日本農業に必要なのは「エネルギーシフト」持続可能な農業への道
2018/11/08
近年の化石燃料高騰は、農家の生産コストに大きなダメージを与えている。今後も燃料費は高くなると予測される中、これからの農業を生き抜いていくには「エネルギーシフト」と「里山資本主義」の観点が必要だ。
農業における
エネルギー問題とは?
前回の記事では、「農業とは、太陽エネルギーを最大限に活用し、健康な生き物を育てる産業である」という、ある農業経済学者の言を紹介した。
しかし現実の世界では、今降りそそいでいる太陽エネルギーではなく化石燃料に依存した、即ち肥料と農薬と燃料に依存した農業が隆盛を極めている。空調管理された「植物工場」はその究極の形態だ。だがそうした大量生産・効率生産の農業は、設備も生産品も金融投資の対象とされて「マネー資本主義」の具となってしまっているばかりか、栄養過多で害虫に抵抗力のない、不健康な農産品を促成栽培することで、それを食する人間の側の健康をも害している。
化石燃料は
大きく上昇している
問題はそこにとどまらない。地球の人口はどんどん増えているのに、化石燃料は長期的には枯渇していく。米国のシェールオイル・シェールガスブームで2015年から下がった原油価格は、いつの間にか元の水準に戻りつつある。昨年の日本の化石燃料輸入額は、四半世紀前の3倍以上、金額として10兆円以上も多くなっているのだ。これに伴う経費増は、肥料と農薬と燃料と輸入飼料に依存する全国の農家に、ボディーブローのように効いている。
欧米に旅行すると、ひと昔前に比べての物価の高さに驚く。欧米では、今世紀に入っての化石燃料価格の上昇が消費者物価に転嫁され、インフレ基調が続いて来たのだ。
しかし日本では、化石燃料価格の上昇という原価アップを商品の価格に転嫁することは、製造業でも農業でも行われず、生産者だけがコスト増をひたすら甘受して来た。値上げをすると他商品に顧客が逃げるので、やりたくてもできなかったのである。現役世代の減少に伴って農産物消費量の減少が続く日本では、需給バランスが崩れ続けており、買い手市場が続いているのだ。典型がコメだろう。
日本の15〜64歳人口は1995年をピークにして、2015年までの20年間に12%も減ってしまった。その間も65歳以上人口は増え続け、日本在住者の4人に1人以上を占めるに至っている。65歳以上になっても、若い頃と同量のコメを食べている人はいないだろう。これがコメの需要量の減少を生んだわけだが、減反のスピードがそれに追いつかないので、米価は上がる気配もなく、生産額(=生産量×米価)は一方的に減少を続けている。
国際競争の中で農産物価格が下落するのは当然だ、と考える人がいるかもしれない。だが肉を見てほしい。人口減少に伴う需要量の減少と輸入品との競争激化にもかかわらず、国内での生産額(=生産量×単価)は増えている。量ではなく質を訴求した、少量生産で高価格の国産品が、消費者の支持を得ているからだ。それ以上に生産額が増えているのは野菜だが、相対的に少量生産で高価格の国産品が消費者に評価されているのはもとより、高齢者も健康にいい野菜であれば多くを消費するという現実が、そこに反映されている。
農家が生き残るには
有機農業への移行が必要
まとめれば、人口減少社会の中で農家が生き残るためには、相対的に少量生産で高価格のブランド品への移行を進め、かつ将来的にも続く化石燃料価格の上昇によるコストアップにも対処できなくてはならない。その両方を同時に達成する手段が、農薬と肥料に依存しない農業へのシフト、すなわち減農薬・減肥料農業、さらに進んで有機農業への移行である。農薬や肥料に無駄なコストをかけない里山資本主義的農業へ、時代の大きな流れは向かっているのだ。
プロフィール
株式会社日本総合研究所
地域エコノミスト 藻谷浩介氏
株式会社日本総合研究所主席研究員。地域の特性を多面的に把握し、地域振興について全国で講演や面談を実施。主な著書に、『観光立国の正体』(新潮新書)、『日本の大問題』(中央公論社)『里山資本主義』(KADOKAWA)など多数。
AGRI JOURNAL vol.9(2018年秋号)より転載