【トマト編】症状別で見る! 生理障害・病害虫の原因と予防の基礎知識
2025/01/29
トマト栽培初心者の失敗で多いのは、肥料と水のやりすぎ。病害虫は発生するとなかなか収まらないため、原因を理解して予防をすることが大切です。今回は植物に現れる症状ごとに、その原因を見ていきましょう。
1.【生理障害】発芽不良
ー温度不足
ー過湿
2.【生理障害】着果不良
ー肥料過多
ー低温
ー高温
ー日照不足
ー若苗定植
ー追肥遅れ
3.【生理障害】異品種出現
ー台木品種
4.【生理障害】尻腐れ
ー石灰欠乏
5.【生理障害】裂果
ー急激な水分変化
ー直射日光
6.【生理障害】空洞果
ーゼリー質不足
7.【生理障害】苦み
ー窒素過多
ー節水栽培
8.【病害】しおれ
ー青枯病(アオガレビョウ)
ー萎凋病(イチョウビョウ)
ーかいよう病
9.【病害】モザイク
-モザイク病/ウイルス病
10.【病害】斑点
-うどんこ病
-疫病(エキビョウ)
11.【虫害】食害
-アブラムシ
-アザミウマ/スリップス
-ハモグリバエ
-オオタバコガ
【生理障害】発芽不良
原因①:温度不足
発芽適温は20~30℃(最低10℃)です。早春のタネまきは、保温マットなどを利用して発芽適温を確保します。
原因②:過湿
発芽には温度、水、空気(酸素)が必要です。土のすき間がいつも水で満たされていると、酸素欠乏になってタネが死んでしまいます。水のやりすぎに注意します。
【生理障害】着果不良
原因①:肥料過多
窒素肥料が多すぎると栄養成長(茎葉が大きくなること)が続き、生殖成長(花や実がつくこと)が遅れます。ひどいと果実がならないで終わってしまいます。樹ボケ(つるボケ)や葉ばかりさまという現象です。
原因②:低温
生育適温は20~30℃です。低温が続くと受粉できずに落花してしまいます。地温が上昇してから定植します。
原因③:高温
生育適温以上の高温でも受粉不良になり、35℃以上になると結実しないことが多くなります。
原因④:日照不足
原産地はアンデス山麓で、赤道に近いため日射量が多いです。強い光を好むため、梅雨時など日照不足が続くと軟弱徒長となり、着果不良になります。
原因⑤:若苗定植
まだ蕾も見えない若い苗を定植すると、吸肥力が強いので栄養成長(茎葉が大きくなること)が盛んになりすぎて、第1花房の開花が遅れたり、ひどいと着果しないことがあります。定植は第1花房の第1花が咲き始めたころにします。
原因⑥:追肥遅れ
4~5段の花は第1果房の果実が大きくなったときに追肥をしないと、栄養不足になって元気な花が咲かないことが多いです。
【生理障害】異品種出現
原因:台木品種
果菜類は病害予防や収量アップのために、病気や低温などに強い台木(接木の下の部分)に接木することがあります。キュウリはカボチャに、スイカはユウガオに接ぎます。トマトの接木苗は台木もトマトなので、台木のわき芽を伸ばしてしまうと、穂木(接木の上の部分)とはまったく違う品種の果実がなります。台木から出たわき芽は早めに摘みとります。
【生理障害】尻腐れ
原因:石灰欠乏
果実の尻部が黒くなって腐るのは、石灰(カルシウム)欠乏による生理障害です。カルシウムは窒素肥料が多いと拮抗作用によって吸収されにくくなるので、窒素肥料は少なめにします。吸肥力の強い若苗定植、高温乾燥、過湿などによっても発生が多くなります。敷きわらをして地温を下げ、水はけをよくして水分を安定させます。塩化カルシウム0.5%液を開花後に葉面散布すると予防になります。
【生理障害】裂果
原因①:急激な水分変化
露地栽培では降雨によって果実が急激に水分を吸い上げると、果皮が耐えきれず放射状に亀裂ができます。乾燥や過湿で根が傷み、株が弱ると発生しやすくなります。水はけをよくし、完熟堆肥を十分施して、根を深く張らせ、環境の変化に耐えられるようにします。雨よけ栽培は効果があります。
原因②:直射日光
上段の果実に強光が当たると、日焼けして果皮がかたくなり、その後の肥大で同心円状にひびが入ることがあります。果実に直射日光が当たるような強い摘葉は避けます。
【生理障害】空洞果
原因:ゼリー質不足
受粉が十分でないと、タネの周りのゼリー質の発育が果実の肥大に追いつかず、子室に空洞が生じます。葉が過繁茂で果実に光が当たらなくてもゼリー質の発育が不良になるので、過繁茂にならないように施肥と灌水をし、過繁茂になったときは花房周辺を摘葉します。トマトトーンによる強制着果でも空洞化は発生しやすくなります。
【生理障害】苦み
原因①:窒素過多
窒素肥料が多いと吸収した窒素が消費しきれず、果実内に硝酸隊窒素が残留し、苦みやえぐみが出ることがあります。一度施した肥料は土壌から除去できないので、適量を心がけます。
原因②:節水栽培
フルーツトマトは水やりを少なくして高糖度にします。節水栽培はトマトが元来保有している病害虫から守るアルカロイドなどの成分も濃縮され、苦みが出ることがあります。
【病害】しおれ
原因①:青枯病(アオガレビョウ)
夏に茎葉が青い(緑の)まま急にしおれて枯死します。細菌による土壌伝染病で、過湿になると多発するので、水はけをよくします。30℃以上になっても多発するので、敷きわらをして地温の上昇を抑えます。
抵抗性の品種や 抵抗性台木に接木した苗を用います。トマトだけでなく、ナスやジャガイモなどのナス科野菜の連作は避けます。
原因②:萎凋病(イチョウビョウ)
下葉が黄変して、新葉がしおれます。糸状菌(カビ)による土壌伝染病です。過湿になると多発するので、水はけをよくします。抵抗性の品種や抵抗性台木に接木した苗を用います。トマトだけでなく、ナスやジャガイモなどのナス科野菜の連作は避けます。
原因③:かいよう病
下葉の縁からしおれて黄変し、次第に上葉に広がり、茎の中が褐色に軟化腐敗します。細菌による接触伝染なので、わき芽かきは晴天の日に行い、ハサミは使用しません。トマトだけでなく、ナスやジャガイモなどのナス科野菜の連作は避けます。
【病害】モザイク
原因:モザイク病/ウイルス病
葉が緑色濃淡のモザイク状や、細く奇形になりよじれます。果実に伝染すると凸凹になります。アブラムシが媒介するウイルスが原因なので、アブラムシを見つけ次第防除します。
モザイク病に効く薬剤はなく、病株は抜きとり持ち出し処分します。タバコモザイクウイルス(TMV)抵抗品種は多いですが、キュウリモザイクウイルス(CMV)には感染するので注意します。
【病害】斑点
原因①:うどんこ病
葉に白い斑点ができ、進行すると葉全体がうどん粉をまぶしたように白く覆われます。カビ(糸状菌)による伝染性の病気で、窒素過多で発生しやすくなります。密植を避け、日当たりと風通しをよくします。被害葉は切りとり持ち出し処分します。
原因②:疫病(エキビョウ)
葉に不正系で灰緑色の病斑が生じ、徐々に大きくなり暗緑色の大型病斑になります。病斑の周りや葉裏には霜状のカビが生えます。果実に伝染すると暗褐色の火傷状の病斑を生じます。土壌が過湿になると多発するので、水はけをよくします。
糸状菌(カビ)による病害で蔓延力が強く、泥跳ねで菌が茎葉や果実に侵入するので、マルチを張って泥跳ねを防ぎます。トマトだけでなく、ナスやジャガイモなどのナス科野菜の連作は避けます。
【虫害】食害
原因①:アブラムシ
葉に体長2~4mmの小さな虫が群生し、吸汁して生育を阻害します。モザイク病(ウイルス病)の原因となるウイルスを媒介します。窒素過多だと葉でアミノ酸が多く合成され、それを好むので多発します。
キラキラ光るものを嫌う習性があるので、シルバーマルチを張ると飛来防止効果があります。見つけ次第捕殺します。
原因②:アザミウマ/スリップス
成虫と幼虫が吸汁して葉と果実を加害します。葉はカスリ状に白くなり、果実は小さな褐色の傷ができます。成虫も幼虫も体長1~2mmで、肉眼で見つけることは難しいです。アザミウマはキラキラ光るものを嫌う習性があるので、シルバーマルチを張ると飛来防止効果があります。雑草に寄宿するので、周りの除草をします。
原因③:ハモグリバエ
体長2mmほどの黒いハエの幼虫(ウジムシ)が、葉の組織内に侵入してトンネルを掘るように食害します。葉にくねくねとした白い筋ができるのでエカキムシ(絵描虫)ともいいます。
幼虫は筋の先端にいるので指でつぶします。被害葉は切りとり持ち出し処分します。発生が少ない場合は実害はないので放任してもかまいません。
原因④:オオタバコガ
ガの幼虫が果実に5mmくらいの丸い穴をあけて侵入し、果肉を食害します。暗褐色の糞を穴から出すので、穴や糞を見つけ次第果実を切りとり、中にいる幼虫を退治します。処置が遅れると幼虫は体長3~4cmにもなり、1匹が複数の果実を次々と食害します。病害虫は早期発見・早期対処が大切です。
文:山門昭雪
Xアカウント:@yasaidaisuki6
野菜と多肉のぴー農園園主 幼いころから祖母の畑で遊び、国立T大学農学部卒。種苗会社で育種、産地開発、園芸相談などを担当。土壌医。