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【イチゴ編】症状別で見る! 生理障害・病害虫の原因と予防の基礎知識

国内外で人気の高いイチゴ。収穫後に伸びてくるランナーで苗を作れば、半永久的に栽培を続けることも。そこで前回のトマト編に続きイチゴに現れる症状ごとに、その原因を見ていこう。

▶【トマト編】症状別で見る! 生理障害・病害虫の原因と予防の基礎知識

イチゴ栽培を失敗させない
知っておきたい生理障害と病害虫対策

イチゴ(苺) バラ科オランダイチゴ属

野菜は原則草本、果物は木本なので、イチゴは野菜に分類されます。また果実的野菜ともいいます。収穫後に伸びてくるランナー(走りづる)で苗をつくれば、半永久的に栽培が続けられます。無農薬栽培も十分可能です。

本記事ではイチゴ栽培の悩みを解決し、失敗しないイチゴ作りのために、生理障害や病害虫の予防と対策についてご紹介します。

1.【生理障害】活着不良
ー深植え
2.【生理障害】花芽分化不良
ー高温
ー窒素過多
3.【生理障害】葉枯れ
ー乾燥
ー肥料当たり
ー寿命
4.【生理障害】着花不良/着果不良
ー低温
5.【生理障害】奇形果(いびつ果)
ー受粉不良
6.【生理障害】鶏冠果(けいかんか)
ー窒素過多
7.【生理障害】果実の汚れ
ー泥はね
8.【生理障害】肥大不良
ー受粉不良
ー養水分不足
ー密植
ー摘花・摘果不足
ーランナー
9.【病害】しおれ
ー疫病
10.【病害】斑点
ーうどんこ病
ー炭疽病
ー輪斑病
11.【病害】葉の黄化
ー萎黄病
12.【病害】退化現象
ーウイルス病
13.【病害】果実のカビ
ー灰色カビ病(ボトリチス病)
14.【虫害】食害
ーアブラムシ
ーハダニ
ーナメクジ
ードウガネブイブイ(コガネムシ類)
ーヨトウムシ
ーアザミウマ
ー鳥類

 



 

【生理障害】活着不良

原因:深植え

定植のときに苗のクラウン(茎と根の境界部で、ここから新葉が伸びる)を土に埋めてしまうと、芽枯れが起き、根づきが遅れたり生育不良になります。クラウンが地表に出るように浅植えします。

【生理障害】花芽分化不良

原因①:高温

イチゴの花芽は秋の低温と短日によって分化します。ハウスなどで高温で育てると、花芽ができずにそのまま栄養成長(茎葉が大きくなること)を続けます。生育中に急激な高温にあうと、生殖成長(花や実をつけること)の花芽分化を中止して、栄養成長に戻ることがあります。

原因②:窒素過多

定植した土壌に窒素が多すぎると、いつまでも栄養成長が続き、生殖成長が遅れることがあります。ツルボケや葉ばかりさまという現象です。

【生理障害】葉枯れ

原因①:乾燥

根はほかの野菜に比べて弱いので、こまめに水やりをします。完熟堆肥を十分施して団粒構造の土壌をつくり、水もちと水はけをよくします。

原因②:肥料当たり

根は肥料焼けしやすいので、施肥には十分注意します。肥料過多だと成葉の縁が茶褐色になります。栽培期間が長いので、元肥は緩効性肥料を主体に施します。

原因③:寿命

10日ごとぐらいに新しい葉が出て、古い下葉は枯れます。軽く引っ張ってとれるような枯葉は除去します。枯葉は病害虫の住みかにもなります。

【生理障害】着花不良

原因:低温

寒さに強い野菜ですが、花は0℃以下になると低温で枯れます。

【生理障害】着果不良

原因:低温

開花は10℃で始めますが、15℃以上にならないと受粉は順調に行われません。訪花昆虫が飛ぶようになれば大丈夫です。

【生理障害】奇形果(いびつ果)

原因:受粉不良

イチゴの表面のタネと思われている粒々は、植物学的には痩果(そうか)と呼ばれる果実で、種子は痩果の中にあります。種子は雄しべの花粉が雌しべにかかってでき、受粉がうまくいかないと種子が満遍なくつかずに果形がいびつになります。花が早く咲き、まだ訪花昆虫が飛んでいないときは、雄しべの花粉を筆などで雌しべにつけてやる人工授粉をすると果形がよくなります。

【生理障害】鶏冠果(けいかんか)

原因:窒素過多

窒素肥料が多いと花芽が異常になり、ニワトリのトサカのようなゴツゴツした果実ができることがあります。生理障害なので食べられ、味は悪くありません。

【生理障害】果実の汚れ

原因:泥はね

ポリマルチや敷きわらをして泥はねを防ぎます。

【生理障害】肥大不良

原因①:受粉不良

開花は10℃で始めますが、15℃以上にならないと受粉は順調に行われません。受粉がうまく行われないと種子ができず、果実が大きくなりません。花が早く咲き、まだ訪花昆虫が飛んでいないときは、雄しべの花粉を筆などで雌しべにつけてやる人工授粉をします。

原因②:養水分不足

肥料切れや水切れにならないように管理します。露地栽培の追肥は2月までですが、草勢が弱ければ応急措置として速効性の液肥を施します。

原因③:密植

畑は株間30㎝以上、18㎝ポットは1株、普通プランターは2株植えで、十分に光合成が行われるようにします。

原因④:摘花・摘果不足

花や実をつけすぎると小さな果実になるので、1株20個ぐらいまでにし、貧弱な花や果実は摘みとります。

原因⑤:ランナー

果実がなっているときにランナーを伸ばすと、ランナーに栄養分をとられ、果実の肥大が悪くなります。ランナーは見つけ次第摘みとります。苗とり用にランナーを伸ばすのは収穫が終わってからです。

 



 

【病害】しおれ

原因:疫病

糸状菌(カビ)による病害で、葉がしおれて枯れます。クラウン(茎と根の境界部)を切断すると、外側から褐変しています。多雨で発生しやすいので、高畝にするなどして水はけをよくします。密植を避け、日当たりと風通しをよくします。病株は抜きとり、持ち出し処分します。

【病害】斑点

原因①:うどんこ病

茎葉や果実に小麦粉をふりかけたような白いカビ(糸状菌)が発生します。発病すると白い花が赤くなることがあります。茎葉が茂りすぎないようにし、日当たりと風通しをよくします。病株は抜きとり、持ち出し処分します。

原因②:炭疽病

糸状菌(カビ)による病害です。葉に灰色~泡黄色の2~10mmの輪紋状の斑点ができ、ひどくなると輪紋の中心に穴があき、葉が枯死します。健全な株からランナーをとり、苗をつくります。多雨で発生しやすいので、高畝にするなどして水はけをよくします。密植を避け、日当たりと風通しをよくします。病株は抜きとり、持ち出し処分します。

原因③:輪斑病

糸状菌(カビ)による病害です。葉に紫褐色の斑点ができ、ひどくなると葉が褐色になって枯れます。多湿で発生しやすいので、過繁茂の葉は摘みとり、日当たりと風通しをよくします。伝染源となる被害葉は摘みとり、持ち出し処分します。

【病害】葉の黄化

原因:萎黄病

糸状菌(カビ)による病害で、根から菌が侵入して発病します。新葉が黄変して奇形になります。小葉3枚のうち1~2枚がねじれて小さくなります。クラウン(茎と根の境界部)を切断すると、維管束が輪状に黒変していまいす。高畝にするなどして水はけをよくします。病株は抜きとり、持ち出し処分します。連作は避けます。

【病害】退化現象

原因:ウイルス病

着果数が少なくなり、果実も小さくなります。ほかの野菜のウイルス病のような明らかなモザイク症状は出ません。ウイルス病にかかった親株からの伝染と、アブラムシによる媒介があります。健全な株からランナーをとり、苗をつくります。アブラムシは見つけ次第捕殺します。

【病害】果実のカビ

原因:灰色かび病(ボトリチス病)

果実に灰色のカビ(糸状菌)が生える病害です。冷涼で多湿になると発生しやすいです。水はけ、日当たり、風通しをよくします。栽培管理を徹底して健全に育てれば、ほとんどの病害は発生しません。

 



 

【虫害】食害

原因①:アブラムシ

葉に体長2~4mmの小さな虫が群生し、吸汁して生育を阻害します。ウイルス病の原因となるウイルスを媒介します。窒素過多だと葉でアミノ酸が多く合成され、それを好むので多発します。キラキラ光るものを嫌う習性があるので、シルバーマルチを張ると飛来防止効果があります。見つけ次第捕殺します。

原因②:ハダニ

成虫も幼虫も葉から養分を吸汁し、葉に針で突っついたような色抜けした点ができ、ひどくなると黄色の斑点になります。成虫でも体長約0.5㎜でとても小さく捕殺は不可能なので、住みかとなる周りの雑草を除去します。被害葉は摘みとり、持ち出し処分します。

原因③:ナメクジ

果実が食害されます。露地栽培では4~5月に被害が多くなります。イチゴ栽培は水やりをよくするので湿気が多く、ナメクジが生息しやすいです。水はけ、日当たり、風通しをよくします。葉裏や株元を観察して、見つけ次第捕殺します。ビールで誘引します。

原因④:ドウガネブイブイ(コガネムシ類)

幼虫(地虫)が根を食害すると、株が急にしおれます。成虫(甲虫)は葉を食害します。未熟堆肥を施すと幼虫のエサになの多発するので、完熟堆肥を用います。幼虫、成虫とも見つけ次第捕殺します。

原因⑤:ヨトウムシ

ヨトウガの幼虫が葉を食害します。若齢幼虫は葉をカスリ状に白くし、老齢幼虫は葉がボロボロになるまで食害します。ヨトウムシは「夜盗虫」と書くように夜間に活動し、昼間は地中に潜んでいるので、被害を受けた株の周りを軽く掘ると見つけられることもあります。

原因⑥:アザミウマ

成虫と幼虫が吸汁して主に花と果実を加害します。果実は着色不良や褐変の被害が出ます。葉が食害されると、葉脈に沿って黒い食痕が発生します。成虫も幼虫も体長1~2mmで、肉眼で見つけることは難しいです。アザミウマはキラキラ光るものを嫌う習性があるので、シルバーマルチを張ると飛来防止効果があります。雑草に寄宿するので、周りの除草をします。

原因⑥:鳥類

イチゴが赤くなるとカラスやスズメなどが食べにきます。事前に防鳥ネットやテグス(釣り糸)を張っておきます。鳥はテグスに羽が触れると恐がって近づかなくなります。不織布は訪花昆虫も入れないので受粉不良になります。

 



 


文:山門昭雪
Xアカウント:@yasaidaisuki6
野菜と多肉のぴー農園園主 幼いころから祖母の畑で遊び、国立T大学農学部卒。種苗会社で育種、産地開発、園芸相談などを担当。土壌医。

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