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パタゴニアが推奨する、環境を再生する農業。リジェネラティブ・オーガニック農法とは

気候変動問題のソリューションとして期待される「リジェネラティブ農業」。アウトドアブランド「パタゴニア」は、その可能性にいち早く着目し独自のアクションを続ける。地球を救うこれからの農業について話を聞いた。

気候変動抑制に繋がる、
リジェネラティブ農業の可能性

深刻化する気候変動をはじめとした様々な環境問題。自然の力に支えられ、そして、自然の影響を受ける農業において、サステナビリティ(持続可能性)とは、紛れもなく喫緊の重要課題のひとつだ。
 
そんななか、世界では“リジェネラティブ農業”という新しい農業のあり方が、気候変動問題のソリューションとして期待されている。端的にいうと、農業を持続可能の範疇に留めておくのではなく、よりポジティブに環境の再生にも貢献できるように営む農業のことを表し、日本語では「環境再生型農業」と呼ばれることもある。その世界的潮流の最前線で画期的なアクションを起こす企業のひとつが、アウトドアブランド「パタゴニア」だ。

土壌は強力な炭素貯留力を持つ
巨大な炭素貯蔵庫である

パタゴニアは、1996年に綿製品素材のすべてを100%オーガニックコットンに切り替えるなど、環境課題の解決に向けて経営を続けている。「地球を救うためにビジネスを営む」という壮大な企業理念を掲げる彼らが、そのひとつの解として取り組みはじめたのが、「リジェネラティブ・オーガニック」である。

「これまでの社会では、1を作るときに出てしまう1のインパクトを0に近づける努力をしてきました。しかし、もはや地球の貯金を使い果たしてしまい、0に近づける努力をしても元には戻らないという状況に至っています。カーボンニュートラルにしても、今まで排出した温室効果ガスは簡単には戻りません。

しかし、私たちは、生きるために必要不可欠な農業や食のポテンシャルと、それらの産業の根本的な変革の必要性を知りました。やればやるほどポジティブに環境が再生していくビジネスに転換し、それを示すことが求められています。パタゴニアが自然に根差した解決策として、リジェネラティブ・オーガニックに取り組むということは必然でした」(パタゴニア日本支社 木村純平さん※以下同)。

パタゴニア日本支社 環境・社会部門リジェネラティブ・オーガニック リサーチ担当の木村純平さん

再生という意味を持つ、リジェネラティブ農業。その最大の特徴は、土をなるべく耕さずに農作物を栽培することで、大気中の二酸化炭素を土壌中により多く貯留させることにある。

なるべく耕さないことによって土壌中の有機物分解が抑制され、従来通りの耕す管理に比べ、より多くの炭素を農地に吸収(隔離)することに繋がるのだ。これこそ、世界中でリジェネラティブ農業が、気候変動抑制に非常に効果的だと言われているゆえんである。

「土壌は、大気の2倍、陸上植生の3倍の炭素貯留能力を持つ巨大な炭素貯蔵庫。地球上では、陸地の3割以上を農業による土地利用が占めているため、たとえば、世界中で、パタゴニアも推奨する“リジェネラティブ・オーガニック農法”が採用されれば、私たち人類が年間で排出している二酸化炭素の量よりも多い量の温室効果ガスを土壌中に埋め戻せるという研究調査があります。気候変動を止めるための解決策が土壌の中にすでにあることを意味し、私たちが想像する以上に、土壌には非常に大きなポテンシャルと魅力があります」。



リジェネラティブ農業のさらに先を目指す
「リジェネラティブ・オーガニック農法」

さらに不耕起栽培には、有機物による土壌環境の改善や、やり方によっては、燃料費や作業コストの削減を見込めるというメリットも挙げられる。

「“耕す”という人類一万年間の歴史が、却って土壌にとって不適切な管理だったということがここ数十年の科学的研究によってわかってきました。過度に、そして精密に耕すことで土壌侵食を誘発し、耕起によって土壌の有機物が必要以上に分解されることで、経年的に土壌機能が低下してしまいます。そして、生産力の低下を補うために、森林伐採による農地拡大を招くことも。

このような土壌劣化は、数十年かけて静かに忍び寄ります。この危機的事実が明らかとなり、国連をはじめ、世界中で土壌の管理方法を変える動きが生まれています。土壌をそもそも物理的に失わず、そして土壌が本来持つ機能をより高めるために積極的に植物を利用するなどの管理は、これからの農業の基盤的技術として求められるでしょう。

また、農地の全面を耕す作業がなくなり、少しでも多くの作業を土壌や植物、動物の働きに任せることができれば、農業者の作業やコスト、時間的負担は減らせると思います」。

リジェネラティブ・オーガニック・コットンを栽培するインドの農場。棉花の間にマリーゴールドなどの植物も。複数種の作物を密接に植える「間作」により、土壌の健康を向上させることができる。©Tim Davis

慣習的に行われてきた耕起栽培から省耕起、そして不耕起へ。そんな大転換と同時に、豊かな土壌を育むうえで、輪作、間作といったアプローチが推奨されていることも、リジェネラティブ農業の大きな特徴と言えるだろう。

なお、こうしたリジェネラティブ農業では、必ずしも有機ではなく、化学合成物質や遺伝子組換え作物を利用することもできる。実際のところ、現在、世界で広がりを見せているリジェネラティブ農業は、不耕起栽培の慣行農業が中心だという。

そうした背景を踏まえ、パタゴニアでは、リジェネラティブ農業の大きな枠組みはそのままに、有機農業を基盤とし、土壌の健康、動物福祉、農家と労働者への公平性という3つの柱について厳格な要件を取り入れた「リジェネラティブ・オーガニック」を推奨している。その理由のひとつには、リジェネラティブという言葉が内包するグリーンウォッシュの可能性を抑止する狙いもあるという。

「現代の農業が抱える問題は多岐に渡り、単に農地を耕すのをやめればいいという話ではありません。例えば、窒素肥料の生成は不活性窒素を活性化させ、窒素循環を大きく乱し、そして、化学肥料の5割以上は、雨水などと共に地下水や河川などの農地外に流れて水域生態系に影響を及ぼす。農薬、遺伝子組換え、マイクロプラスチックが引き起こす自然や生物の健康への影響、生物多様性の消失など……。

これらひとつひとつの課題に解決策を用意することも大切ですが、課題の根本原因を見つけて、すべてをある程度同時に解決できるような農業へと、基盤をそっくり替えていく必要があります。

パタゴニアが勧めるリジェネラティブ・オーガニック農法が、有機栽培を前提として、さらに生物多様性などを育む管理を推奨している理由は、自然に則した管理によって、健全な土壌と自然生態系の再生を目指すためです」。

リジェネラティブ・オーガニック認証・パイロット・コットンを使用した「ウィメンズ・アルパイン・アイコン・リジェネラティブ・オーガニックコットン・ポケット・Tシャツ」¥ 5,280(税込)



伝統的な有機農法をベースに
日本の風土に合ったRO農法を

2018年、パタゴニアは、パートナー組織や認証団体とともに世界最高水準の包括的な有機認証を策定するための団体「リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス」の設立をサポート。そこで、包括的な有機認証である「リジェネラティブ・オーガニック(RO)認証」を制定した。

RO認証とは、「土壌の健康」、「動物福祉」、「社会的公平性」の3つの分野を1つの認証にまとめたもので、取得には既存有機認証の所持が前提となる。生産方法や技術だけではなく、土壌、動物、生産者やそのコミュニティなどを1つのシステムとして高いレベルで包括しており、かつてない画期的な認証だと言えるだろう。現在は世界中から100件以上の応募があり、17件が認証を取得済みだという。

実際に、パタゴニアのコットンについては、ROの試験的プログラムとして提携するインドの農場が、綿花栽培においてリジェネラティブ・オーガニック農法を実践し、2021年春には、RO認証のパイロット・コットンを採用した製品をリリースし、好評を博している。

世界で初めてリジェネラティブ・オーガニック(RO)認証を取得したパタゴニア プロビジョンズの「RO チリ・マンゴー」 ¥885(税込)

ちなみに、RO認証の取得にあたっては、第三者機関である登録認証機関からの審査・認証が必要になるが、日本には、その第三者認証機関が現時点で存在していない。そのため、日本ではまだ現実には農業者が認証取得できる状況にはないというが、その設立サポートも含め、今後パタゴニアでは、ROの考えや実践の国内普及に努めていく予定だ。

その一環として、2021年夏から、日本各地の有機農業法人(2021年12月時点で4団体)とともに協同し、日本の風土に合った形の「リジェネラティブ・オーガニック農法」の追究をスタートしている。

日本の農業は、気候風土や伝統、地域文化に根差して営まれてきました。日本の伝統的な農法には、リジェネラティブ・オーガニック農法と親和性の高い、あるいはすでにそれらを満たしているような素晴らしい実践がたくさんあります。気候風土豊かな日本において、より多くの方のチャレンジを少しでも後押しし、これからの食や農業のために、土壌や農地の生態学的な貢献を明らかにする研究とともに、国内やアジアの農業の進展に貢献したいです」。

普及のためには、消費者の理解や関心の高まりももちろん欠かせない。そのため、オーガニックで環境再生可能な農業や食材を支援する食品コレクション「パタゴニア プロビジョンズ」(2012年創業)での展開も今後視野に入れているそうだ。

持続可能な未来を目指すうえで、大きな契機になる可能性を秘めたリジェネラティブ・オーガニック。土壌や生態系を豊かにするという行為は、本来、農業スタイルを問わず、すべての農業者にとってポジティブなことであるはずだ。すべてを変えることはできなくても、土壌改良の一環として、できることから転換への道筋を検討してみてもいいかもしれない。
 

 


取材・文:曽田夕紀子(株式会社ミゲル)

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