【バイオスティミュラント最新動向】農水省のガイドライン策定後、業界各社はどう動く?
2025/10/03

2025年5月に農水省が「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」を公開したことで、遂に日本でも、バイオスティミュラントとは何かが定義された。それに準拠して、産地を主体とした任意団体「Eco-LAB」が「自主規格」を、業界団体である日本バイオスティミュラント協議会が「自主基準」を発表した。
バイオスティミュラントを巡る
混乱から統一へ
遂に日本でも、バイオスティミュラント(BS)の定義が定まった。2025年5月に農林水産省が「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン(以下、ガイドライン)」を公開したのだ。そこには、こう記載されている。
「バイオスティミュラント」とは、農作物又は土壌に施すことで農作物やその周りの土壌が元々持つ機能を補助する資材であって、バイオスティミュラント自体が持つ栄養成分とは関係なく、土壌中の栄養成分の吸収性、農作物による栄養成分の取込・利用効率及び乾燥・高温・塩害等の非生物的ストレスに対する耐性を改善するものであり、結果として農作物の品質又は収量が向上するものをいう。
これまで日本では、BSではないものもBS資材として販売されてきた。また、作用機序が明確に示されていないまま販売されているBS資材も少なくない。
メーカー・輸入業者が独自の判断でBSと称して資材を販売しており、効果や用途が統一的に理解されていなかった。実際には肥料や土壌改良資材に近いもの、あるいは農薬的な効果をうたうものも含まれてしまい、農業生産者の立場に立つと「何がBSかわからない」「どう使ったら良いかわからない」という状態が続いた。
その他にも、「農薬に該当するのでは?」と行政から指摘を受ける事例や、ラベル表示や広告表現の判断も事業者任せだった。結果として、真面目に研究開発した企業ほど苦しむ、という現象も起きていただろう。
農業生産者から見れば「効くのかどうか信用できない」「コストに見合う効果を得られるかわからない」といった不信感が生まれた。JAや普及所等でも、指導の根拠が薄いから扱いにくく、BSの普及遅れに繋がっていた。
こうした現状を打破すべく、農水省は2025年2月に2回、「バイオスティミュラントに係る意見交換会」を開催して関係団体からの意見を集約。そして公開したのがガイドラインだ。
ガイドラインでは、BSの効果や使用に係る表示に関する事項を中心に、メーカーと輸入業者などの事業者が特に留意すべき事項を示すことで、
・事業者による自主的な取り組みを促す、
・使用者による目的に合った製品の選択や適切な使用に資すること
を目的とする。全文4ページの短い文章なので、是非ご一読いただきたい。
生産者が立ち上がり
自主規格を公表
「ガイドライン(第1版)」が2025年5月30日に公表される直前の2025年4月15日、Eco-LABが「バイオスティミュラント資材の適正利用に関する基準(自主規格)第1版(以下、自主規格)」を公表した。
Eco-LABとは2023年9月に設立された「バイオスティミュラント活用による脱炭素地域づくり協議会(Expert Council for Low carbon Agriculture in Biostimulant technology。以下、Eco-LAB)」のこと。
日本の農業産地がBSを活用しやすい環境づくりを行い、食品残渣を活用したBSの社会実装を図ることを目的に組織された。会員には、北海道の更別村農業協同組合、本州の全国農業協同組合連合会岐阜県本部、とぴあ浜松農業協同組合など13の農業協同組合のほか、企業からは事務局を務めるAGRI SMILE含む7社が、他に地方自治体(飯田市・深谷市)、それと金融2行が所属している(2025年9月下旬現在)。
ガイドライン(第1版)公表前に公表された「自主規格」だが、Eco-LABの「自主規格」は農水省の「ガイドライン」に準拠している。これは意見交換会を含めて、Eco-LABが農水省と密に情報交換を行ってきたことを示している。
これまでEco-LABの会員(産地JA)は、自主規格に基づいて評価されたバイオスティミュラント資材のみを使用することを基本方針とし、生産現場での判断基準に役立てている。
農水省によるガイドライン案の発表を契機に、業界の関心が急速に活発化した反面、生産現場では情報の混在が見受けられるようになったことを受け、正しい情報の整理と発信を行いガイドラインの普及を推進するために、自主規格の公表に踏み切った。
Eco-LABの「自主規格」が画期的なのは、産地(農業生産者)が必要性を感じ、立ち上がり、作成した、という点。それほど生産現場は混乱していた、と言って良いだろう。
もう1つは、「自主規格」の「2.資材が満たすべき基準 (3)根拠情報の確認」のなかで、
対象資材の植物体内で起こる反応を確認するために、遺伝子発現量解析、植物ホルモン解析、生化学解析(タンパク質機能解析など)、元素解析のいずれか1つ以上を行う。
と明記している点だ。
農水省の「ガイドライン」でも「3.効果・使用に係る表示」において、関連情報として、
原材料の名称・含有割合及びバイオスティミュラントを施用した際に非生物的ストレスに対して植物体内で起こる反応を確認すること。
とあるから、Eco-LABの「自主規格」は作用メカニズムを明確にすることに厳格に取り組んでいる、と言える。
この点について事務局長の大堂さんはこう説明する。
「産地が求める情報を反映させたのが、この『自主規格』です。どこで、どう作用するのかがわからなければ、効果的に使えません。逆に、『自主規格』に沿ったBS資材であれば、作用メカニズムが明確なので、このタイミングで使えば、こういう効果がある、と説明できます。これまでの試験を通じて、産地JAでは『自主規格』に沿ったBS資材を正しく使うことで、しっかり効果を出しています。また、作用メカニズムが明確になっているから、農薬や肥料のように、生育フェーズにあわせてBS資材の施用を計画し栽培暦に入れ込むことができるのです」。
Eco-LABは、この「自主規格」を広く会員に周知するだけでなく、会員外の産地にも参照して貰い、正しい製品選び、利用を促したい考えだ。
BS協議会の自主基準は
事業者の取り組みを促すもの
2025年9月8日に日本バイオスティミュラント協議会により公表されたのが「日本バイオスティミュラント協議会 自主基準(以下、JBSA 自主基準)」。
JBSAについても紹介しておくと、設立は2018年1月。現在は正会員36社、賛助会員125社、個人会員43人を誇る、BSに関する業界団体だ。
会の目的の1つに、「本会の目指すBSの定義の普及、定着」とあるから、「JBSA自主基準」の公表は、設立以来の大きなマイルストーンとなった。JBSAも農水省と密な協議を行っており、こちらも農水省の「ガイドライン」に準拠している。
「JBSA 自主基準」は業界団体が作成したものであるため、BS製品を取り扱う事業者(メーカー・輸入業者)に対して自主管理を促すためのものである。
一方で、BS製品を購入した農業生産者が、これを安全かつ効果的に使用できるよう、事業者(メーカー・輸入業者)が各製品に関わる情報(安全性、効果の根拠等)を示し、優良誤認とならない表記を行うことを目指してもいる。
「JBSA 自主基準」で特筆すべきは、農薬疑義資材に該当しないように留意することを丁寧に促している点だ。
これはJBSAが長らく主張していた点であり、簡単に言えば、BSとしての主たる効果・効能が植物成長調整剤(植調剤)との表記と被らないように促したことだ。これも農薬とのすみ分けを目指すJBSAが、この「JBSA 自主基準」で実現したことの1つだ。
一方で、おそらく多種多様な会員の意見を集約する過程で、作用機序の明確化の面で、緩い表現となっている点があるように思う。また別表に示された「BSの主たる効果・効能リスト」がBSの効果を網羅しているかは疑問を感じる。
また「JBSA 自主基準」には、効果・効能をラベルやパンフレット、ウェブサイトに記載できるのは「根拠情報がある場合に限る」と記載されている。
今後は、使用者が根拠情報や有効性を事業者側に確認できる仕組みができることで、根拠のない製品が「JBSA自主基準」適合品として販売されることを防げると思われる。
BSがガイドラインで定義され、産地(農業生産者)の立場からはEco-LABの「自主規格」が、業界団体の立場からは「JBSA自主基準」が公表された。農業生産者の皆さんには、これら情報を精査したうえで、正しいBSを選び、正しく使うことで、儲かり、持続可能な農業を実現してほしい。正しいBS資材は、それを可能にする。
参考
農林水産省「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」
Eco-LAB協議会「バイオスティミュラント資材の適正利用に関する基準(自主規格)」
日本バイオスティミュラント協議会「日本バイオスティミュラント協議会自主基準」
取材・文:川島礼二郎
AGRI JOURNAL vol.37(2025年秋号)より転載