ドローン×AIで牧草選抜を効率的に! 新たに開発された「スマート育種評価法」とは
2020/04/06
農研機構とバンダイナムコ研究所は、ドローンと人工知能(AI)のディープラーニングを用いた「牧草育種評価法」を開発した。育種家が畑を歩いて肉眼で観察していた優良牧草の選抜作業を、AIが代わりに行えるようになる。
育種家の代わりに
AIが牧草評価
農研機構とバンダイナムコ研究所は、共同研究でドローンと人工知能(AI)のディープラーニングを用いた「牧草育種評価法」を開発した。これまでは、約1000株の牧草畑の場合、育種家が優良な牧草を選び出すために、畑を2時間以上歩いて肉眼で観察し、牧草を一株ずつ評価していた。
今回開発された育種評価法では、ドローンで撮影した画像から、あらかじめ学習させておいたAIにより選抜作業が行われる。時間も5分程度まで短縮できる。
撮影に使用したドローン
これまでの牧草の選抜は、育種家が評価できる数に限界があり、選抜できる対象数は限定されていた。しかし、この手法を用いることで、短時間で数多くの評価ができるようになり、より多くの優良な牧草を効率的・客観的に選抜できる可能性が高まった。
狙いは牧草数の拡大と
客観的評価
飼料生産性を向上させるため、高品質な牧草品種の開発が求められているなか、優良な牧草を選び出す可能性を高めるには、もともとの牧草の母体数が多い方が好ましい。しかし、母体数の規模は、育種家の対応能力に依存しているために限界があった。また、優良牧草の選抜は、主に育種家による観察評価のため、育種家の能力に依存する部分が大きかった。
そこで大きな集団を、客観的に効率的に取り扱うことができて、育種家の能力に依存しない選抜評価方法の開発が期待されていた。今回の研究で着目されたのが、ドローンとAIだ。
ドローンは高性能化、操作の簡便化、低価格化が進んでいるうえ、鳥瞰的にデータを得られるため、さまざまな用途や場面で用いられる。一方のAI は、深層学習(ディープラーニング)が発達してから、画像認識能力が飛躍的に高くなっている。ドローンで得られた視覚情報を、AIの画像解析法により客観的数値に置き換えることで、効率的・客観的な選抜評価ができる。
AIによる優良個体選抜の概念図
評価時間の短縮
場所の自由度が高まった
今までの育種家による調査では、その畑の収量程度、病気の状態、越冬性などの情報を掴むためには、畑に植えられた牧草を約1000個体とすると、傾向をつかむだけで1時間程度は必要であった。しかも、詳細なデータを記録するためには、1日かかることもあるうえに、日没後の評価は不可能であり、冬を過ぎてすぐに行う越冬性調査は、長時間の寒さに耐える必要があるという過酷なものだった。
それに対し、今回開発された「牧草育種評価法」を用いれば、5分程度で圃場の状態を撮影・記録できるうえ、空撮画像のAIによる評価は、室内で夜間であっても実施できる。
また、研究において、試験用画像をAIに評価させたところ、ほぼ9割以上の正答率が得られていた。育種家が同じ圃場を、別の日に評価した結果と比べても大差は無かったため、この手法が育種家の代わりになり得ることが示された。ただし、評価のために撮影する牧草の生育ステージ、雲の影響による太陽の明るさ、湿り具合による地面の色などが異なると、AIは正しい判断ができない。
そのため、利用場面ごとにAIを学習させる必要があるのだが、明るさや地面の色などによる影響においては、様々な撮影条件下で撮られた画像を一緒に学習させることで、回避できることが分かった。生育ステージ評価においても、現在8月下旬から9月上旬の生育ステージを評価できるAIモデルが用意できているようだ。
両機関は、今後これまでよりもさらに良い牧草品種が、本手法によって生み出されることを期待している。
DATA
TEXT:竹中唯