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施設園芸のメリットや必要な設備は? ハウス栽培を始めるためのポイントを解説

野菜や果物の周年的な需要の高まりを背景に、施設園芸への関心が高まっている。環境を制御できるハウス栽培なら、天候に左右されず計画的な生産が可能だ。この記事では、施設園芸を始めるために必要な知識と設備、収益を高めるポイントを解説する。

<目次>
1.施設園芸農業は全国で3万7000haに
2.施設園芸農業のメリット・デメリット
3.栽培する作物を選ぶポイント
4.施設園芸農業の初期費用は?
5.施設園芸に必要な設備とは?
6.施設園芸農業で収益を高めるポイント

 

施設園芸農業は
全国で3万7000haに

2023年の農業総産出額(出典 農林水産省)

施設園芸農業とは、ビニールハウスやガラス温室などの施設を利用して野菜や花き、果物を栽培する農業だ。露地栽培と異なり、温度や湿度、光などの環境を人為的にコントロールできる。

農林水産省の統計によると、2023年における日本の園芸用施設の設置面積は約3万7000ha で、トマト、ほうれん草、いちご、きゅうり、メロンなどの栽培に利用 されている。近年では、ロボットやAI、IoTなどの技術を活用した環境制御システムの導入が進み、スマート農業との親和性も高い。

施設園芸農業の
メリット・デメリット

施設園芸のメリットは、周年栽培・計画生産による安定収入だ。環境制御により高品質・高単価な作物を生産できる。また、施設野菜の10aあたりの所得は露地野菜の約6倍に達する。

一方、初期投資の大きさは無視できない。ハウスや設備には数百万円から数千万円の投資が必要だ。また、光熱費などのランニングコストも高く、施設園芸では経営費の約3~4割を占めるという調査報告もある。

栽培する作物を
選ぶポイント

2022年 園芸用施設の設置などの状況(出典 農林水産省)

施設園芸での栽培品目は、経営の成否を左右する重要な判断となる。トマトは栽培面積の57%、収穫量の74%を施設栽培が占め、イチゴは栽培面積の68%、収穫量の74%を占める など、施設園芸の中心的な品目となっている。地域の気候条件や市場ニーズ、販路の確保、栽培技術の習得の見込みを考慮することが重要だ。

施設園芸農業の
初期費用は?

園芸用施設の設置などの状況(出典 農林水産省)加温設備については2023年、それ以外は2022年の結果。

初期投資は、ハウスの種類と規模によって大きく異なる。簡易なパイプハウスは比較的安価で10aあたり数百万円から導入できる。耐候性ハウスやガラス温室はさらに高額 だが、耐久性と環境制御性能に優れている。

資金調達では、国の補助事業を積極的に活用したい。強い農業づくり総合支援交付金や産地生産基盤パワーアップ事業では、条件を満たせば事業費の2分の1の補助を受けられる。

施設園芸に
必要な設備とは?

施設園芸に必要な主な設備を紹介 する。
(1)暖房設備
主に温風式と温湯式がある。温風式は燃料の燃焼熱で温めた空気を送る方式で、設備費が比較的安価で立ち上がりが早い。温湯式はボイラーで温めた湯を金属レールなどに流す方式で、温度変化が緩やかだが温風式に比べ設備費は高額となる。近年は低エネルギーのヒートポンプも注目されている。

(2)カーテンフィルム
遮光、保温、遮熱、日長調整の4つが主な機能。材質や色により遮光率や保温性を調整している。ハウスの構造や向きによって、駆動方式や開閉方向も検討が必要。

(3)灌水システム
作物に水や肥料(液肥)を供給するための機器。機種によって灌水量や肥料濃度の設定方法が異なるため、自分の栽培方法に合ったものを選ぼう。

(4)CO2施用機器
植物の光合成を促進する重要な設備だ。燃焼式は灯油やLPガスを燃料とする方式で、安価だが熱が発生し不完全燃焼のリスクがある。生ガス式は熱の発生がないが、地域により供給体制に差がある。

(5)環境制御システム
センサーでハウス内外の温度や湿度、CO2濃度などを測定し、設定した条件で各設備を稼働させる装置だ。天窓、カーテン、暖房機、灌水機器などを自動制御できる。ただし、機器を導入しただけでは収量や品質は向上しない。作物の状態や気象、作業進捗を考慮し、適切な環境設定に落とし込むことが不可欠だ。

施設園芸農業で
収益を高めるポイント

2023年の営農類型別経営統計(出典 農林水産省)

施設園芸で収益を高めるポイントは単収の向上だ。適切な環境管理によって、トマトで10aあたり30〜50tの収量(全国平均は約10t/10a)を実現した例もある。省エネ設備の活用は、環境面だけでなく長期的なコスト削減の観点からも重要だ。計画的に取り組めば、施設園芸は安定した収益と持続可能な経営を実現できる選択肢となる。

DATA

農林水産省 施設園芸をめぐる情勢
JA全農 失敗しないためのハウス導入のポイント


取材・文/佐藤美紀

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