乳牛の放牧をドローンとAIで支援!「スマート酪農」実験が開始
2020/09/23
メリットの多い「放牧」だが、牧草地の管理は大変。そこで、乳牛の放牧をドローンとAIでサポートする実証実験が開始される。ドローンで撮影した牧草写真から、牧草の生育具合をAIで自動判別。その日の最良な放牧エリアを選定し、リモートでゲートを開閉するとのことだ。
メリットの多い「放牧」
管理をスマートに
株式会社INDETAILと株式会社宇野牧場は、酪農における乳牛の放牧をドローンとAIで行う「スマート酪農」の実証実験を行うこととなった。両社は、ともに酪農業が盛んな北海道の企業だ。
酪農には大きく分けて「放牧」と「舎飼い」という2つの様式があるが、日本では近年、農林水産省によって放牧が推進されるといった動きがある。理由は放牧によるメリットだ。放牧は舎飼いに比べると、牛が病気にかかりにくく、生乳の品質は栄養価が高く、草の香りがあり後味が軽やかになる、さらには低コストや省力化できると言われている。
しかし、広い土地を持つ北海道でも、放牧を取り入れている牛飼養者は半数ほどしかなく、全国的に見れば国内の牛飼養戸数の2割以下まで落ち込む。デメリットとして挙げられるのは、牧草地の管理だ。広大な牧草地で行う放牧には、生育状況の把握・草刈り牧草の管理や、その日の放牧エリアの区画整理といった業務が必要となる。365日対峙しなくてはならない乳牛の管理も抱える中で、人手不足により多忙を極める。
本実証実験では、それらの課題に対して、持続可能な酪農運営の可能性を検証していくとのことだ。
ドローンが牧草を撮影
草の生育具合をAIが自動判別
主な機能としては次の通り。宇野牧場が持つ、広さ160ヘクタールの広大な放牧地を区画し、同じ区画については週に1〜2回程度、ドローンが牧草を撮影。その撮影データから牧草の生育具合をAIで自動判別し、その日の最良な放牧エリアを選定する。その後、酪農家が最終的な判断を⾏い、各区画の境界線にあるゲートの開閉をリモートで行う。
ゲートについては、最終的に⾃動制御を⽬標としているとのこと。また、ドローンで撮影された画像や動画をビッグデータとして蓄積することで、フィールドの状態を長期的な視野で分析可能となり、安定した牧場経営の実現につながる。
判断材料の提示や安全確保、
牛の健康維持といったメリット
期待できることとして、まず挙げられるのが、時間短縮・人件費の削減だ。放牧エリアの選定は、重要な作業のひとつであるが、ここにドローンやAIを導入することで、広大な牧草地でもドローンによって生育状況を把握できる。人間の目では困難だった高い網羅性で、その日の放牧エリアをスピーディに選定できるのだ。
また、乳牛の日ごとの食育量の管理や、刈り取りに必要な草量や肥料の適正量の迅速な把握もできる。現段階の予定では、⾷育量の管理については、牛1頭あたりの⾷事量から牛群総食事量を算出し、最適なエリアを提示。刈り取り量については、ドローンが定期的に空撮していくことで、牧草の色合いや成⻑状況から、刈り取り作業を行う時期と範囲を明確にすることを目指すとしている。
例えば、同一エリア内においても日光や雨のあたり具合により、牧草の成長度合いが異なる場合があるが、空撮はそれらに対する管理方法の判断材料として活用できる。十分に成長した箇所は刈り取り、成長が遅い箇所は肥料をまくという判断ができるため、トラクターの稼働台数や、肥料をまく必要のあるエリアを、最小限にするなどの対応につなげられる。
また、牛の健康維持にも効果的だ。放牧する乳牛に対して提供する草が多すぎてしまうと、食べ残された牧草を刈り取る手間が発生してしまい、逆に少なすぎる場合には、乳牛の搾乳量を最大限に引き出すことができなくなる。最悪な場合、乳牛の病気につながってしまう。そこで、高性能カメラによって集められる詳細なデータから、適正な牧草量を提供されることで、乳牛の健康維持にも貢献できる。
さらに、宇野牧場では放牧地を移動する際にバギーを利用しているとのことだが、ほぼ自然の地形を活かした放牧用地では、バギーの激しい揺れや横転による事故リスクがつきものだ。また、敷地内には電気柵が点在しており、この柵への誤接触も絶えなかったとのこと。人に代わってドローンがフィールド内を選定することで、スタッフはこれらの事故リスクから解放され、より安全な環境で酪農運営に携わることができるのだ。
放牧酪農に役に立つ
スマート酪農の基盤を作る
スマート酪農の実証実験は、2020年7月よりドローンによる空撮などで現地調査を行い、2020年10月8日(木)に天塩町の宇野牧場にて視察会を行う予定。
今後は、事業社と共同で農業法人を立ち上げ、放牧主体の農場経営に株式会社INDETAILが参⼊していくとしている。なお、2021年には宇野牧場と共同で農業法⼈を設立予定とのことだ。次世代の担い手に、酪農の魅力を伝える事業創出を目指していく。
DATA
文:竹中唯