世代を超えた食農教育の推進を JA全青協 星敬介会長「情熱一心」の決意

全国農協青年組織協議会の星敬介会長は、福島県の山あいの地域で営農に取り組む。担い手不足の現状をはじめ、食農教育や適正価格への理解醸成、「情熱一心」のスローガンのもとで進める組織改革や広報戦略について話を聞いた。

メイン画像:全国農協青年組織協議会 星敬介会長

 

中山間地域では
個人農家が大切な存在

今年5月に全国農協青年組織協議会(JA全青協)の会長に就任した星 敬介さんは、福島県西会津町で水稲や大豆の栽培、伝統の味噌醸造を営む。自分が生活している中山間地域では高齢化が進むが、大規模法人だけでなく個人農家も農地の維持に大切な存在だと主張する。
 

福島県西会津町で米や大豆などを栽培している(写真提供 JA全青協)

 
――営農の歩みや現在の経営状況を教えてください。
星会長:東日本大震災の前年である2010年に地元の福島県西会津町に戻り、農業研修を経て2013年に独立・就農しました。当初はハウスでキュウリ栽培を10年ほど手がけていましたが、本家が半世紀以上続けてきた味噌醸造を引き継ぐことになり、現在はそちらを主軸として営農を行っています。現在の経営規模は水田が約2ha、大豆が約1haです。自作の大豆や米を活用した味噌の加工・販売のほか、妻が少量多品種の野菜栽培に取り組んでいます。20代の頃に東京で印刷会社や着物業界に勤めていた経験があり、衣食住の「衣」と「食」を通じた農業へのアプローチを意識しながら経営を行っています。

――地元・西会津町などの中山間地域の現状は?
星会長:まさに瀕死と言っても過言ではない危機的な状態だと捉えています。高齢化と担い手不足が急激に進んでおり、これまで地域農業を支えてきた団塊の世代が70代後半から80代を迎えつつあります。80歳を超えてくると離農や営農縮小が大量に発生する局面に入り、その下の50代、60代以下の世代が極めて少ないため、地域社会の維持が困難になりつつあります。また、イノシシをはじめとする鳥獣被害も深刻です。イノシシが田んぼのあぜを掘り返すことで水が抜けてしまったり、収穫直前の稲を倒して売り物にならなくなったりして、生産現場の大きな負担となっています。

――個人農家の大切さについてのお考えは?
星会長:大規模化やスマート農業によって、100ha規模の農地を数人のオペレーターで耕作する取り組みも進んでいますが、水田農業においては水路やため池などの水利施設を維持・管理していく作業が不可欠です。水路は血管に例えれば全身に張りめぐらされた毛細血管のような存在です。大規模事業者や法人の少人数スタッフだけでは、地域全体に広がる水路の草刈りや泥上げ、水源の保全作業まで手がけることは不可能です。これまで地域を守ってきたのは、ほかの業種と兼業しながら水田を維持してきた個人農家の方々でもあります。大規模法人と個人農家がそれぞれの役割を分担し、地域全体で農地や水田、水路を守っていく仕組みをつくらなければ、地域の水田農業を継続することはできません。
 

生産基盤の維持と
食農教育による理解醸成

資材高騰や異常気象により日本の食料安全保障が脅かされるなか、国内の持続的な生産基盤の維持が大きな課題だ。適正価格への理解醸成に向け、子供から大人までを対象とした幅広い食農教育の推進が必要だと訴えている。
 

全国農協青年組織協議会 星敬介会長

 
――食料安全保障のあるべき姿とは?
星会長:理想としては、肥料や燃料などの生産資材も含めて国内で自給できる体制を構築し、食料自給率100%以上を達成することだと思っています。現在の日本の食料自給率は37%にとどまり、肥料原料や燃料の大半を海外からの輸入に依存しています。有事や国際的な混乱、物流の途絶が発生した場合、国内で必要な食料を生産・確保できなくなる大きなリスクを抱えています。食料安全保障とは、国内で生産を継続できる「生産基盤そのもの」を維持・確保することであると考えています。

――適正価格への理解には何が必要ですか。
星会長:農産物を生産するためにどれだけのコストや労力がかかっているのかを社会全体に知ってもらう取り組みが必要です。長年、消費者のあいだに農産物に対する一定の価格イメージが定着しており、生産資材や燃料が高騰しても適切な価格転嫁が行いにくい状況が続いてきました。コストの上昇分が価格に反映されず農業者が赤字経営となれば、営農を継続できなくなり、めぐりめぐって消費者に食料が届かなくなります。生産にかかる合理的なコストを正しく反映した適正価格の形成について、社会全体で理解を深めていくことが重要です。

――食農教育の必要性について教えてください。
星会長:食農教育は農作業を体験することにとどまらず、「農業を通じて人を育てる」という根幹の役割を持っています。子どもたちへのアプローチはもちろんのこと、働く世代や高齢者を含めた国民全体に対し、食料がどのような場所でどれくらいのコストや苦労をかけてつくられているのかを伝える取り組みが重要です。幼少期や若い頃に食農教育を受けた経験がある人は、大人になってからも国産や地元産の農産物を優先して購入するという調査結果が報告されています。国民が自国の食と農業を支える意識を持つことが、結果として適正価格への理解や食料安全保障の強化につながります。今後は農業分野だけでなく、林業や漁業の青年組織とも連携し、一次産業全体で食農教育を推進していきたいと考えています。
 

「情熱一心」で深める絆
震災の教訓を次代へつなぐ

青年部員の減少という組織的課題に対し、JA全青協は「情熱一心」のスローガンを掲げて情報発信を強化している。孤独になりがちな農家同士が悩みを共有できる仲間づくりを進め、震災の教訓を次代へつないでいく。
 

新スローガン「情熱一心」を掲げて組織変革に取り組む

 
――部員減少という課題にどう向き合いますか。
星会長:直近1年間で約2000人の盟友が減少したことは、組織の根幹に関わる非常に重い課題です。この現状を打破するため、組織綱領にある「誇り高き青年の情熱と協同の力」に改めて立ち返り、全国の部員が心を1つにして活動を展開する決意を込めて「情熱一心」というスローガンを掲げました。その具体的な施策として、今年度新たに「広報戦略委員会」を立ち上げ、発信力の強化に取り組んでいます。組織内部への周知だけでなく、InstagramなどのSNSを活用して30代から50代の一般消費者層へ向けても現場の日常や青年部の魅力を親しみやすく発信し、理解者を広げる取り組みを進めています。

――若手農業者へ伝えたい組織の価値とは?
星会長:青年部活動に参加する最大のメリット・価値は「仲間」が得られることです。日々の農作業は孤独になりがちで、ひとりで経営や技術の悩みを抱え込むと不安が募ります。しかし青年部には、地域や作目を越えて同じ悩みや苦労を共有できる仲間が全国に存在します。現場の悩みを分かち合い、ともに語り合える仲間がいることは、農業を続けていくうえで代えがたい財産となります。また、全国の現場の声が集まるからこそ、政府や行政に対しても説得力がある政策提言を行うことができます。ひとりでも多くの若手農業者にこの仲間の輪に加わってほしいと考えています。

――福島県出身の会長としての意気込みは?
星会長:2011年の東日本大震災が発生した際、私は地元の西会津町にいました。地震による直接的な被害だけでなく、原発事故によって故郷を奪われ、長年にわたり自宅や農地に帰ることができない方々の深い痛みを間近で見続けてきました。全国各地で地震や豪雨などの自然災害が相次ぐいまだからこそ、過酷な状況を経験した福島県のリーダーとして、その教訓や思いを全国の青年農業者と共有していくことが自らの使命であると感じています。厳しい環境下にあっても現場の声を集めて政策へ反映させ、全国の盟友とともに日本農業の持続的な発展に向けた歩みを着実に進めていきます。

DATA

全国農協青年組織協議会
JA全青協 Instagram


取材・文/アグリジャーナル編集部

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