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生産者の取り組み

有機農業とソーラーシェアリングの両立を実現!合同会社有機の里に学ぶ地域循環モデル

営農型太陽光発電が新たな局面を迎えている。これまで普及が進んでいなかった西日本でも、さまざまな取り組みが進められている。山口県下関市で地域のヒト・モノ・カネの循環を目指す取り組みを追った。

メイン画像:今年6月には田植えが行われた。秋の収穫に期待が高まる。(提供:有機の里)

幅が約3分の1の
細型パネルで日照を確保

合同会社有機の里(山口県下関市豊浦町)は、地域の農業従事者や企業によって2020年に設立された。有機農業を中心に、空き家の活用、農業体験やイベントの開催など、地域のハブとなる活動に取り組んでいる。同社が目指しているのは、自然に恵まれた豊浦町地域を次の世代に引き継ぐため、地域の資源を活かしたヒト・モノ・カネの循環を生み出すことだ。

昨年からは、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の下で、酒造好適米のコシヒカリと呼ばれる「山田錦」の栽培を始めた。収穫した米は、下関市唯一の造り酒屋である下関酒造に販売している。

稲作においては、夏場にたっぷりと日光を当てることが重要だとされる。同社は、幅を一般的な太陽光パネルの約3分の1に抑えた細型パネルを使用している。そのため、田んぼに落ちる影は細くなり、パネルからの雨だれで下の土が削られる洗掘を防ぐこともできる。

今年6月には、昨年に続き「山田錦」の田植えを行った。有機の里の業務執行社員の野村成司氏は、梅雨空の下で田植えをしながら「今年の苗は丈夫に育っていると思います。昨年以上の収穫を期待しています」と目を輝かせる。


昨年秋、有機の里が協賛した、持続的な地域を目指す音楽イベント「下関オーガニックビレッジ」。(提供:有機の里)


売電収入を地域に還元
農業を持続可能に

有機の里は、発電した電気を国が固定価格で買い取る固定価格買取制度を活用して、3件のソーラーシェアリングを運用している。年間約450万円の売電収入の中から営農協力金や地代を支払った上で、約13年間で投資回収ができる見込みだという。

有機の里の職務執行者の西光司氏は、「この会社の収益は、配当せず、空き家をシェアキッチン・シェアオフィスに改修する地域還元事業に充当しており、この夏にもシェアオフィスをオープンします」と意気込む。


シェアキッチン・シェアオフィスは、ソーラーシェアリングの電気で運営している。(提供:有機の里)

今年2月に策定した「第7次エネルギー基本計画」の中で、政府は事業規律や適切な営農の確保を前提として、地方公共団体の関与により適正性が確保された事業の導入の拡大を進める方針を打ち出している。

下関市は昨年9月、環境省の公募で脱炭素先行地域に選定された。市は国からの補助金を活用して、管理者が不在の遊休農地6haにソーラーシェアリングを導入する考えだ。西氏は、「ソーラーシェアリングには、食料とエネルギーの自給率を向上する可能性があります。地域に新たな循環を生み出し、農業がこの先もずっと持続するように取り組んでいきたいと考えています」と前を向く。


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

AGRI JOURNAL vol.36(2025年夏号)より転載

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