東京大学、営農型太陽光で国内初の長期試験を実施 総収益が5倍以上に
2025/06/02

東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループが、稲作の営農型太陽光発電について、国内初の長期試験を実施した。その結果、米の収穫量は平均23%程度減少したものの、発電収入を含む総収益は従来の稲作の5倍以上に増加した。
メイン画像:営農型太陽光発電の試験圃場(写真提供 東京大学大学院農学生命科学研究科)
第7次エネルギー基本計画に
適正な導入拡大を明記
営農型太陽光発電の試験圃場(写真提供 東京大学大学院)
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は、一時転用を受けた農地において、簡易で容易に撤去できる支柱を立てて上部に太陽光発電設備を設置し、農業と発電を同時に行うものだ。発電した電力を売電することで農家の収入拡大につなげることもできる。
第7次エネルギー基本計画で太陽光発電は、2040年度の電源構成でトップ電源に位置付けられており、全体の23~29%を担う目標を掲げている。しかし国内では、大規模な太陽光発電設備(メガソーラー)の導入が頭打ちとなっている。用地の制約による適地の減少が主な要因で、太陽光発電全体としても年間導入量が減少傾向にある。
今後、太陽光発電の導入拡大を図るためには、建築物の屋根や壁面の有効活用を進める必要がある。第7次エネルギー基本計画では、農地についても、優良農地の確保を前提に、営農が見込めない荒廃農地への再生可能エネルギーの導入拡大を進めるとともに、営農型太陽光発電については、事業規律や適切な営農の確保を前提として、地方公共団体の関与などにより適正性が確保された事業の導入拡大を進める方針を打ち出している。
営農型太陽光発電は、夏場の強すぎる日射を太陽光パネルが弱めてくれるため、一部の作物では品質向上につながるという報告もある。その一方で、太陽光パネル設置によって日射量が減少することで収量が低下するケースもある。特に水稲のような穀物は、野菜類に比べて日射量の減少の影響を受けやすいため、営農型太陽光発電を導入しにくいとされてきた。
収量は23%低下も
総収入は5倍以上に
営農型太陽光発電の収量比較(出典 東京大学大学院)
東京大学大学院農学生命科学研究科の加藤洋一郎教授などによる研究グループは、稲作における営農型太陽光発電の影響について、長期間のフィールド実験を行い、その結果を発表した。研究では、営農型太陽光発電を実施している茨城県筑西市の試験圃場で、6年間にわたって日射量や気温、水稲の収量や品質を調査した。
その結果、水稲収穫量は平均23%程度減少したものの、発電収入を含む総収益は従来の稲作の5倍以上に増加した。これは農業収益に比べ、太陽光発電の収益性の方がはるかに高いことを示している。
従来、水田における営農型太陽光発電の研究は、1~2年の短期間による調査報告が中心だった。6年間におよぶ長期試験は国内初の取り組みだ。今回、長期にわたって技術的な課題と可能性を包括的に分析し、発電収益によって農家の収入が大きく向上する可能性を示したことは意義深い。
その一方で、太陽光パネルの設置によって水稲群落の気候が微妙に変化し、水温の低下による生育遅延や穂数、稔実歩合の減少を通じて収量の減少を引き起こすことが報告された。また白未熟粒の増加による玄米外観の悪化や、食味低下に関係する玄米タンパク含量とアミロース含量の増加を引き起こすことも確認された。
農地法施行規則では
平均単収の8割以上が条件
農地法施行規則とガイドライン(出典 農林水産省)
農林水産省は、営農型太陽光発電の事業者に対して、農作物の収量が2割以上減少した場合や、品質が著しく劣化した場合は、農地の一時転用を許可できないと農地法施行規則に明記している。今回の研究結果では収量が平均23%減少しているのに加えて、玄米外観の悪化や食味低下も確認された。現行の制度のもと、茨城県筑西市の試験圃場で持続的な発電事業を実施するには、平均単収の8割以上の収量を確保する必要がある。
東京大学大学院の研究グループは、今後は営農型太陽光発電の水田に適した栽培管理技術の開発や新たな水稲品種開発に取り組んでいくことが望まれると結論づけている。収量の向上に向けては、発電設備の開発や改良も大きな課題となりそうだ。
DATA
取材・文/宗 敦司