アグリテックやスマート農業を語り尽くす! 深谷市がアグリテック企業交流会を開催
2022/08/25
7月5日、アグリテックを用いた課題解決に取り組む埼玉県深谷市と、新事業の創出などに取り組む一般社団法人AgVenture Labにより、アグリテック企業交流会が開催された。当日は、アグリテックにまつわる各所での取り組み、現状や未来についての見解などが紹介された。
複数のアプローチで
農業を盛り上げる深谷市
埼玉県の北部に位置する深谷市は、ブランド野菜「深谷ねぎ」をはじめ、さまざまな野菜が産出されている地域。深谷市の農業をさらに盛んにすることを目的に、2019年、市が主導するかたちで「DEEP VALLEY(ディープバレー)構想」というプロジェクトが立ち上げられた。ちなみに「DEEP VALLEY」というネーミングは、「深谷」という漢字を「深(DEEP)谷(VALLEY)」と英語表記した結果、得られたもの。また、革新的な企業が集う米・シリコンバレーをイメージしたネーミングでもあるという。
「アグリテック企業交流会」の冒頭、深谷市・産業振興部に所属する福嶋隆宏さんが登壇し、「DEEP VALLEY構想」の詳細を解説した。
「『DEEP VALLEY構想』の根底には、『産業をブランディングする』『農業を儲かる産業にする』といった方針があります。これらの方針のもと深谷市は、おもに3つの取り組みに注力しています。新たな企業を誘致するための取り組みである『アグリテック集積戦略』、人を呼び込むことを目的とした『野菜を楽しめるまちづくり戦略』、『地域通貨 negi(ネギー)』の3つです」。
「アグリテック集積戦略」は、農業課題を解決するアグリテック企業を深谷市に誘致すること、地域の農業分野において産業集積を行うことを目的としている。なお、産業集積を進めるための取り組みの一つに、2019年より深谷市で毎年開催されているアグリテックビジネスコンテスト「DEEP VALLEY Agritech Award」がある。このコンテストは、農業の課題の解決に貢献するテクノロジーを創出する企業を発掘・表彰するもので、受賞者には最大1,000万円の出資金が授与される。
一方の「野菜を楽しめるまちづくり戦略」は、市外や県外から人を呼び込み、農業と観光を活性化することを目的とした取り組み。すでに深谷市内には、「株式会社キユーピー」による野菜を楽しめる複合施設がオープンし、この秋には「三菱地所・サイモン」によるプレミアムアウトレットモールがオープン予定である。また、「地域通貨 negi」は、電子技術のもと運用されている深谷市独自の通貨で、地域経済を元気にすること、地域や環境の課題解決に貢献することを目的に運用されている。
スタートアップを輩出する
注目のプログラム
イベントでは、「一般社団法人 AgVenture Lab」の専務理事・落合成年さんも、ゲストスピーカーとして登壇。同法人が主体となって運営する「AgVenture Lab」の概要と、これまでの取り組みを紹介した。
「AgVenture Lab」は、「農林中央金庫」や「全農」などJAグループ全国連8団体により、2019年に創設されたイノベーションラボ。創設以降、一般企業や大学、行政と共同で、新しい事業の創出や社会課題の解決などに取り組んでいる。なお、落合さんいわく、「AgVenture Lab」は、農業だけでなく、食に関連する課題の解決にも尽力しているという。
「農業は、生産現場だけで完結する産業ではなく、流通や金融、生活者の暮らしなど幅広い領域に影響を与える産業です。『AgVenture Lab』は、この点に注目し、農業現場と農業に関わる産業すべてを応援するというスタンスをとっています」
「AgVenture Lab」が展開している具体的な活動は、農業や食に関連したイベントの企画・開催、スタートアップ企業の支援など。なお、なかでも目立った活動として、「AgVenture Lab」が創設された2019年より実施されている「JAアクセラレータープログラム」が挙げられる。このプログラムは、革新的なアイデアや技術をもつスタートアップを募集・選抜したうえで、短期間で集中的に成長支援するというもの。最終的に、新しいビジネスやサービスを生み出すことを目的としている。
現在にいたるまでに「JAアクセラレータープログラム」で採択された企業は、全24社。採択された企業には、自動収穫ロボットの開発などに取り組む「AGRIST株式会社」、農業や水産業で活用できる光合成細菌の培養キットを開発・販売する「株式会社Ciamo」、作り手と産地のストーリーを全面に出したカタログギフトを提供する「株式会社地元カンパニー」などがある。
多くの魅力を備える
自律走行型農業ロボット
続いてゲストスピーカーとして登壇したのは、「株式会社レグミン」の代表取締役・成勢卓裕さん。株式会社レグミンは、深谷市の協力のもと、農作業ロボットやIoTデバイスの研究開発事業などを展開する企業。今年2月には、自律走行型農業ロボットを活用した農薬散布サービスの提供を開始した。
出典:株式会社レグミン プレスリリース
講演において、成勢さんは農薬散布にまつわる現状と課題を次のように語った。
「深谷市は、全国的にみても気温の高い地域で、夏場は40度前後になることも。そうしたなか、防護服を着用して農薬を散布するのは大変な重労働です。また、農薬の散布作業は知識と経験を要する作業なため、多くの場合、ベテランの農家しか担うことができません。つまり農薬の散布作業は、労力面とコスト面の双方において、負担の大きな作業なのです」
農薬を散布する際の労力とコストを軽減するべく同社が企画・展開したのが、自律走行型農業ロボットを用いた農薬散布サービス。同社には自律走行型農業ロボットだけでなく専門のオペレーターも常駐しているため、サービスの依頼をした農家は、農薬散布に関連した作業を一式、同社に任せることができる。また、同社の自律走行型農業ロボットには、そのほかのメリットも。例えば、音が静かなため住宅に囲まれた圃場でも使用可能、軽トラでも運搬できるため圃場間を容易に移動できる、といったことがあるという。
なお、今後も同社の自律走行型農業ロボットは、進化する予定。「現状、弊社のロボットは完全に自律走行ができるわけではなく、一台のロボットに対して一人の管理者がつく必要があります。今後、ロボットの自動化レベルを上げていき、一人が複数台のロボットの運行を管理できるようにしたいと考えています」と、成勢さんは展望を語った。
スタートアップの動きが鍵を握る
イベントでは、福嶋さんのモデレートのもと、落合さんと成勢さんによるトークセッションも行われた。テーマは、「アグリテックやスマート農業の現状と未来」。トークセッションの冒頭、落合さんはアグリテックやスマート農業の現状について、次のように見解を述べた。
「アグリテックやスマート農業という言葉から、広大な圃場を巨大な自動収穫機が駆動する様子や、自動収穫機が玉ねぎやじゃがいもを次々と掘り起こす様子を思い浮かべる人が多くいるでしょう。しかし、アグリテックやスマート農業において、我々が重きを置いているのは、もっと緻密な技術です。
具体的には、自動判別機能などが搭載されており、繊細な動きをもって作物を収穫するようなロボットの存在を重視しています。つまり、センサーやデータを活用した技術こそ、アグリテックやスマート農業における重要な領域だと考えています。まだ改善の余地はあるようですが、こうした技術はかなり実用的なものになったと捉えています。近い将来、国内外で高度な技術が反映されたロボットが当たり前のように使われるようになるでしょう。ただ、非接触で圃場の状態を数値化する『センシング技術』には、改善の余地が多分にあるようです。『センシング技術』が実用化されるまでには、まだ時間がかかるでしょう」
また、トークセッションでは、アグリテックやスマート農業を新産業として育てるためのアクションについても、議論が交わされた。
「アグリテックやスマート農業に関わるスタートアップは、それぞれが現場における課題を把握しており、それを解決するビジネスを展開しているはず。スタートアップ企業が単独ではなく、互いに結びつき合いながらビジネスを展開していくことでシナジーが生まれ、アグリテックやスマート農業の成長速度がアップするでしょう」と語ったのは、落合さん。
これに対し、成勢さんは「スタートアップ同士が結びつき、小さなソリューションを集めて共有するのは大切です」と同意したうえで、「スタートアップの数を増やすという視点をもつのも、アグリテックやスマート農業を育てるうえで有効だと思います。M&Aなどを活用した出口戦略を積極的につくることで、アグリテックやスマート農業の業界に人をより呼び込みやすくなるでしょう」と意見を述べた。
トークセッションの終盤でテーマとなった「今後の農業におけるアグリテックやスマート農業の重要性」について、落合さんは「今後、データを取得し、圃場の環境を把握することがさらに求められるでしょう。例えば、昨今は肥料の価格が高騰しており、圃場で使用する肥料の量を少しでも減らすことが求められていますが、これを実現するうえでは『圃場の環境の見える化』が必要です」とコメント。また、成勢さんは「世界的にみて日本の『食』はレベルが高く、将来、『食』の分野において日本が世界をリードする可能性があります。加工や輸出といった産業を活発化させるためにも、まずはアグリテックやスマート農業を使って現場の生産性を上げていきたいと考えています」と展望を語った。
問い合わせ先
深谷市公式ホームページ
DEEP VALLEY公式ホームページ
AgVenture Lab公式ホームページ
取材・文/緒方佳子