スマートアグリは導入期に突入!その動向と将来は?
2018/06/26
今まさに農業において、スマート化が着々と進行している。その動向と傾向について、業界団体である"日本農業情報システム協会(JAISA) "理事長の渡邊智之氏に聞いた。
浸透してきたスマート農業
データの付加価値化が活性化
「スマート農業という言葉自体に、新しさが無くなってきましたよね? それこそが、農業のスマート化が進行していることを示しているのです」。
元農水省職員であり、現在は日本農業情報システム協会の理事長を務める渡邊さんは開口一番、盛り上がりつつあるスマートアグリの現状について語ってくれた。
「当協会は2014年の3月に設立いたしました。スマート化で農業の活性化に貢献したい、と志高く取り組んでいる企業が集まり設立したわけです。以来、大小の波がありましたが、今まさに、ようやく導入期に突入したな、という実感があります。協会会員の事業規模が少しずつですが拡大しています。また当協会では全国各地でセミナーを開催しているのですが、その参加者に占める農家・農業法人の割合が目覚ましく増えています。いよいよスマート農業が現場レベルに浸透してきているのです」。
特に活性化しているのはクラウド関連分野だ。既にサービスとしてデータ収集による見える化が行われているが、現在進んでいるのはビッグデータ分析による情報の付加価値化である。具体的には、農業生産における様々なシーンにおいて一か八かではなく、AIなどを使ってビッグデータ分析により得たシュミレーションを行うという事である。これにより、農業生産に介在している多くのリスクを少しでも減らして行くのだ。
さらには、ここ10年の試行錯誤によって、1企業で実現できることが少ないことがやっと理解され、複数企業間の協業が盛んに行われはじめている。他社が保有するデータと組み合わせることで、お互いのサービスの付加価値を高めることができる。また農業分野で集めたデータを、医療や福祉業界と共に利用することで、「医食同源」に向けた新たな価値を生み出そうという動きもはじまっている。
ITベンダーや農業機械メーカーが農業データを連携する、農業データプラットフォーム「WAGRI」。
次に促したいのは
システム自体の輸出
日本におけるスマート農業の将来については、日本のスマート農業のプレゼンスを海外で高める動きを活発化させるべき、と話す。
「日本の農業は安全性や品質の高さから、そのプレゼンスは世界的に最高級レベルにあります。ところが現在農作物ブランドは、生産された場所に紐づいており、その品質や生産方法によって決められたものには必ずしもなっていません。
当協会では、日本の生産方法を「日式農法」として明文化して、システムそのものを農作物と一緒に輸出し、未曽有の人口増加に向かう世界のどこでも“日本の最高レベルの技術で作った新鮮な農産物”を食べられるようにすることで、日本の農業のプレゼンスを高めていく動きを促していきたいと考えています。また農家が血を滲むような努力をして培った日本の農業技術が知らない間に海外に盗まれていたなんて事もないようにします」。
着々と進行している農業のスマート化。渡邊氏は5月8日に、スマート農業の流れと現状が詳しくわかる『スマート農業のすすめ~次世代農業人【スマートファーマー】の心得~』を発売している。興味を持たれた方はチェックしてみてはいかがだろうか。
プロフィール
日本農業情報システム協会理事長
渡邊 智之氏
富士通株式会社にて宅内交換機、宅内電話機の開発に従事、その後事業企画部門へ異動し、医療・動物医療・農業に関するイノベーション創造に関与。スマート農業ソリューションの開発を主導。2012年より、農林水産省において農林水産現場の情報化推進担当。2014年に、ICTやIoT、AIなどスマート農業の利活用促進、人材の育成を目的とした日本農業情報システム協会(JAISA)を設立し、同協会の理事長を務める。農林水産業をITで支援し、安心・安全で高付加価値な農林水産物の物流などにより、イノベーションを起こし、さらには新たな職業や新たな雇用を生むことで、地域の活性化や地方創成に貢献する事を生業としている。
text:Reggy Kawashima