多くの農家にアイディアの還元を! 新潟県4Hクラブ前会長が取り組む”新技術開発”とは
2020/06/17
新潟県は、言わずと知れた米どころ。県内で生まれ育った金子健斗さんは、米作りに尽力するかたわら、メーカーや公益法人とタッグを組み、新たな農業技術の開発を行なっている。農業への思い、県内の農業界における動向などもからめつつ、活動内容についてお話しいただいた。
メイン画像:「新潟県農業改良クラブ連盟」の前会長・金子健斗さん
トレンドを考慮するのも
営農におけるポイント
米の産地として名高い新潟県。県内の各地では、「コシヒカリ」や「新之助」をはじめとするブランド米に加え、酒米、業務用米などが栽培されている。なお、「コシヒカリ」は、県内の農家が誇る一大ブランド。「誰もが、『うちで作ったコシヒカリが一番うまいんだ』というほど、県内農家のこだわりと情熱が込められたブランドですね」と、金子さんは話す。こうした伝統あるブランド米は、相変わらず高い人気を得ている。しかし、そのいっぽうで、安価な業務用や加工用の米の需要も高まっているそうだ。
「低価格の米が求められているのも、社会におけるトレンドの一つです。そうしたトレンドを鑑み、私もブランド米だけでなく、業務用の米を手がけています。世間のニーズに応じた作物を栽培するのも、営農における基本だと考えています」
金子さんが管理する圃場
県内では、ほかの地域と同様に農家の高齢化が進んでおり、担い手のいない圃場を若手農家や農業法人が作付けするケースが珍しくない。金子さんのもとにも、離農する農家から依頼があったという。そうした依頼をありがたく引き受けるうち、金子さんが管理する圃場の面積は徐々に拡大されたそう。この経験をもとに、金子さんが肌身で感じていることがある。
「時代が進むにつれ、地域の圃場は、大規模農家や農業法人のもとにどんどん集約されていくと思います。また、一つの農家が管理する圃場面積が広くなればなるほど、作業の効率化を求める風潮は、より強くなるでしょう」
自身の知見を
積極的に新技術に反映
近年、金子さんは米作りをするかたわら、全農と共同で肥料の試験開発に協力している。また、プライベートでも農業技術を追求しようと、農業普及センターやメーカーと、様々なの実証試験を行っているという。農作業の合間を縫うかたちで、新技術に時間と労力を投資する理由をこう話す。
「日々、農作業に取り組んでいると、『こういう技術があったら、もっと作業が楽になるのでは』とひらめく瞬間があるんです。自身のアイディアを農機や肥料、農薬に反映したいと思い、開発に協力するようになりました。現場に寄り添ったより実用的な農機や肥料などは、今後の農業界では“肝”になるだろう、という考えもあります。多くの農家さんにアイディアが還元されるとうれしいですね」
さらには2020年1月より、「農業MOT(Management of Technology)プラットフォーム」というプロジェクトの立ち上げにも参加しているという。同プロジェクトは、農業者とメーカー、研究所が一体となり、新技術を開発することを目的としたものだ。
「気候変動が進んでおり、各地で例年と異なる気象が観察されています。高齢化だけでなく、気候変動も農業における問題といえるでしょう。農業界には技術に加え、学術も必要になってくるはずです」
なお、金子さんは「新潟県農業改良クラブ連盟」でも指揮をとり、外部講師を招いての勉強会や全農・農水省との意見交換会を開催してきた。地域や農業界への貢献は、誰もができることではない。この行動力のモチベーションは、どこから生まれるのだろう。
「単純に、農業が好きなので、さらに農業界がよくなることを願っています。また、現在にいたるまでに、さまざまな先輩や関係者の方にお世話になりました。今後は農業技術の開発や後輩の育成などを通して少しずつ、恩を返していきたいと思っています」
PROFILE
金子健斗さん
平成3年新潟県生まれ。農業大学校を卒業後、平成26年に親元就農。以降、おもに米の生産・販売を手がける。平成30年より「新潟県農業改良クラブ連盟」の会長を務め、2020年4月に退任。その後、同クラブの顧問となる。平成29年より「全国農業青年クラブ連絡協議会」の副会長も兼任。「農業MOTプラットフォーム」の発起人メンバー。
DATA
文:緒方佳子