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人気デザイナーに聞く! 農作物や加工品に適したパッケージデザインとは?

消費者はパッケージから様々なことを瞬時に読み取っている。農に適したパッケージデザインとは? 農業×ブランディングを得意とする人気デザイナーたちに、基本を教えてもらった。

メイン画像:松香園のロゴのリニューアルに合わせて、ギフトボックスをデザイン。ロゴの絵柄の一部から、「メロン」の網目模様や「松」の形を抜き出して使用。ロゴとの一体感も生まれた。

農業のデザインは
『かっこよすぎないこと』

農家が六次産業化や直販を始めるにあたって、販売戦略における重要な要素のひとつがパッケージデザインだ

たとえば、商品が並ぶ陳列棚を見たとき、実際に商品を手に取ったとき、消費者は瞬時にパッケージから様々な情報を読み取り、購入するかどうかをジャッジしている。農業に適したパッケージデザインは、どういうものなのか。

静岡県有数の農業産地、浜松市。そこに拠点を構える「株式会社55634」は、ブランディングを得意とするデザイン会社だ。代表の外山佳邦さんは、農業にデザインの力が必要な理由について、こう語る。

「農業において共同出荷が主な基盤だった時代は、品質や味の良いものを作っていれば、自然に売れるという考え方が主流でした。ところが、情報があふれる現代では、生産や出荷の形態に関わらず、その存在を知ってもらうこと自体が1つの大きなハードルとなっています。

純粋においしくて品質の良いものでも、ハードルを越えられずに埋もれていくものは山ほどある。それを補助するのがデザインの力です。こだわりを持って作られたおいしいものが、デザインの力によってきちんと販売という発射台に乗ることができる。それがこの仕事の醍醐味でもあります」。

農業にまつわるデザインを手掛ける際、デザイナーとして外山さんが心がけていることがあるという。それは、「カッコ良すぎない」ということ。

「デザイナーは職業柄、シンプルかつソリッドな方向に仕上げたがる傾向にありますが、農業に限っていうと、カッコ良すぎないということをいつも頭に置いています。農作物や加工品は、食べ物。興味関心を惹くデザインが求められます。

シンプルで都会的な顔つきをしていると、お洒落だなと思っても消費者にはよく伝わらず、スルーされてしまうことも。それに、ちょっと親しみのあるデザインの方が農家さんも気持ちが入ると思う。インパクトがあって少しクセがある、それくらいのトーンがちょうどいいと考えています」。

▶ POINT
☑ 販売場所、ターゲットによって、あるべき顔つきは異なる
☑ 農業のデザインは、ソリッドになりすぎない絶妙な塩梅が良い



そんな落としどころを目指してデザインした結果、売り上げが倍増したケースも。例えば、はちみつの生産・販売をする「養紡屋」のラベルデザイン。昔ながらの薬のパッケージをイメージしたというラベルデザインは、クラシカルな雰囲気のなかにどことなくワクワク感が漂う。

金箔調の和紙シールを採用し、上品な世界観に仕上げつつも、生産者である“塩見さん”の名前を由来に、「Produced by “403”」と、洒落も盛り込むなど遊び心も利いている。

こだわりが詰まった養紡屋 ハチミツのラベルをデザイン。クラシックな雰囲気のマークを制作。ハチミツと馴染みのいい金箔調の和紙シールを採用し、上品な雰囲気に仕上げた。

「前のラベルは、クラフト紙に手描き風の店名とミツバチのイラスト、蜜の名前を記載しただけの、シンプルで手作り感の強いものでしたが、ラベルのデザインを変えただけで売り上げが変わりました。

印象に残っている言葉があって、前のラベルの時は『このハチミツ高いね』って言われていたのが、ラベルを変えただけで『この値段なら安いね』って言われるようになった、と

デザインによって、値段の印象も変わるんですよね

ラベルデザインだけでも
表情は変えられる

パッケージデザインを手掛ける際は、売り場をイメージし、逆算するところから始めるという。

「まず、どういうお店に置いてほしいのかを農家さんにヒアリングします。例えば、高級スーパーと道の駅では、どういうデザインであるべきかは異なります。場所を設定して、他にどういう商品があるか、それならどういう顔つきであるべきかを一旦頭に入れ逆算したうえで、そこから農家さんのこだわりや個性をデザインに落とし込んでいきます」。

この客観的な視点を保持しながら、デザインに落とし込むのがプロの技だ。生産者の視点だけでデザインしようとすると、どうしても主観的になってしまう。「ありがちなのが、ご自身が好きな色を使おうとするケースです。

赤色が好きだから赤にしたい。でも、実際、その商品が並ぶ棚を見ると、赤いパッケージがすでに3種類くらい並んでいる。そのなかで本当にまた赤を投入するんですか、と。たぶん誰にも気づかれないですよね。農家さんは商品に愛情をかけている分、主観的になるのは仕方がないこと。だからこそ、専門家としての視点から気づいたことをお話ししています」。

適した顔つき=デザインはもちろん案件によって異なるが、農業のデザインという1つのジャンルにおいては、外山さん流のいくつかのセオリーがあるそうだ。「農業のデザインでは、なるべく印象に残りやすい強い色を意識していますね。例外もありますが、色はシンプルに1〜2色で考えています。

あとは当然ですが、色の特性をよく踏まえています。例えば、取り扱い注意なのは、青色。基本的には“食が進まない色”と言われて避けられがちですが、鮮度の良さをPRするには効果的なのであえて使う時もあります。また、フォントは基本的に読みやすく、親しみやすいものに。デザイン性が高くても読みにくい文字はストレスに感じる人もいるので。パッと読んでもらえることは重要ですね」。

また、オリジナルのパッケージデザインは予算的にハードルが高いという生産者のために、敷居が低くなるような提案も。例えば、「まるたか農園」のブランディングでは、ミニトマト「ハピフルとまと」の商品ラベルを制作。中身が見える透明なフードパックにぐるりと巻く、巻紙タイプのラベルを提案してデザイン。低予算に抑えつつ、商品価値が伝わるパッケージデザインとしてきちんと成立させている。

笑顔やハートのマークが描かれたミニトマト。商品の個性が自然に伝わるデザインを意識し、中身のミニトマトをしっかりと視認できるよう、ラベルの幅にも配慮。

「オリジナルパッケージはロット数も必要ですし、大量に作らないのであれば採算が合わないことも。でも、既存のパッケージを使い、巻紙のサイズを決めてデザインをすれば、紙代だけで済みますよね。巻紙ひとつでも、商品の表情を作ることはできますから。その売れ行きを見てから段階を踏んで、オリジナルパッケージにするのも手だと思います」。

手塩にかけて作った農作物や加工品。それをしっかりと消費者へ届けるツールとして、身の丈に合った形でぜひデザインの力を活用していきたい。

教えてくれた人

株式会社55634 代表

外山佳邦さん

静岡県浜松市にあるデザイン会社「株式会社55634」代表。同志社大学卒業後、コピーライティングとグラフィックデザインを学び、百貨店のチラシ、ポスターなどを制作するデザイン会社に勤務。2012年に株式会社55634設立。地域の「農」に興味を持ち、積極的にブランディングを手がけている。


文:曽田夕紀子(株式会社ミゲル)

AGRI JOURNAL vol.19(2021年春号)より転載・加筆

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