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【植物工場ビジネスの概要を徹底解説】重要なのは設備のスペックよりも、植物が求めている環境

植物工場ビジネスについて、基礎的な内容から最新動向まで幅広く解説する本企画。第3回の今回は、JPFA 植物工場研究会の名誉会長の古在豊樹氏と同研究会理事長の林絵理氏に植物工場における設備についてお話を聞いた。

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<目次>
1.どの設備を揃えるかより、植物が求めている環境を
2.リアルタイムでの見える化が必要
3.“異業種”からの参入も 今後の技術発展に期待

 

どの設備を揃えるかより
植物が求めている環境を

「人工光型植物工場の基本構造と6つの基本要素」(引用:日本農学アカデミー会報21号「特集 人工光型植物工場の技術革新とビジネスモデル」)

植物工場を運営するにあたっては、導入する設備の選定も大きな課題となる。人工光型植物工場においては栽培室、作業室、予冷庫、物品庫、事務室、ロッカールーム、洗面所 などが必要だ。本記事では、植物の生育に関わる栽培室における設備について注目する。栽培室は、一般的に以下の6つの要素で構成される。

(1)断熱性と密閉度が高い清潔な部屋
(2)照明装置と養液栽培槽を備えた多段栽培棚
(3)ルームエアコンまたは業務用エアコンと室内空気攪拌ファン
(4)CO₂施用装置
(5)養液タンクと配管、循環ポンプ、殺菌装置(紫外線、オゾンフィルター)
(6)室温、照明、養液などの環境計測制御装置

まず、植物が生育する環境に対して、外気からの影響を小さくするために、断熱性と密閉度が高い清潔な部屋が必要になる。そして、植物の光合成を促す照明装置、植物に水と栄養を与えるための養液装置、植物体を固定・生育するための多段栽培棚が設置される。
さらに、温度や湿度を一定に管理するための空調装置、光合成を促進するためのCO₂施用装置、植物に与える養液を管理するためのタンクやポンプなどが必要だ。植物の栽培環境(温度、湿度、CO₂濃度など)を把握するために、環境計測制御装置も導入される。

植物工場ビジネス成功のためには、それぞれの設備にどのようなスペックが求められるのだろうか。詳細を聞こうとすると、「設備のスペックよりも考慮すべき前提がある」と古在氏。

「『人工光型植物工場は必要な設備を揃えれば、自由に環境制御できる』と謳われることが多いです。ところが、現状の人工光型植物工場においては、自由に環境を制御できているとは到底言えません。そもそも、環境を制御するためには“植物がどのような環境を求めているか”を把握することが大切です。その“植物がどのような環境を求めているか”のデータを集め研究しているのが、植物工場業界の現状と言えるでしょう」

リアルタイムでの
見える化が必要

植物が求める環境条件については、長年の研究によって、温度・湿度・CO₂濃度などについてはある程度明らかになってきている。しかし、必要な項目をすべて網羅できているわけでもなければ、植物の生育に合わせた測定ができているわけでもない。

たとえば、植物の気孔からのCO₂吸収量に大きな影響を与える“気流速度”を測定項目に入れて運営している工場はほとんどない。気流速度はCO₂濃度と同じくらい植物の光合成に影響を与える項目であるにも関わらず、だ。

「現在稼働している人工光型植物工場において、植物の上部の葉の周辺の気流速度を測定しているところはいくつかあります。しかし、植物体の上部と下部とでは気流速度が大きく異なるため、上部の測定だけでは不十分です。さらに、植物体が小さいときは気流速度の変化が比較的単純ですが、成長して葉が繁茂するにつれ、気流速度の分布も煩雑になります。成長とともに葉の周りの気流速度は変化し続けるため、経時的・網羅的に測定しなくては、光合成に関わる気流速度をきちんと測定できているとは言えません。このように、環境条件の測定方法が確立されていないのが現状なのです」(古在氏)

気流速度はあくまでも一例であるが、温度・湿度・CO₂濃度などにおいても、経時的・網羅的に把握できているとは言えない。植物工場で自由に環境制御をするためには、植物が生育するために必要な環境条件を整え、リアルタイムで測定し、植物の反応を見ながら、フィードバック制御することを繰り返す必要があるのだ。植物の状態とその周辺環境の“リアルタイムでの見える化”がなされなければ、植物工場の環境制御は実現できないと言える。
 



 

“異業種”からの参入も
今後の技術発展に期待

植物体の状態の“リアルタイムでの見える化”を実現するために注目されているのが、“フェノタイピング”と呼ばれる技術だ。フェノタイピングとは、植物の大きさや果実の糖度や酸度などを測定することであり、ここ数年で研究事例が増えてきた。

「センサーやドローンなどの発達が、フェノタイピングの発展を後押ししています。さらに、ここ数年で生成AIや画像解析技術が発達したことによって、非破壊で連続的にフェノタイピングが行えるようになってきました。この技術が確立されれば、環境制御の質が格段に上がります」(林氏)

「AIカメラの技術を持っている企業が異業種から植物工場経営に参入し、フェノタイピング技術を発展させています。この、“異業種からの参入”というのが植物工場技術の発展に大きく寄与すると思っています。日本は、技術やノウハウを囲って他に漏らさないようにする傾向が強いです。独自の技術にこだわり、なかなか他のものを取り入れようとしません。この日本の特性は、技術革新の足を引っ張っていると思います。外部からの情報を取り入れ、意見を交換し合い、技術の普遍化・標準化を進めることが、植物工場ビジネスの発展には必要なのです」(古在氏)

古在氏・林氏の解説の通り、植物工場における生産技術はまだまだ未発達だ。現段階では、“植物工場ビジネスは儲かるのか・儲からないのか”を判断する材料が揃っていない。ただし、技術を発達させ、うまく活用できればさまざまな社会問題を解決するポテンシャルを秘めており、今後の技術の発展にますます期待がかかる。

次回は、植物工場における栽培作物について引き続き古在氏と林氏にお話をいただく。


取材・文/巖朋江

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