「国消国産」実現のために地域JAが行うべきこと
2021/04/19
アフターコロナの農業と将来のJAの在り方について、幅広な視点からの問題意識・解決すべき課題を中央大学教授の杉浦宣彦氏に聞く連載。今回は、どのように「国消国産」を実現するのか、JAが抱える問題や方向性を伺った。
国消国産の流れは
世界的傾向に
昨年あたりから、JA全中(一般社団法人 全国農業協同組合中央会)・中家徹会長の記者会見などを拝見していると、「農業ではコロナ禍の教訓をふまえ、国民が必要とし消費するものは、その国で産出する「国消国産」の拡大による食料安全保障の強化、地方回帰の促進などによる農村の活性化が喫緊の課題になっている」(2020年10月1日)とご主張されています。筆者から見ても、まさに時節に合った主張であるように思います。
ちょうど1年前、筆者はまさに新型コロナウイルス感染拡大でロックダウン状態になったベルギーにいました。在外研究先の大学は閉鎖、交通関係も減便となり、散歩と必要最小限の買い物のみ外出が認められる毎日でした。
しかし、市民生活が意外なほど平穏で大きなパニックもなかった理由は、EU全体で物流を確保し、生鮮を含む食料品を切らすことなく、スーパーなどで潤沢に提供していたことにあると思います。
アフリカなどからの労働者に頼りがちだったEU加盟国の農家は、いつもより少ない農業就業人口で効率化を図り、いつもと変わらないレベルでの生産活動を行い、農産物流の方法についても様々な方法が試みられました。まさに食料安全保障のためにEU域内全体で動いていたのです。
食糧自給率が低い我が国においてもコロナ禍で人の動きは止まりましたが、幸い物流は止まらず維持できたため、海外からの輸入も大きな影響を受けなかったため、現在も食料品不足などは発生していません。
ただ、今後、似たような状況が再び発生した時、中国を中心とするアジア諸国や欧米の農産物生産が自国内の消費向け中心になり、輸出量が落ちたとしたら、日本国内自給の観点からみると大変なことになるでしょう。
我が国の農産物の輸出拡大政策も、果実や畜産系を中心に進めていくべきですが、まず、今回のコロナ禍を通じて、中家会長の言われる「食糧安全保障」という言葉の意味を改めて考えるべき時期と自覚すべきです。
地域でどれだけ何が
収穫できるのか
各都道府県の農産物紹介を見ると、日本国内で実に多種多様な農産物が生産されていることがわかります。しかし、それがその地域でどれだけ生産されているのかというのは、以前に生産管理統制などがあったコメなどの農産物を除くと、案外正確にわかる手段がありません。
また、地方自治体のパンフレットなどで書かれている農産物が以前は地域の特産であっても、現在は生産者の高齢化などによりほぼ作られていなかったり、著しく生産量が減少しているケースが案外多かったりします。
さらに、そのような情報が全国的に十分にアップデート、かつ、シェアできていないがために、適正価格で買う地域があるという情報が伝わらないままに、安値だからと農産物廃棄が発生している事例も時折耳にします。
そこでまず、その地域でどんなものがどれだけ採れるのか、改めて調査していくことが必要だと思います。
生産者の年齢や後継者がいるのか、さらには、農地の面積・状況など細部にわたる調査を経て、近い将来にわたる本当の地域の地力を知らないと、国消国産どころか、その下のレベルの部分的な地産地消ですらおぼつかない話になるでしょう。
筆者は以前から、このような実態的な生産量データを早く集め、データベース化することの重要性を主張していますが、IT技術の部分はまだまだ農業機械など農産物生産技術の方だけに向きがちで、順序が逆なのではないかと考えています。
農産物の地産地消を
まずは地域・県域で
これまで多くの地方のJAが、東京や大阪などの大都市圏向けに農産物を生産・出荷していましたが、特に野菜などは全国的に同品種のものが多数の地域から届くことで、単純な価格競争になっており、農家の所得向上に結び付いていないように思います(このあたり、補助金行政の方向性にも関わるのですが、それはまた、別の機会に述べたいと思います)。
反面、地域で生産された農作物が、比較的近い消費地では消費されておらず、逆に別の地域のものがスーパーなどに並ぶという何ともおかしな現象も散見されます。
まず、大消費地やその周辺部にあるJAでは、地域内の消費者に向けて、地域の農産物・特産物が何かをアピールすること、運送料の低い近隣地域内流通の仕組みを構築すること、国消国産の前提である地産地消のある程度の実現を進めていくことが重要です。こういった取り組みが、全国的に無駄がなく効率の良い農産物流通へとつながり、国消国産が進むきっかけとなるはずです。
この提案は決して、他地域での農産物生産を阻害するものではありません。当然のことながら、全国的なブランド力を持つような農作物は引き続き、全国的に流通があって当然です。
地産地消と言っても、地域の気候などの影響により、地域で求められる農産物が1年を通じてその地域ですべて生産できることはほとんどありません。当然のことながら、他地域からの農産物に頼らなくてはいけないのです。
要は、補完関係をどう構築するかということであり、個々のJAないしは全農などを通じたJA間や流通業者との連携も大事になります。しかし少なくとも、このような動きを通じて、個々のJAの活動が国消国産という方向性に貢献していくはずです。
PROFILE
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
杉浦宣彦
現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。