注目キーワード

生産者の取り組み

【異業種から農業参入のススメ】参入が増える背景と5つの課題

政府が推進する成長戦略や6次産業化、食料安定供給を目的とした取り組みを背景に、国内企業の農業ビジネス参入への関心が高まっている。シリーズ「異業種から農業参入のススメ」1回目は、参入が増加した背景と主な課題を解説する。

メイン画像:レタスの施設栽培(写真提供 ANDREY-SHA74@Shutterstock.com)

<目次>
1.2009年の農地法改正で参入企業は約15倍に
2.栽培する作物や規模に応じた農地確保を
3.国や自治体の制度資金を活用しよう
4.栽培技術はアドバイザーとスマート農業の活用を
5.農業人材の育成には時間と費用が必要
6.販路開拓は企業の強みを活かそう
7.まとめ

 

2009年の農地法改正で
参入企業は約15倍に

リース法人数の推移(出典 農林水産省)
注1:「特例有限会社」は、平成17年以前は有限会社の法人数である。
注2:平成15年に構造改革特区制度により、遊休農地が相当程度存在する地域について、市町村等と協定を締結し、協定違反の場合には農地の貸付契約を解除するとの条件で農業生産法人(当時の名称)以外の法人のリースによる参入を可能とし、平成17年に全国展開。
注3:令和5年調査から集計方法を変更したことに伴い、実績を精査。
注4:法人数は延べ数(複数市町村で貸借している場合は、市町村ごとに計上)。

かつては、異業種からの株式会社やNPO法人の農業参入に制約があった。2009年の農地法改正で、「農業生産法人」になるか、もしくは「農地リース方式(特定法人貸付事業)」などを活用すれば、以前より参入しやすくなった。株式会社は農事組合法人にすぐにはなれない制約や税務上の課題はあるが、市町村と連携したリース方式であれば会社形態のまま農地を借りて農業経営が可能になり、農地所有権取得の緩和も進んで、企業の農業参入は拡大傾向にある。

2009年時点では311だった農業関連のリース法人数は、2024年1月時点で4,554法人に増えている。気候変動に伴う生産リスクへの対応や、中食・外食産業の活性化による農産物の業務需要拡大も、異業種からの参入を後押ししている。

リース法人の営農類型別と業種別(出典 農林水産省)

農林水産省の調査によると、リース法人の業種別では、農畜水産業が42%と最も多く、次いで食品関連産業13%、サービス業12%、建設業8%の順となっている。原料の安定確保や経営の多角化、雇用対策を主な目的としている企業も多い。耕作放棄地が増加するなか、企業参入は担い手不足の補完と農地の有効活用という役割が期待されている。

栽培する作物や
規模に応じた農地確保を

農地バンクによる遊休解消対策事業(出典 農地中間管理機構)

農地の確保は参入における最初の関門だ。農地の所有権を取得するか、借り入れるかの2つの方法がある。農地の所有権を取得するには「農地所有適格法人」の要件を満たす必要がある。農地を借りる場合は一般法人も参入できるが、原則として農地バンク(農地中間管理機構)を活用する。栽培する作物の種類や営農規模によって、必要な農地の場所や面積が変わるため、営農計画に沿った農地選定が重要だ。特に耕作放棄地の再生利用は、地域貢献と農地保全を両立できる選択肢として注目されている。

国や自治体の
制度資金を活用しよう

融資制度 ご利用いただける方 融資限度額 融資期間(うち据置期間)
青年等就農資金 認定新規就農者 3,700万円(特認1億円) 17年以内(5年以内)
経営体育成強化資金 一定の要件を満たす農業を営む個人・法人、認定新規就農者、農業参入法人、集落営農組織等 負担額の80%、ただし【個人・農業参入法人】1億5,000万円、【法人・団体】5億円 25年以内(3年以内)

新たな農業経営の開始に活用できる融資制度の一部(出典 日本政策金融公庫)

農業は初期投資が大きく、収益化するまで時間がかかる。そこで国や自治体の「制度資金」で融資を受けることを検討してみよう。日本政策金融公庫の「青年等就農資金」は、市町村から青年等就農計画の認定を受けた認定新規就農者を対象にした無利子の融資で、限度額は3,700万円(特認1億円)、返済期間は17年以内。

「経営体育成強化資金」は負担額の80%(農業参入法人は1億5,000万円以内)の融資が受けられる。自治体独自の補助金制度も充実しているため、参入候補地域の支援策を事前に確認してみよう。

栽培技術はアドバイザーと
スマート農業の活用を

栽培技術の習得は参入企業が苦労する課題の一つだ。全国農業会議所が実施した新規就農者の就農実態に関する調査によると、新規就農者の56%が「営農技術の取得」で苦労している。そのため、栽培経験者を直接雇用するか、栽培技術に関する自治体やJAなどの伴走支援サービスを活用することが有効だ。

アドバイザー派遣について(出典 農なび青森)

青森県では参入企業に対し「企業の農業力強化アドバイザー」を派遣し、栽培技術や知識習得を支援している。また、環境制御システムやデータ管理ツールなどのスマート農業技術を活用することで、経験や勘に依存しない栽培管理を目指すことも選択肢のひとつだ。

農業人材の育成には
時間と費用が必要

(写真提供 Verin@Shutterstock.com)

人材の確保と育成は農業参入における重要な課題である。事業の多角化で従業員の通年雇用を目的としている場合は既存従業員の活用を前提としている企業も多い。ただし、農業未経験者への技術習得には一定の時間がかかるため、計画的な人材育成が必要となる。技術習得のための研修費用や指導者の確保にもコストがかかることから、事前に資金計画に組み込んでおくことが重要だ。

販路開拓は
企業の強みを活かそう

生産した農産物の販売戦略は、収益性を左右する。農業参入を目指す企業は、JA出荷、卸売市場、直売所、契約栽培、EC販売など、複数の販路を確保し、リスク分散を図ることが重要となる。企業参入の強みは、本業で培った販売ネットワークやマーケティングのノウハウを活用できる点にある。加工・販売まで手がける6次産業化も、販路拡大と付加価値向上の選択肢として検討したい。

まとめ

企業の農業参入は、担い手不足解消や耕作放棄地の活用、雇用創出という社会的意義を持つ。農業参入を検討する企業は、自治体の相談窓口に相談し、地域の実情を把握することから始めてほしい。また、農林水産省が主催する「農業参入フェア」など、参入希望企業と受入地域のマッチングイベントも積極的に活用したい。次回以降の記事では、農業参入で失敗しないポイントなど、より実践的な情報を提供していく。

農業参入フェア2025(出典 農林水産省)

DATA

農業参入フェア2025

企業などの農業参入について

農なび青森


取材・文/佐藤美紀

アクセスランキング

農業機械&ソリューションLIST

アクセスランキング

フリーマガジン

「AGRI JOURNAL」

vol.37|¥0
2025/10/01発行

お詫びと訂正