成功する農業後継 三浦牧場に学ぶ「非言語ノウハウ」3つのポイント
2018/03/30
農家の事業後継は、肩書きを託すだけでは終わらない。技術や経営ノウハウも必要だ。だが、仕事の苦労や楽しさを肌で感じること、ケースバイケースのトラブルリスクを予測すること、つまりは「非言語ノウハウ」の伝承こそが重要だ。三浦牧場の事業承継成功のポイントを紹介する。
前記事:成功する農業後継 酪農から学ぶ「非言語ノウハウ」伝承
ポイント①
幼少の頃からの農業体験が基礎になる
正之さんは、子供の頃から、親が牛の世話をするのを見て育った。自分で牛の世話をしたことがなくても、作業としての「牛飼い」とはどんなものかを肌で感じてきた。
牛が病気になったときの両親の会話や、子牛が生まれたときに世話をする姿、子牛が難産のときの対応など、乳牛を飼う両親を近くで見てきた。
農業を理解するための重要な要素の中に、「作業を理解する」「技術を理解する」「経営を理解する」というポイントがあるが、「仕事の苦労や楽しさを肌で感じる」ということが、実は非常に大きなポイントになっている。
父母の仕事ぶりを、子供ながらに眺め、接してきたことで、自然と「牛飼い」の経営感覚を身につけてきているのだ。重要な経営判断の際に「牛飼いとして」どう考えるのか、これまで両親の姿を見て感じたことが、現在の『健康に牛を飼うことを目指す』という経営の礎となっている。
ポイント②
先代と共に作業し、現場のノウハウを継承する
正之さんは、22歳から11年間、先代の父と共に現場で作業をしてきた。父は獣医であり、酪農の大先輩。家業をついでから、教えられることが多かった。
例えば、正之さん自身が受精師の免許を取得した今でも、繁殖管理は難しいという。「発情兆候を見極める」ことは大変難しく、まだまだ修行が必要なのだそう。牛1頭1頭個性があり、ちょっとした動きの変化を見つけることが「発情兆候の見極め」には重要であり、経験の蓄積のある先代と共に作業をすることで、多くのことを学んでいる。
牧場内で毎日牛を観察し、起こっている事象からどのような情報を悟り、経営のポイントをどう理解するのか。時間をかけてしっかり受け継いでいくことが必要だ。農業の特徴として、重要な経営判断が必要な事象は、自然な作業の中にまぎれて過ぎていく。特に酪農という複雑な生体現象からもたらされる牛乳という生産物の場合、この点は極めて重要である。
リスクの例で言えば、出産前の乳牛は2ヶ月間乾乳という工程に入る。搾乳せず、飼料も草主体の栄養素の少ないものに変わる。足を鍛えるチャンスともなり、放牧場への移動が行われる。乾乳の工程は、搾乳中に比べて比較的安定した状態ではあるが、監視が弱くなり、時として事故が起きる。
牧場の地面のちょっとした凹みに牛がはまり、立ち上がれなくなって窒息死してしまうことや、柵の破損による段差からの転落事故もある。こういったことは、先代と共に経験し、現場でどのようなリスクが発生するのかを、個々のケースにおける『トラブルリスク予測の伝承』をしていくことが重要となる。
酪農の場合、妊娠→出産→搾乳しながら受胎を繰り返すため、母体に負荷が掛かると共に、母体の状態がサイクルの中でめまぐるしく変わっていく。つまり、個体それぞれのステージにおけるリスクの予測と、時間単位の適切な措置が経営の成否を決めていくのだ。
酪農のように複雑な工程により生産が成り立つ事業の場合、先代と後継者が共に作業する中で、重要な経営情報を一つ一つ確実に引き継いでいくことが、『非言語ノウハウの伝承』には必要なのである。
ポイント③
自社の強みの深い理解
三浦牧場は、山間地小規模酪農家として、これまで50年以上農業を経営してきた。小規模とはいえ、毎日牛乳を生産する。日々の売上規模は数万円でも、年間休みなく生産することで数千万円の事業規模になる。規模は小さいが、3haの畑で飼料栽培も行っている。
このような経営では、周囲の環境と、先代が築いてきた強みをいかに活用するかが重要になる。自社の畑で飼料栽培を行い、飼料代を安くする試みも重要だ。
効率的な設備投資など、日々の細かな経営判断の積み重ねこそが、継続する農業を生み出す。特に酪農は、飼料栽培設備、飼料配合給飼設備、牛舎、搾乳貯乳設備、牛糞堆肥化設備など、様々な設備が必要な「装置産業」である。「装置産業」は、設備の償却が完了してからが勝負で、保守管理により丁寧に使い続けることが、収益向上には極めて重要である。
正之さんは33歳と、経営者としてはまだまだ若いが、先代が積み重ねてきた強みを冷静に分析し、強みを十分理解している。また、山間地農業ならではのメリット・デメリットを着実に理解し、今後展開の可能性のある加工品の分析も行い、堅実で頼もしい。これからの三浦牧場に、期待が膨らんでいく。
話を聞いた人
三浦牧場 後継者
三浦正之さん
三浦牧場代表
三浦一敏さん
取材
「親子農業」研究員 ㈱ビジネス・ブレークスルー所属
乾祐哉
監修
親子農業指導教官 ㈱みやじ豚代表取締役
宮治勇輔
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