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データを活用した施設栽培で生産性と収益性の向上。スマートグリーンハウスを始めよう!

スマートグリーンハウス(以下、SGH)の普及を推進している日本施設園芸協会では、SGHを「データを科学的に利用する園芸施設」と定義している。そんなSGH入門のハードルは極めて低く、誰でも取り組むことができる。これからスマートグリーンハウス化を進めるにあたって、何を目的に、何から始めればよいのか紹介する。

<目次>
1.データ活用の第一歩は収量からの把握から
2.収量を比較して分析 そこでデータを活用する
3.栽培計画を立てて実行する そこにデータを活用する
4.会計データの活用は経営改善に必須
5.会計データや販売データとの連携に期待

 

データ活用の第一歩は
収量の把握から

データ活用を始めるには、何を目的に、どのように行えばよいのだろうか? 

教えてくれたのは日本施設園芸協会の技術部長、土屋和さん。「データを活用することはスマートグリーンハウス(SGH)の第一歩ではありますが、それ自体を目的にしてはいけません。施設園芸はそれを行う人にとって生業なのですから、あくまでもデータ活用の目的は収益の向上に置くべきです。ただ製品・サービスを導入すれば良い、というわけではありません」。

収益を増やすことを目標とするなら、収量の把握を第一に行うべき、と土屋さんは話した。

「データ活用の最初に行うべきは、収量の把握です。収益の源泉となるのは収量であり、収量が(大まかに)売上を決める。それなのに収量を正確に把握できていない方が、案外少なくありません。系統出荷の場合はJAから伝票が送られてきますが、そこには収量のほか、等階級データなどが記されています。スプレッドシートや営農情報を管理するクラウドサービス等を活用して、これらを記録しましょう。収量データが把握されていないと、後に行った対策の良否が判断できません。収量、さらに等階級や売上を記録すること、データ活用はそこから始めるのが基本です」

収量を比較して分析
そこでデータを活用する

土屋さんは、次に行うべきは分析である、と説明した。

「分析の事例は、当会のウェブサイトで公開しているスタディクラブの取り組みが参考になります。具体的には、地域や部会である程度の人数の農業生産者が集まり、お互いのデータを見比べながら、自身のハウスの環境や植物の生育状況などを分析します。自身よりも高い収量をあげている人がいれば、なぜ多く取れているのか、なぜ自分は少ないのか、その原因をデータから探し出し、改善して行くのです。若い生産者の皆さんには、オンラインを含めて横の繋がりを上手に築くことができる人が増えてきています。地域などにとらわれず、お手本となる人を探して、そこでもデータを活用して収量を高めることも、これからの取り組みと言えるでしょう」

ここで活用できるのが、ハウス内の環境データや機器の稼働データ、生育調査による植物の生育データだ。お手本となる人のデータと比較して、違いを探し、自分のハウスや栽培に合う形で改善をしてみることだ。

 

栽培計画を立てて実行する
そこにデータを活用する

コストや効率化の面から、労務管理や作業管理が気になる方もいるはずだ。土屋さんは、別の視点から作業管理について説明してくれた。

「作業管理の目的として、ひとつには進捗管理があります。その日の作業が計画通り行われているかを確認することです。どの畝のどんな作業を、いつ、誰が、行ったのかを、手書きのマップを使って記録、確認することが行われています。また最近は作業管理アプリを使って、作業進捗や作業時間などのデータを簡単に記録、分析することもできます。適切な作業管理ができないと、収量増は実現しません。収穫に追われ、芽かきや誘引などが遅れると、植物の生育にも影響が出て、結果的に収量が上がりません。 適切なタイミングで必要な作業を行うことが重要です。その前提として、正しい作業計画を立てる必要があります。それには、過去の収量や作業データなどを振り返って、過不足が無いよう作業を組み立てることになるでしょう」

会計データの活用は
経営改善に必須

次は会計データの活用。

「多くの農業生産者は、もっと会計データを活用すべき」と土屋さんは指摘した。一般的な企業であれば、決算をして、収益の状況とその要因をみて、対策する。
ところが農業生産者は、青色申告したらそれっきり、という方が多い。収入と経費は貸借対照表に表される。費目ごとの経費を分析し、売上に対して経費が妥当かどうかの確認など、会計データは経営改善に欠かせない

「お勧めしたいのは、自分で会計ソフトを使って、自分で会計管理すること。市販の製品やサービスには、売上や経費をグラフ化したり、前年対比をするなど、使い勝手に優れたものもあります。当協会でも、報告書に会計データの分析例を載せるようにしています。これは『農業生産者は経営者なのだから、経営についてのデータにも強くなって欲しい』というメッセージです」

 

会計データや販売データとの
連携に期待

最後に土屋さんは、データ活用に関連した製品サービスの動向として、データ連携への期待を語った。

「APIによるデータ連携が、いよいよ動き出しました。これまでサービスごとに散在していたデータが、紐づきつつあります。当協会でも農機API共通化コンソーシアムに参画し、施設園芸の環境データなど、生産関連データの連携を進めています。今後、データ連携の動きが一層盛んになると、農業生産者にとってはメリットが生まれると思います。会計データや販売データと生産関連データが紐づくことになれば、生産と販売、収益の関係性が今以上に見えやすくなります

 

データを活用して施設園芸の生産性と収益性を向上させる

日本の施設園芸が長らく頼ってきた「経験と勘」を、「データ(数値)と科学技術」に置き換える試みがSGHです。
SGHに取り組むことで、経験の浅い就農者は技術習得に掛かる時間を大幅に短縮できます。経験のある生産者は、SGHを突き詰めることで、これまで誰も経験したことがなかった収量や収益にまで飛躍できる可能性があります。

SGHを始めるに当たって、必ずしもセンサーや制御機器をたくさん備えている必要はありません。当初は、データ利用の効果にこだわる必要もありません。データ利用に取り組めば、それはSGHのはじまり。データの有効利用=SGHに取り組み、生産性と収益性を高めていきましょう!

農研機構 野菜花き研究部門 所長

東出忠桐さん


文:川島礼二郎

AGRI JOURNAL vol.32(2024年夏号)より転載

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