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肥料価格高騰を受けて誕生!堆肥と再生リン活用のエコ肥料「e・green」による福岡県の循環型モデル

JAグループ福岡(JA全農、県下JA)と福岡市役所がタッグを組んで肥料価格の高騰という大ピンチをチャンスに変えた。地域の未利用資源を肥料として有効活用した好事例を紹介しよう。

肥料価格高騰をきっかけに
迅速に新肥料を開発

国際情勢の変化や円安などの複合的な要因によって2022年、肥料価格が高騰した。それを契機に注目されているのが国内の未利用資源。家畜排せつ物や下水汚泥など、国内にあって使われていなかった資源を肥料に活用しようという動きが活発化している。

2023年12月に改訂された「食料安全保障強化政策大綱」では、家畜排せつ物由来堆肥・下水汚泥資源の肥料使用量を2030年までに倍増させ、肥料の使用量に占める国内資源割合を40%に拡大することが目標とされた。

肥料の高騰対策や国内資源の利用に向けた新たな取り組みが、全国農業協同組合連合会福岡県本部(JA全農ふくれん)・福岡市・片倉コープアグリグループ 大日本産肥により行われている。福岡県内で得られる再生リンと県内の堆肥などを混合した肥料「e・green」の生産販売を始めたのだ。


2022年、JA全農ふくれんと福岡市は包括連携協定を締結。「e・green」開発に成功した。

JA全農ふくれん農機資材部生産資材課の田淵浩平さんが経緯を説明してくれた。

「きっかけは肥料価格の高騰でした。農業生産者から『何とかならないのか?』と、悲鳴にも似た声が多数届いたのです。そして2022年2月、福岡市から再生リンの利用について打診を受けました。福岡市では下水汚泥からリンが抽出されていたのですが、設備更新により再生リンが大幅に増え、使い道を模索していたのです。一方、JA全農ふくれんでも、管轄する福岡県内の耕種生産者の間で家畜糞由来の堆肥利用が広がらないという課題を抱えていました。


福岡市は以前から、海の富栄養化による赤潮発生を防ぐため、下水汚泥からリンを抽出していた。


福岡市が実施した設備更新により再生リン製造能力が高まり、その利用先としてJA全農ふくれんに白羽の矢が立った。

そこで、福岡市の再生リンとJAみいの堆肥をはじめ、県内JAの堆肥を原料として県内の肥料メーカー(大日本産肥)で肥料『e・green』を製造し、県内の耕種農家が利用するという循環モデルを構築したのです」。

福岡県内の循環型モデルを構築

司令塔のJA全農ふくれんを中心に消費者・行政を含めた循環の輪が構築された。

「e・green」は、福岡市が回収した再生リンとJAグループの堆肥、そして従来から使用していた化成肥料原料を組み合わせた短粒ペレット状の肥料。ペレット状だから施肥しやすい、植物が吸収しやすい、さらに有機物と化成肥料を一度に施肥できるなど、機能面で優れている。そのうえ国内未利用資源を使用するため、既存の化成肥料より2~3割ほど安価(銘柄により価格は異なる)である。

農業生産者は高く評価!
今後も強い需要を見込む

JAみい青果ほうれん草部会長(当時)の荒巻耕太さんは、「e・green」の使用感をこう話す。「1株あたりの重さが1割ほど増えたうえ、葉色がより鮮やかになりました。リンと堆肥が地域資源だから安定して入手できる。それも、この肥料の強みです」。


JAみい青果ほうれん草部会長(当時)の荒巻耕太さんは「e・green」の愛用者。

田淵さんは、「機能面や土づくり効果もさることながら、安価であることが高く評価されている」と考えている。肥料価格は農業生産者にとっての持続可能性に直結するのだから、当然だろう。

「2022年9月に販売開始された『e・green』は今では10銘柄にまで増えており、販売量も伸びています。農業生産者による高い評価の表われでしょう」と田淵さんは胸を張った。

肥料製造を担う大日本産肥営業部次長の野々下昌利さんは、下水から抽出したリンを使う点に不安があったと語った。一般的に下水汚泥の肥料利用において重金属の混入が話題に上ることがある。

再生リンには、下水から化学的に抽出される過程で重金属が混入する危険性がありません。しかし、知らないことに起因するイメージの悪化、臭いのではないか、危険なのではないかと思われてしまうのが不安でした。その点、JAみいの青果ほうれん草部会の方々は正しく理解して一緒になってハードルを越えてくださった。深く感謝しています」(野々下さん)。

地方自治体と農業機関の連携は全国的にも珍しい。福岡市役所の場合、下水に対する市民の理解醸成を牽引してきたことが『e・green』普及の原動力となった。

「今では、農業生産者・地方自治体・農業機関、それに消費者にもメリットを提供できるようになりました」と田淵さんと野々下さんは手応えを語る。これからも「e・green」のさらなる普及に励みつつ、新たな資源の肥料への活用を探索していくという。

DATA


新規エコ肥料「e・green」
地域の未利用資源を利用することで従来の化成肥料と比較して2~3割安価。それでいて、撒きやすく、肥料の効果も従来品と同等で、土づくり効果がある。今では10銘柄を誇り、販売が増え続ける人気肥料へと成長した。


文:川島礼二郎

AGRI JOURNAL vol.35(2025年春号)より転載

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