畑作農家が米づくりに初挑戦! 節水型乾田直播の新たな可能性
2026/01/22
米づくりの省力化が期待される「節水型乾田直播」。米どころの新潟で、2025年に節水型栽培に初めて取り組んだ畑作農家がいる。試行錯誤の1年を取材した。
メイン画像:2025年5月の播種作業(新潟市)
水を張らない乾いた田んぼに直接種をまく栽培法。育苗や田植えなどの工程を省けて、水の管理に必要な時間も削減できる。また、必要な機材も少なく生産コストの削減にもつながる。水を長期間張らないことで、温室効果ガスであるメタンガスの排出を大幅に抑制し、環境負荷の軽減に貢献できる点も注目されている。
産学連携でチーム結成
新潟で節水型栽培に初挑戦
新潟市のNSGグループの株式会社ベジ・アビオは、サツマイモやトマト、ダイコン、じゃがいもなどを栽培する農業法人だ。初めての米づくりで「節水型乾田直播」をなぜ選んだのだろうか。
「北海道での成功事例を、農業資材メーカーの人から教えてもらったのがきっかけです。それなら新潟でもやってみようということで、JA新潟市、新潟クボタ、新潟食料農業大学のみなさんと産学連携のチームをつくり、2025年に栽培を始めました」とベジ・アビオ取締役の加藤和彦さん(42歳)は笑顔で話す。
加藤さんは民間企業を退職して実家に就農したあと、全国各地を訪ね歩き、園芸作物の知見を広げるなかで、バイオスティミュラント資材(BS資材)に出会う。それ以来、独学でBS資材の実証と研究を重ねてきた。BS資材が重要な役割を果たす「節水型乾田直播」は、うってつけのチャレンジテーマだったという。
高精度播種作業機で
初期作業を省力化

新潟市の加藤和彦さん
苗づくりや代かき、移植作業が不要な「乾田直播」は、以前から西日本を中心に導入されてきた。
従来の乾田直播は、出芽以降の湛水管理が必要だが、節水型乾田直播は、水を張らない乾いた(乾田)状態の田んぼに直接イネの種子をまき(直播)、生育期間中でも最小限の水管理で育てる。田んぼに水を張らないため、温室効果ガスであるメタンガスの発生を大幅に抑制し、水資源の節約にも貢献するのが特長だ。
1年目の米づくりは、NEWGREENの栽培マニュアルを参考にして栽培に取り組んだ。BS資材は、ビール酵母由来の資材と腐植酸配合肥料、菌根菌などを用いた。播種作業は、新潟クボタから高精度播種作業機「スリップローラーシーダー」を借りて実施した。

高精度播種作業機「スリップローラーシーダー」
「スリップローラーシーダーは、耕起・元肥施肥・播種・鎮圧をひとつの工程で実施できるので、初期の作業をすごく省力化できました。耕起から田植えまでの移植栽培の工程と比べると作業労力は6割ぐらい減ると思います」と加藤さんは説明する。

鎮圧したあとの田んぼ
2025年は、平野部にある57アールの田んぼに「にじのきらめき」を作付けした。春から秋まで、すべての作業を加藤さんひとりで担当したという。
主な作業スケジュールは、耕起・播種の前にBS資材のコーティング処理、5月上旬に耕起・播種、その2週間後に発芽を確認、6月中旬から収穫期までに走り水を5回、BS資材の葉面散布を1回行っている。
「1年目なのでBS資材の効果を正確に評価できませんが、ビール酵母由来の資材や菌根菌などのおかげで、発芽率は8~9割くらいに高まりました。鳥害の忌避剤を入れたら、さらに向上したと思います」(加藤さん)。
播種深度と雑草管理が
1年目の課題

2025年10月上旬の稲刈り作業
稲刈りは10月上旬に実施した。10アールあたりの収量は約5俵。従来の乾田直播よりもやや少なめだったが、改善点は見えているという。
「5月の低温の影響で、分げつする前に雑草が出てきて初期生育が遅れました。1回目の走り水は6月中旬でしたが、もう少し早い時期に走り水を始めておけば、収量がもっと増えたと思います。節水型といえども水は必要ですね。その点、新潟平野は水に恵まれているので、節水型栽培に適していると思います」。
1年目の作付けを終えて、どのようなメリットがあったのか、深堀りして聞いてみた。
「作業労力が低減するのが最大のメリットです。苗づくりと代かき、田植えが要らないうえに、従来の乾田直播や移植栽培のように水管理を頻繁にする必要もありません。生育期間中にある程度の走り水は必要ですが、朝に水を入れて夕方にとめる程度の作業なので、通常の水管理のように田んぼを毎日見に行くような手間もかかりませんでした」。
省力化によるコスト低減というメリットがある一方で、課題も見えてきた。それは「播種深度」と「雑草管理」の2点である。播種深度については、「理想は2センチぐらいですが、初めてということもあって播種深度がバラバラで、土に潜らなかった種子は鳥害にあって発芽しませんでした。播種深度を微調整するため、トラクターの操作技術を高めていく必要があると感じました」と打ち明ける。

2025年9月上旬 稲の登熟が進む
もう一つの課題は雑草管理だ。2025年は、播種後の出芽前から7月中旬まで5回にわたって除草剤を散布した。「雑草は初期に対処する必要がありますが、除草のタイミングが後手後手に回ってしまいました。スズメノカタビラ、チョウジタデ、ノビエなどの雑草が収穫期まで残ってしまったので、収量に影響したかもしれません」と残念そうに語る。
今後は栽培面積を拡大していくなかで、AIを活用した雑草管理システムの導入を検討している。節水型栽培による連作障害については、「どのような影響があるのかを検証していく必要がありますが、BS資材の活用による効果を期待しています」と加藤さんは前を向く。
栽培方法を組み合わせて
1000ha規模を目指す

コーティングした種子
日本有数の米どころの新潟県でも、離農する人があとを絶たず、その受け皿である担い手の数も減りつつある。加藤さんは、2026年に節水型乾田直播の栽培面積を1ヘクタールに拡大する意向だ。
しかし、節水型栽培だけにこだわる考えはない。「ほ場条件に応じて、節水型乾田直播と、従来の乾田直播、移植栽培を組み合わせて、米の栽培面積を増やしていきます。これからは毎年、倍々ペースで規模を拡大して、将来的には1000ヘクタールを目指していきたいと考えています」と力を込める。
2025年産米は学校給食用に出荷する予定だ。今後は大手飲食チェーンなどをターゲットに業務用の販路開拓を目指す。地域の耕作放棄地をなくして、新潟平野の田んぼを守っていくのが加藤さんの大きなテーマだ。
取材・文:佐久間厚志
写真提供:ベジ・アビオ
AGRI JOURNAL vol.38(2026年冬号)より転載






