生産性の向上や労働力不足の対策に貢献! 注目の水稲湛水直播向けソリューション
2020/05/01
シンジェンタが水稲湛水直播向けソリューション「RISOCARE®(リゾケア)」を発表した。「RISOCARE」は、日本農業が抱える農業従事者の高齢化・減少による労働力不足の対策として貢献するという。いったいどのようなサービスなのだろうか?
農業従事者の高齢化と減少
労働効率を高め克服を
日本の水稲作では、古くから「苗半作」という言葉が使われている。「丈夫な苗を育てることができれば、稲の生育は半分成功したようなもの」という意味だ。それだけ苗を育てることが重要視されており、移植栽培は揺るぎない栽培法であると考えられてきた。
この「苗半作」は古臭い言い伝えでは決してなく、科学的に証明されている。丈夫な苗とひ弱な苗とを同じ水田に移植して秋に籾数を比較すると、その差は明確になる。
一方で、日本農業は労働面で大きな課題を抱えている。農業従事者の高齢化と減少とが、同時に発生している。それを克服するには、飛躍的に労働効率を高めたい。農地を大規模化したい生産者にとっても、中山間地の中小規模生産者にとっても、この悩みは同じはずだ。
RISOCAREによる苗立ちのイメージ
播種作業前に代かきをするのみ
水稲湛水直播向けソリューション
「RISOCARE」
そこで近年注目を集めているのが水稲湛水直播栽培。水田に苗を植えるのではなく、直接種を撒く栽培方法である。この水稲湛水直播向けのソリューション「RISOCARE」をシンジェンタジャパンが2021年から展開すると発表した。
移植栽培では、育苗ハウスの準備から始まり、種子消毒、育苗箱準備、播種、育苗、代かき、箱処理剤処理、苗出し、苗送りといった多くの作業を行わねばならない。
ところが「RISOCARE」による水稲栽培では、生産者は播種作業前に代かきをするのみ。コーティング処理された種子を受け取り、すぐに播種することができるという。シンジェンタジャパン・アグリビジネス事業本部の橋本さんが「RISOCARE」について詳しく教えてくれた。
「シンジェンタジャパンは日本の水稲農業の”持続的な発展”を実現するために、規模拡大を目指す担い手と、地域の農業生産を支える中山間地の生産者に貢献するため、複数の種子処理製剤と独自の種子処理技術から成るサービスを開発しました。それが”RISOCARE(リゾケア)”です。イタリア語の米”Riso”とシンジェンタ種子処理技術”Seedcare™”の造語なんですよ。
一般的に、直播栽培では、初期の苗立ちを確保することが、米の品質や収量を確保するうえで大切になります。ところが実際の水田では、マニュアル通りに圃場の均平化や田面の硬さ調整ができないため、種子が水没したり、土中に埋没してしまい、健全な苗立ちを確保できないことがあるのです。
また、倒伏や水・雑草管理の難しさなどから、せっかく直播に挑戦しても、やめてしまう生産者が多い、というのが現状でした。そこで”RISOCARE”では、このような直播栽培導入時の主要な失敗のリスクを減らし、直播栽培が本来持っているポテンシャルを引き上げることを目指しました」
RISOCARE処理済種子のイメージ
具体的には、「RISOCARE」では、どのように主要な失敗のリスクを減らすのだろうか?
「“RISOCARE”では、独自の種子処理技術による複数の種子処理製剤の組み合わせにより、安定した苗立ちを実現します。一つ具体例を紹介しましょう。
あまり知られていないのですが、水稲湛水直播栽培での苗立ち不良の原因の一つに、苗腐病という病気があります。この病気は、主に種子が水没した状況下で、ピシウム菌という病原菌が引き起こします。RISOCAREにはこの苗腐病を防除する殺菌剤が含まれており、安定した苗立ちの実現に貢献する一つの要素となります。
まだ全ての情報を明かすことはできませんが、このような技術を駆使して、安定した苗立ちを実現します。今後、追加情報をお知らせできる段階になったら、Webやメール、SNS等を駆使して、随時、皆様にお届けしていきます」
生産者が気になるであろう供給する品種については、当初はコシヒカリなどの主要な数品種で展開する、とのこと。その後、各地域のニーズを拾い上げ、指導機関等のアドバイスを参考にして対応品種を拡大する予定である。
規模拡大や生産性の向上
労働力不足の対策に貢献
ところでシンジェンタのリリースには「規模拡大を考えている担い手生産者、中山間地の効率化が必要な生産者・集落営農組織」が対象であると記載されている。この二つの属性の生産者が抱える課題は異なるはずだが、それぞれに対して具体的に何を提供するのだろう?
「規模拡大を考えている担い手生産者は、直播と移植栽培を組み合わせることで、作期分散が出来、労働力の効率化を実現できます。また、これにより一層の規模拡大と、一人当たりの生産性の向上に貢献できると考えています。
失敗のリスクを軽減できるRISOCAREであれば、これまで直播栽培に取り組んだことがない生産者でも安心して取り組んでもらえると考えています。
また、RISOCAREは従来の直播技術よりも細やかな水管理を必要としないので、水管理に割かれていた作業時間を減らすこともできるんですよ。この辺りの技術の詳細も、追って公開予定です。
一方の中山間地の効率化が必要な生産者・集落営農組織は、これまでは大型の機械導入が難しい、あるいは細やかな水管理ができない、といった理由から、直播の導入が出来ていなかったと思われます。
RISOCAREであれば安定した苗立ちが期待できますし、ドローンや背負式動力散粒機による散播を導入することで直播の導入が可能となります。
これにより春先の作業時間を大幅に短縮するとともに、苗運びなどの重労働からも解放されます。中山間地の効率化や高齢化による労働力不足の対策として貢献できると考えています」。
世界のシードケア インスティテュート
※シードケア インスティテュート ジャパンは2020年4月1日に設立予定
「実は当社は、今回の”RISOCARE”の発表にあわせて、シンジェンタジャパン中央研究所内(茨城県牛久市)にシードケア インスティテュートを日本に設立します。シードケア インスティテュートとは、現地市場のニーズに応えるグローバル基準の種子処理に関するサービスを提供する施設および専門家のネットワークのこと。
種子処理方法(レシピ)の開発だけでなく、品質管理・加工生産技術、スチュワードシップ、トレーニング、種子に対する安全性・効果の確認等シードケアに関する包括的なサービスを提供します。ちょっと難しく聞こえてしまうかも知れませんが、それだけ当社が”RISOCARE”に本気で取り組む、ということです。是非、ご期待ください!」
DATA
文:川島礼二郎