、直接オンラインショップに来て購入して頂けるようにもなりました」。
自ら販路を築きブランド化を実現した『関家のこだわり米 令和元年度米 無農薬・無化学肥料栽培米5kg』は、今では1万円で直販されている。
除草作業の省力化を図るため
紙マルチ田植機を導入
そんな関農園が導入したのが、三菱農機の紙マルチ田植機だ。紙マルチ田植機とは、田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めて田面への日光を遮断することで雑草の生長を抑制する、無農薬栽培に貢献するために開発された三菱独自の田植機である。
「最初は知り合いの農家の方から譲っていただいた中古の機械を使っていましたが、その効果は明らかだったので今シーズン新車を購入しました。無農薬や減農薬で栽培すると、とにかく除草作業が大変です。それまでは自分やスタッフも総出で、文字通り『地べたに這いつくばる』ように除草していたので、少しでも効率化出来たら……と思っていたんです。機械の導入で、除草作業にかける時間と手間暇を大幅に減らすことができました」。
三菱農機の紙マルチ田植機で田植えを行う。田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで、雑草の生育を抑制する。
現在は、徐々に規模も拡大し、空いた時間を他の仕事に振り分けることができているとのこと。販路拡大やウェブサイトに手を入れたりと、生産コストはもちろん、機械の導入など決して安い投資ではありませんから、時間を作りやりたかったのに手が回らなかったことに新たに取組むことで利益を生み出せる体制づくりを進めている。
今後の目標について、智晴さんは「正直に言いますと、規模拡大はそんなに目指していないんですよ(笑)。このご時世ですから頼まれることは少なくありませんが、無理して大きくする気はありません」と続ける。
「今の夢は『直売所で提供しているおにぎりで世界一になる』こと。世界一のお米を作ることが出来たのですから、その世界一のお米で作ったおにぎりでも評価されたい。この南魚沼でも、やっぱり農家が減っていて、高齢化も進んでいます。全国どこもそうだと思いますが、担い手が減っているんです。ですから私が成功することで、若い人達が農業に興味を持ってくれて、南魚沼の農業が盛り上がったら嬉しいです」。
DATA
関家のこだわり米
関農園が作る世界一のお米は、地域の土産物屋さんやオンラインショップ『関家のこだわり米』、関農園の直売所(期間限定)で購入できる。直売所では、注文を受けてから握るおにぎりが絶品と評判だ。
紙マルチ田植機に関する問い合わせ
文:川島礼二郎
写真: Midori Kitamura
AGRI JOURNAL vol.16(2020年夏号)より転載
Sponsored by 三菱マヒンドラ農機株式会社