注目される『バイオ炭の農地施用』。温暖化対策に加え、Jクレジット活用で収入アップにも期待!
2025/03/17

J-クレジット制度を活用してバイオ炭を農地に施用することで、農業生産者は収入を得ることができる。それを実現する方法やメリット等を簡単に説明しよう。
温暖化対策にも期待!
バイオ炭の農地施用
そもそもバイオ炭とは、「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」と定義された「炭」のこと。
「炭」の前にある「バイオ」は、「バイオマス原料」から作られたこと、を示す。原料となるバイオマスには、木材、家畜ふん尿(鶏ふん炭など)、草本、もみ殻(もみ殻くん炭など)、木の実、下水汚泥由来のもの、などがあげられる。
炭は古くから、土壌改良材や肥料として広く使われてきた。炭には土壌改良効果があり、原料によって効果は異なるものの、土壌の物理性(透水性・保水性・通気性)と化学性(酸性土壌をアルカリ性に矯正)とを改善する効果が期待できる。バイオ炭の農地施用は、土づくりに利用できるのだ。
出典:農林水産省農産局農業環境対策課「バイオ炭をめぐる事情」
今、バイオ炭が注目されている理由は、別にある。それは、「バイオ炭はバイオマス原料を炭化してから農地に施用されるため、炭素を農地に長期間貯留できる」という事実である。
炭素を農地に貯留する=二酸化炭素の放出を減らすことで、地球温暖化対策に寄与するためだ。
出典:農林水産省農産局農業環境対策課「バイオ炭をめぐる事情」
また、令和4年4月に公布された「みどりの食料システム法」にあるように、農業生産現場のみならず調達・流通・消費という食料にかかわる関係者(すなわち全国民)が、意識と行動を変える必要がある。その1つの取り組みが、バイオ炭の農地施用である、ともいえる。
バイオ炭の農地施用で収入を得る
J-クレジット制度を活用しよう
そんなバイオ炭の農地施用が2020年9月、J-クレジットにおいてクレジット化の対象になった。
これは農業生産者にとっては、バイオ炭の農地施用が温室効果ガスの貯留活動としてクレジット化され、収入を得ることができるようになった、ということである。
出典:J-クレジット制度
ここで今一度、J-クレジット制度を復習しておこう。同制度下では、定められた方法(方法論と呼ぶ)で温室効果ガス排出を削減すると、その削減量をクレジットとして国が認証してくれる。この認証されたクレジットを販売することで、クレジットを生産した者は収入を得ることができる。
方法論に沿って温室効果ガス排出削減を行うこと、取り組む前に事前にプロジェクトを登録すること、が必須だ。方法論は多数あるが、農業分野は6つ。
今回ご紹介している「バイオ炭の農地施用」のほか、「牛・豚・ブロイラーへのアミノ酸バランス改善飼料の給餌」・「家畜排せつ物管理方法の変更」・「茶園土壌への硝化抑制剤入り化学肥料又は石灰窒素を含む複合肥料の施肥」・「水稲における中干し期間の延長」・「肉用牛へのバイパスアミノ酸の給餌」である。
農業生産者は、プロジェクトに参加する(プログラム型)か、自身単独でプロジェクトとして認証を受ける(通常型)かで、J-クレジット制度を活用した『バイオ炭の農地施用』の活動を実施できる。
農業生産者や農業生産者が参加するプロジェクトの取りまとめ団体・企業は温室効果ガス削減量をクレジットとして販売することで、売却益(収入)を得ることができるほか、温暖化対策に積極的であることをPRできる、制度に関わる企業や自治体等と関係を構築できる、などのメリットがある。
クレジットを購入する企業・自治体は環境貢献団体としてのPRや自社製品・サービスの差別化等に活用できる。
プロジェクトの申請から認証まで
どう進める?
『プログラム型』と『通常型』2つのタイプから選ぼう!
JA、自治体、企業等、コンサル、商社等がとりまとめることが想定される『プログラム型』プロジェクトに参加する方法と、1人の生産者から申請できる『通常型』プロジェクトを始める、という2パターンある。
『プログラム型』なら、プロジェクト登録やクレジット認証・発行の手続きをとりまとめ団体が代行してくれるので、比較的簡単に取り組みやすい。
J-クレジット制度においてプロジェクトとして認定されるには、適用条件を満たす必要がある。
●条件1
バイオ炭を、農地法第2条に定める「農地」又は「採草放牧地」における鉱質の土壌に施用すること。
●条件2
燃焼しない水準に管理された酸素濃 度の下、350℃超の温度で焼成されていること。
●条件3
バイオ炭の原料として木材を使用する場合、国内産のものであること。
●条件4
バイオ炭の原料は、未利用の間伐材など他に利用用途がないものであること。(燃料用炭の副生物も条件を満たす)
●条件5
バイオ炭の原料には、塗料、接着剤等が含まれていないこと。
●条件6
プロジェクト実施にあたり、環境社会配慮を行い持続可能性を確保すること。
この条件は客観的に証明されねばならない。同じJ-クレジットの農業分野の方法論である「水稲における中干し期間の延長」と比較するとわかるが、手順は複雑であり、また実物(バイオ炭)を生産し施用する、という大変な作業をともなうため、個人として「通常型」に取り組むのは困難である。
ご興味を持たれた方は、プログラム型をおすすめしたい。
2025年2月末現在、プログラムは一般社団法人日本クルベジ協会、株式会社TOWING、株式会社未来創造部、NTTコミュニケーションズ株式会社、株式会社フェイガーが運営する5件であり、全国の農業生産者が加入できる。
ご興味を持たれた方は是非、上記の運営者にコンタクトして欲しい。
DATA
文/川島礼二郎