『黒富士農場』、平飼いへの大転換と普及を目指して。日本初の有機卵とは
2022/05/17
山梨県甲斐市、標高1100mの森のなか。ここに、無農薬の有機飼料を用い、平飼い放牧で鶏を飼育する農場がある。日本で初めてオーガニック卵(有機卵)の認定を受けた農場として知られる黒富士農場だ。
日本初の有機卵は
ストレスフリーの鶏から
日本で有機卵の認証制度ができたのは2005年のこと。黒富士農場は全国の農場に先駆けて、2002年から、有機栽培の世界基準(IFOAM※)を参考にしたオーガニックの採卵鶏事業をスタート。飼育条件、飼料、健康管理など厳しい有機JASの認定基準をクリアし、2008年7月、日本で初めての有機卵審査に合格したのだ。
※IFOAM……国際有機農業運動連盟。有機農業の普及に努める国際NGO。
放牧鶏たちは毎日午前8時から午後4時まで、鶏舎と放牧地を自由に行き来し、土や草、虫をついばんだり、木陰で休んだり、のびのび過ごす。自然浄化を基礎とする農法「BMW技術」を取り入れて活性堆肥を作り、鶏舎内の床下に敷き込むことで、臭気の発生を抑制。アンモニアなどの臭気は家畜にとってもストレスになるため、鶏のストレスフリーにも寄与している。
ミネラル豊富な天然湧水
さらに、ミネラル豊富な天然湧水や、非遺伝子組み換え(NON-GMO)飼料、腸内環境を整える自家配合の発酵飼料など、安全かつ健康的な飼料にもこだわり、鶏たちの健康を育んでいる。
「ストレスがないせいか、穏やかな性格で人懐っこい」と、専務取締役の向山一輝さんは話す。
専務取締役の向山一輝さん
子供の一言から平飼いへ転換
現在は平飼い技術支援にも尽力
日本の採卵養鶏場では、鶏舎内に籠を積み重ね、何万もの鶏を管理するバタリーケージによる飼育方法が主流だ。黒富士農場もかつては全羽ケージ飼いの大規模な養鶏事業を行っていたが、鶏舎を見学した小学生が発した「鶏さんがかわいそう」という一言をきっかけに、自然放牧卵生産への転換を決意。
借金をしながら、従来のケージ鶏舎を放牧が可能な鶏舎に大改造し、現在は18鶏舎のうち15鶏舎が平飼いへの転換に成功。今年中にはさらにもう1舎を転換する計画で、全舎平飼い化というゴールも目前に迫る。
アニマルウェルフェアを重視し、大規模なケージ飼いから平飼いへ大転換するという取り組みは、日本の畜産業においても画期的だといえるだろう。その経験とノウハウを活かし、近年、黒富士農場では、「平飼い技術支援」をスタート。一般企業や、ケージ飼いをしている養鶏場に対し、平飼いへの転換、あるいは、新たに平飼いを始めるための技術支援を行っているという(現在、4社を指導中)。
「平飼いの農家を増やすことができれば、アニマルウェルフェアにも貢献でき、日本の養鶏業界の発展にも繋がると考えています。ケージフリー(CF)率が向上すれば、きっと輸出力の底上げに繋がったり、地域の持続可能性も上がっていくはず。私達の活動によって、ほんの0.数%でもCF率が上がるのならば、とても誇らしいことと考えています」。
国内初の有機認証バウムクーヘン「有機ばうむ」など黒富士農場から生まれた原材料を元にした商品の開発、有機畜産物の加工品のも力をいれている。
DATA
黒富士農場
山梨県甲斐市上芦沢1316
0120-80-4105
文・写真/曽田夕紀子(株式会社ミゲル)