「空気を肥料とする」農業へ! 名大の研究が大きな一歩
2018/06/14
作物の栽培には欠かせない窒素肥料。しかし、その窒素肥料による環境問題が深刻になっていることをご存知だろうか。名古屋大学大学院では、光合成生物に着目し「空気を肥料とする」農業へ一歩を踏み出した。
STOP!
肥料による環境汚染
肥料の三要素(窒素・リン酸・カリウム)の筆頭にあげられる窒素。作物の栽培で高い収穫量を得るためには十分な窒素肥料を与えることが必須となっており、現在、ほとんどの窒素肥料は、工業的窒素固定によって作られている(注1)。
しかし、工業的窒素固定には大量の化石燃料が使われ、二酸化炭素を大量に排出する上、耕作地から過剰な窒素肥料成分が環境に流出し、環境汚染が深刻化している。
もし、肥料のいらない「空気を肥料とする」農業が実現すれば、この問題の解決策となるだろう。今回、名古屋大学大学院生命農学研究科の藤田祐一教授の研究グループが発表した研究成果は、そんな夢のような未来に大きく一歩踏み出すものだ。
肥料のいらない
農業の実現へ
同研究グループが着目したのは、シアノバクテリア(注2)という微生物。約半数のシアノバクテリアが、酵素によって空気中の窒素を窒素肥料に変える能力を持つ。作物自体にその酵素を作らせることができれば、作物自身が空気中の窒素を窒素肥料に変える、まさに“空気を肥料とする”農業が実現できる可能性がある。しかし、この酵素は酸素に弱いことや、多くの遺伝子を必要とすることなどから、技術的に非常に難しいと考えられていた。
しかし今回、同研究グループは窒素固定(注3)酵素とその関連遺伝子(26個)をシアノバクテリアに導入することにより、光合成生物で窒素固定酵素を働かせることに初めて成功した。
この研究成果は、今後、作物に窒素固定の能力を与え、肥料のいらない「空気を肥料とする」農業の実現への大きな一歩となる。
この研究は、JST戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)、JST未来社会創造事業、日本学術振興会 科学研究費助成事業(基盤B)の支援のもとで行われた。
注1)工業的窒素固定…金属触媒を使って高温・高圧で窒素に水素を反応させることでアンモニアを生産する過程。現在、工業的窒素固定に大量のエネルギー(大型の原子力発電所150基に相当) を投入して窒素肥料を生産している。
注2)シアノバクテリア…植物と同じ光合成を行う一群の微生物。植物の葉緑体の起源となったと考えられており、様々な観点で植物の葉緑体と非常によく似ている。約半数のシアノバクテリアが窒素固定の能力を持つ。酸素に弱い窒素固定と酸素を作る光合成とを両立できる唯一の生物。
注3)窒素固定…大気に含まれる窒素分子をアンモニアに変換する過程。アンモニアは、植物をはじめ多くの生物にとって窒素源となる。