農業WEEKで発見!施設園芸の温暖化対策に役立つ注目製品3選
2025/12/05
先日おこなわれた農業・畜産の総合展「第15回 農業WEEK(通称 J-AGRI TOKYO)」の展示物のなかから、環境に配慮しつつ、急速にすすむ温暖化への対策に役立つ製品をご紹介しよう。
メイン画像:兼弥産業「ナチュラルエコ371」
熱を利用してハウスを冷やす
「吸収式冷却ユニット」

近年の夏の猛暑は、施設園芸生産者にとって、文字通り、死活問題だ。ハウス内で作業すること自体が危険だし、作物の品質・収量の低下は避けられない。ヒートポンプは上手く使わないと、ランニングコストが嵩む。「ランニングコストが低く、せめて確実に夜温を下げることができる冷房装置があったら……」と願う施設園芸生産者は少なくないはず。

そこで紹介したいのが、矢崎エナジーシステムが展示していた「吸収式冷却ユニット」。矢崎エナジーシステム環境システム事業部の末満歩満さんが説明してくれた。
「簡単に言うと、吸収冷温水器『アロエース』を中心に据えた冷却システムです。発電機やコンプレッサーから排出される廃熱(未利用エネルギー)や、太陽熱などの再生可能エネルギーから得られる温水を利用して7℃の冷水を生成し、その冷水を空調に利用するものです」

「蒸発」と記載されている容器は真空状態の蒸発器。真空内で水は5℃で蒸発するという性質を利用して、ここで配管上に水を滴下・蒸発させることで、その蒸発潜熱によって配管内部の水を冷却する。蒸発した水蒸気は「吸収」と書かれた吸収器で吸収液(臭化リチウム溶液)にて吸収することにより、蒸発器内部の真空状態を維持している。次に、水蒸気を吸収して薄くなった溶液を右上の「再生」と書かれた再生器に送り、加熱して水分を蒸発させて、元の濃い溶液と水蒸気に分離する。分離した水蒸気は「凝縮」と書かれた凝縮器で冷却して水に戻し、再び蒸発器へと循環させる。こうして冷房サイクルを繰り返す。
「この熱交換技術は古くから確立されている技術で、矢崎では『アロエース』として長年販売してきました。『アロエース』と、冷却塔、蓄熱槽、ポンプ、配管、制御機器といった付帯設備をユニット化して、2025年9月に世界最小クラスの冷却システムとして発売したのが『吸収式冷却ユニット』です。
温水焚の吸収冷温水機と付帯設備をユニット化することで施工費用を約30%削減し、施工期間も2日に半減できます。従来製品比で約70%もの省スペース化も実現しています」(末満さん)
「アロエース」で熱交換するための熱は、工場などが近接していればその温水や蒸気を利用できるし、木質ペレット、太陽熱、灯油など、あらゆる熱源を利用できるのが面白いところ。

エネルギーの地産地消を重視するなら、地域で入手した木質ペレットを利用できるし、日照時間が長く晴天が多い地域では、太陽熱を利用して温水を作ると効率的だろう。ユーザーのニーズや施設の置かれた環境により、多様な熱源に対応する。
「既に三重県で農業法人等と連携して実施しているトマト栽培用農業ハウスに、本システムと太陽熱集熱器を組み合わせた『ソーラークーリング冷却システム』を納入しました。
敷地の一角(約100平米)に太陽熱パネル(約60平米)を設置して約90℃の温水を生成し、温水焚吸収冷温水機『アロエース』(17.6kW×1基)で7℃の冷水を製造。施設面積約20aの農業ハウスを冷却し、猛暑下でも安定したトマト栽培を実現しています」(末満さん)
約2,000m(28m×36列の栽培棚に往復)の冷水配管を培地に敷設し、午前中の光合成が活発な時間帯のみ冷却を行うことで、最小限のエネルギーで有効な暑熱対策を実現した。この培地を冷却する方式は、三重県や奈良県をはじめとする全国の農業施設で採用実績があり、夏秋トマトの収量拡大に貢献しているという。
温暖化を逆手に取り、暑熱の原因である太陽熱を冷却エネルギーとして有効活用する「アロエース」を中心に据えた同社の「冷却システム」は、今後も続くと見込まれる温暖化に対する切り札となる可能性がある。
問い合わせ
地下水を冷暖房に活用!
「ナチュラルエコ371」

地中熱は再生可能エネルギー熱の1つだ。環境庁によると、深さ10m程度の地中温度(地温)は年間を通じて一定であり、夏は気温より低く、冬は気温より高い、という特徴がある。この地中熱の特徴を賢く使う冷暖房装置が、兼弥産業が展示していた「ナチュラルエコ371」だ。
「ポンプで地下水を汲み上げて、室内機内の銅管に通します。そこに風を当てることで、水と空気との熱交換を行います。ファンコイルユニット式と呼ばれるタイプの熱交換機です。毎分15Lの地下水を汲み上げることができる方は、ご利用いただけます」と、担当者の方が説明してくれた。
地下水の温度を外気温と比較すると、夏は冷たく、冬は温かい。この温度差を利用する「ナチュラルエコ371」は、夏場は冷房として、冬は暖房として利用できるのだ。
「酷暑の日中のハウス内温度をグッと下げるような使い方ではなく、作物の収量・品質に特に影響を与える夜温を下げるのに適しています」とのことだ。

高知県農業技術センターで行った試験では、隣接する対象区(「ナチュラルエコ371」未導入ハウス)と比較して、平均3.5度下げることに成功している。冷房としても、実用に耐え得る性能を有していそうだ。

冬場の暖房コスト削減にも、大きな力を発揮する。同じく高知県農業技術センターで実施した試験では、1週間で重油使用量を58Lも削減している。
地下水が使える方限定ではあるが、温暖化対策のみならず冬場の重油消費量削減にも使える「ナチュラルエコ371」は、魅力的な商品に違いない。
問い合わせ
育苗の高温対策に最適!
白黒トレー「TKトレー白黒」

温暖化の影響は盛夏に限らず、晩春や初夏、秋にも出ている。晩春や初夏の高温により「発芽率が下がっている」「発芽の揃いが悪い」とお悩みの方も少なくないはず。ここで紹介するのは、明和が発売している自動播種機用トレー。これが育苗期の高温対策に使えるのだ。

株式会社明和の担当者さんは、「ご覧の通り、白と黒のトレーです。高温対策になる理屈は単純で、日の当たる上面が白ですから、これが地温の上昇を抑えます。また、根域=裏面は黒にすることで光を遮断し、これも地温の上昇を抑えることができます」

白が熱を吸収しにくい、という事実は農業生産者であれば誰もが体感しているだろうが、高校球児のスパイクを見れば一目瞭然だ。長年「スパイクは黒」と規定されていたが、白が解禁されると、今やほぼ全球児が白スパイクを履いている。
本製品の材質はPS(ポリスチレン)であり、白黒を一体成型している。外寸は300mm×590mmで農水省規格に準拠している。72穴、128穴、200穴、288穴に対応する。
「発売から2年ほどが経過しましたが、お客様からは『発芽が良くなった』『根張りが良くなった』との声をいただいています。ここ数年は特に温暖化の影響が顕著に出ていますから、お問い合わせも増えています」と説明してくれた。
価格は黒単色トレーの1.2倍程度とのことだが、決して高価なものではない。自動播種機による育苗の高温に悩まされている方は、是非、同社にコンタクトして欲しい。
問い合わせ
取材・文:川島礼二郎





