農業にブランディングデザインは必要なのか? デザイナーに聞く魅力と事例
2021/02/24
自社や製品をブランド化し、他とは違う“良さ” を伝えていくのが「ブランディングデザイン」だ。そのパイオニアである西澤明洋さんに、その概要と魅力を手ほどきしていただいた。
ロゴのデザインだけでは、
ブランド化には繋がらない
「ブランディングデザイン」という言葉を聞いた多くの方が、ロゴや商品パッケージ、パンフレットといった販促ツールの制作をイメージします。敏腕デザイナーの華麗なデザインにより、商品がどんどん売れる様子を想像するかもしれません。
しかし、ロゴもパッケージも、あくまでもモノを売るための手段に過ぎず、それだけでは事業者としての農家が成長するきっかけにはなりません。
例えば、道の駅で販売している生産物のパッケージを、デザイナーの協力のもと、斬新でスタイリッシュなものに作り変えたとします。魅力的なパッケージが話題を呼び、売り上げが伸びる場合がありますが、それは一過性のものに過ぎず、また元どおりの状態に戻ってしまう可能性が高い。
なぜなら、自社製品の特長を表現する「ブランドコンセプト」、今後の経営の筋道となる「経営戦略」ともに未熟なままだからです。
私は、ブランディングデザインは3つの階層に分けられると考えています。「M・マネジメント」、「C・コンテンツ」、「C・コミュニケーション」の3つです。
「マネジメント」はブランドコンセプトを含む経営戦略、「コンテンツ」は売る商品、「コミュニケーション」は商品を販売する手段のデザインです。この3つの階層のうち一つでも欠けたらブランディングデザインは成り立ちませんし、自社の成長もあまり期待できません。
ブランディングデザインの3つの階層
「自らの手で事業をマネジメントする」という意識をもつのがポイント。そのうえで生産物(コンテンツ)を手がけ、販路開拓するのが大切だ。「マネジメント」、「コンテンツ」、「コミュニケーション」を一貫して行おう。
ブランディングは
「伝言ゲーム」
消費者から「ずっと買い続けたい」「応援したい」と思ってもらうこと。ファンを獲得し、コミュニティにまで育てていくのが、ブランディングデザインにおけるゴールの一つです。
ここに至るには、どうすればいいか。まずは、自社や自社製品にある、キラリと光る魅力を明確にしましょう。それをブランド戦略からコンセプト、パッケージなどに落とし込みブランド全体に一貫性を持たせていきます。
そうすることで、人から人へと商品の魅力が広がっていき、本物のブランドが確立されていきます。つまり、自らの本質的価値が商品を通して、「伝言ゲーム」のように広がっていく仕組みを作るのです。
それと同時に、農家さん自身が意識を切り替え、経営者としての視点をもたなくてはなりません。経営者目線でニーズのリサーチや経営資源の見直しなどを行い、経営戦略を練る作業が必要になります。
適切な経営戦略のもと新たな販路を築き上げることができれば、自社の生産物は多くの人に認知され、おのずと売り上げも伸びていくでしょう。
今、農業界には“追い風”が吹いていると思います。インターネット通販の台頭に伴い、売買という行動のハードルが下がり、以前よりも格段に販路を開拓しやすくなりました。
また、自然豊かな環境で、やりたい仕事に励む農家のライフスタイルに憧れる人が、若者を中心に増えています。この“追い風”に乗り、農業界全体が成長することを願っています。
for example…オーレックの場合
草生栽培を可能にする自走式草刈機の製造・販売メーカーとして知られる「OREC(オーレック)」は、西澤さん率いる「株式会社エイトブランディングデザイン」の協力のもと、2013年にリブランディングに着手した。経営戦略やコンセプトの具現化をはじめとするブランディング、プロダクトデザインなどを行った結果、ブランドの認知度がアップ。売り上げや採用の応募人数の増加など、様々な好転があったという。
NEW ISSUE
『ブランディングデザインの教科書』
2020年12月に発刊された西澤さんの新著。企業経営に役立つ「ブランディング」と「デザイン」のノウハウが凝縮された1冊だ。農家経営者にとっても役立つ情報がたっぷり。
PROFILE
西澤明洋さん
株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。
文と写真:緒方佳子
AGRI JOURNAL vol.18(2021年冬号)より転載
Sponsored by オーレック