地域一丸となって立ち向かえ! 連作病害にも負けない、中山間地域の星『飛騨トマト』
2021/07/28
日本の耕地面積の約4割を占める中山間地域は、農地の集約化や大型機械の活用が難しく、特に苦しい状況にあると言われている。そんな中山間地域にあって、高品質なトマトで着々と地位を築いている地域がある。
飛騨地域の星「飛騨トマト」
県土の約8割が森林という“森の国”である岐阜県。豊かな森林資源を誇るその地形は、農業にとっては難敵だ。そんな中山間地でありながら、地域のニーズに合致した技術を開発して着実にトマト生産を続けているのが飛騨地域だ。農業生産者、県(研究所)、JAが一体となり、興味深い取組みが行われている。高山蔬菜出荷組合トマト部会長・兀下大輔さんが教えてくれた。
「高山地区では、特に夏秋トマトには力を入れていて、出荷規模は全国1位※。ここのトマトは『飛騨トマト』と呼ばれ、飛騨蔬菜出荷組合トマト部会の生産者が出荷しています。高山地区のトマト部会には50名が所属し、最近は新規就農者も増え、青年部には15名が所属。積極的に情報交換し、トマト栽培を盛り上げています」。
※JA内の一産地における出荷規模が夏秋期に限定した場合全国1位
夏秋トマト「麗月」
サカタのタネが開発した夏秋栽培向けの大玉トマト。果実は豊円、果色・色回りに優れ、極硬玉で日もちが極めて良好。裂果の発生が非常に少なく、赤熟収穫が可能。肉質も良好である、食味も極めて良い、と評判だ。JAひだ管内では 78%のシェアを誇る。
トマト単収の伸び悩みを解決
「3Sシステム」
JAひだのトマト栽培では、ある共通する悩みを抱えていた。同一圃場での連作が長年続き、土壌病害発生などの要因で単収が伸び悩んでいたのだ。それを解決すべく開発されたのが『3Sシステム』だ。
『3Sシステム』による不織布ポットを用いた少量培地がずらりと並ぶ様子
岐阜県中山間農業研究所の浅野雄二さんはこう説明する。
「地域で広がっていた連作による土壌病害を低コストで回避・高収量を実現するのが狙いでした。システムを簡単に説明すれば、不織布ポットを用いた少量培地による養液栽培です。既存の養液栽培よりも低コストながら単収20tを超え、実際に増収を実現。『3Sシステム』に合う品種選定にも取り組んだ結果、『麗月』が適していました。高秀品率の上に見た目も食味も良好。この『3Sシステム』+『麗月』にスマート農業を組み込む事例もあるんですよ」。
「3Sシステム」+「麗月」とは?
不織布ポットを用いた培地量5Lという少量培地による養液栽培。黒球制御技術(気温と黒球内の温度差を利用)により、日射に対応した給液制御が可能。既存の養液栽培よりも低コストながら単収20tを超える。これに適した品種が『麗月』。一般的な品種は下から赤くなるが『麗月』はムラがない。パートさんなど収穫者の技量を選ばないのもメリットである。
環境制御システム
「アルスプラウト」どう活用?
その最新事例について話してくれたのは、高山地区の農業生産者・森本将成さんだ。この地域で『3Sシステム』+『麗月』による栽培が始まった時、先陣を切る形で挑戦した若者のうちの一人だ。
森本さん
「正直に言うと、スマート農業には興味がなかったんです(笑)。ところが浅野さんをはじめ周囲の方々がサポートしてくださったので『アルスプラウト』を導入してみました」。
『アルスプラウト』とは、圧倒的な低コストで導入できる環境制御システムだ。低コストゆえ、小規模農業生産者や多棟分散でハウスを保有する農業生産者に最適なシステムと言える。森本さんは普段どのように活用しているのだろうか?
「毎朝「モニタリング」+「クラウド」の機能を使ってハウス内環境を確認、自宅に居ながらスマホでチェックできて便利です。また定植後くらいの時期、晴れると一気に気温が上昇。そんな時も「制御」機能でサイドカーテンの巻上げと連動させてあるので、自動で温度を下げることができます。以前は全て手動でしたから、ラクになりましたね。ハウス内環境の見える化は単収を上げる第一歩として重要ですが、『アルスプラウト』はそこから「制御」まで繋げていける。それが良かったです」。
「今は未だ勉強中ですが、まずは『アルスプラウト』の力を借りて、トマトのプロ、一人前になりたいです。私は常々、人と環境に恵まれていることに感謝しつつ、この地域でトマトを作っていることに誇りを感じています。早く一人前になって、将来は地区を引っ張って『飛騨トマト』を通じ地域に貢献したいです」。
地域課題を解決できる技術を開発して、それを地域全体がサポートする高山地区の取組みは、中山間地における農業の理想の形の一つだろう。
CHECK!
アルスプラウトとは?
圧倒的な低コストで導入できる環境制御システム。DIYで構築するから必要な機能だけを選び自分好みにカスタマイズできる。ハウス内環境を見える化する「モニタリング」、環境をコントロールする「制御」、離れた場所からでもハウス内環境を見ることができる「クラウド」の3機能を備えており、遠隔操作も可能。ハウス内環境を最適に保つことで、収量増と品質の向上にも役立つ。
左から浅野さん、森本さん、兀下さん
問い合わせ
サカタのタネ
TEL:0570-00-8716(お客様相談室)
写真:藤代 誉士
文:川島礼二郎
AGRI JOURNAL vol.20(2021年夏号)より転載
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