【超農祭2025】稲作のトップランナーが議論。節水型栽培と日本農業の未来
2026/02/03
超農祭2025では、節水型乾田直播で先進的な米づくりに取り組む農業者が、これからの節水型栽培と日本農業の未来をテーマに本音トークを繰り広げた。
メイン画像:トークセッション「農業者が語るリアル、期待、これからの農業」
トゥリーアンドノーフ
徳本修一さん

ヤマザキライス
山﨑能央さん

メタンガスを抑制
新しい価値がある
登壇したのは、鳥取市の農業法人「トゥリーアンドノーフ」代表取締役の徳本修一さんと、埼玉県杉戸町の農業法人「ヤマザキライス」代表取締役の山﨑能央さん。モデレーターは、超農祭2025を主催したNEWGREEN代表取締役COOの中條大希さんがつとめた。
ー節水型栽培に取り組んだ理由は
徳本 鳥取県の中山間地域で105ha、約500 枚の田んぼを直播で管理していますが、水管理は膨大な労力と精神的ストレスを伴います。特に渇水期には、用水路の水を自分の田んぼに引き入れることで、周辺の農業者に気を使う場面が少なくありません。そのため、少ない水で作付けできる節水型栽培への移行は喫緊の課題でした。
山﨑 生まれたばかりの新しい技術なので、ワクワク感がありますよね。私たち担い手が栽培面積を拡大していくなかで、メタンガスの発生を抑制するという環境保全的なところにも新しい価値があると考えています。
地中深くまで
無数の毛細根を張り巡らす
ー節水型栽培に取り組んだ感想は
徳本 最大の課題は、メヒシバやオヒシバなどのイネ科雑草の管理です。2025年はAI技術を活用した「雑草管理システム」を導入したところ、除草剤の散布などを適期に行うことができました。夏場の猛暑に対しては、強い耐性があると感じています。実際に稲を掘り起こしてみると、地中深くまで無数の「毛細根」を張り巡らせていて、この強靭な根が、土中のわずかな水分を吸収し、厳しい暑さを乗り越える力になったと思います。
山﨑 最大のポイントは、播種深度だと思います。適切なタイミングでの走り水も重要です。田んぼが乾き過ぎると、稲の生長がとまってしまうからです。節水型栽培は“手が全くかからない”というのは誤りです。農業者が責任を持って田んぼを観察し、管理する姿勢がなければ成功しないと思います。
中條 自社ほ場や協力農家のほ場で検証した速報データを分析すると、メタンガス排出量は移植栽培の数値を大幅に下回っていました。一方、懸念されていた亜酸化窒素(N2O)は、従来の移植栽培とほぼ同レベルの数値でした。
食味について
誤解している人が多い
徳本 米の味については誤解している人が多いですね。先日、米にこだわりを持つ東京・南青山の高級レストランに、自分の節水栽培米を持ち込んだところ、その店のシェフが「これはガチでうまい」と絶賛していました。
中條 「節水栽培米グランプリ」では、食味値90に近い高得点を記録する生産者が複数現れるなど、客観的なデータでも品質の高さが証明されています。
山﨑 節水型栽培は、農薬をたくさん使っているのではないかという話を耳にしますが、これも誤った情報です。埼玉県では、乾田直播栽培の「特別栽培農産物基準」は、農薬の使用が19成分以内と定めています。でも、自分の会社では、除草剤・殺虫剤・殺菌剤の使用が計9成分と、県の基準を大幅に下回っています。
新しい日本農業の
夜明けがはじまる
農林水産省は、2026年度に米の安定生産に向けて「節水型乾田直播の導入支援」に取り組む方針だ。節水型の米づくりと、それに関連して新たに開発されたサービスは、今後5年から10年で日本の農業をどう変貌させるのか。
山﨑 生まれたばかりのサービスは完璧ではなく、70点と考えるべきです。生産者は、サービスをより良いものへと一緒に“育てていく”当事者としての姿勢が求められると思います。
徳本 節水型栽培によって、低コストで高品質な米の安定供給が可能になれば、海外輸出も視野に入ってくると思います。この会場のみなさんと、同じ志や熱量を持つ仲間が全国にいます。そのつながりこそが、困難を乗り越える力になるはずです。一緒に日本の農業を盛り上げていきましょう。
取材・文:佐久間厚志
撮影:金子怜史
AGRI JOURNAL vol.38(2026年冬号)より転載





