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生産者の取り組み

【連載 4Hクラブ員の活動報告】希少品種×低樹高栽培で直売強化! 梨農家5代目の経営改革

佐賀県伊万里市で100年以上続く梨農園の5代目として親元就農した丸尾大介さん。経営の見直しを図る中で、数々の課題が浮き彫りになった。農園の存続をかけ、彼が挑む次世代の取り組みとは。

メイン画像:低樹高ジョイント栽培の甘太梨圃場。「経営の再興を図り地域農業を盛り上げていきます!」

<目次>
1.梨農家の5代目として農園経営の見直しを実施
2.低樹高で早期多収!経営体の再興を図る

梨農家の5代目として
農園経営の見直しを実施

伊万里梨の産地として知られる佐賀県伊万里市。ここで100年以上続く梨農家の5代目として就農したのが、丸尾大介さんだ。丸尾さんは3年前、親元就農した直後から、資材費の高騰や気象変動による生産性の不安定さに直面し、農園経営の先行きに不安を感じていたという。

そんな折、農業大学時代の恩師から、農業経営を学べる「伊万里4Hクラブ」への入会を勧められた丸尾さん。他の若手農家との交流や勉強会を通じ、農園の経営を根本から見直す機会を得た。

「そこで見えてきた自社農園の課題は主に2つありました。ひとつは品種構成です。丸尾農園では、比較的価格が下がりやすい晩成品種が全体の4割を占めていました。伊万里梨は7月上旬〜11月上旬にかけて出荷されますが、特にハウス栽培による早期出荷品種は高値で取引されます。そのなかで晩成品種の比率が高い現状は、収益面で不利だと感じていました。

もうひとつの課題は出荷体制です。現状は、出荷の9割が市場頼みで、直売比率はわずか1割に留まっていました。他産地からも梨が出荷され始める9月を過ぎると単価が下がってしまうため、ここでも晩成品種の比率が高いことが問題となっている状況でした」。

低樹高で早期多収!
経営体の再興を図る

これらの課題を解決するため、丸尾さんは3つの経営改革に着手した。①高品質な品種への転換②省力化と早期成園化を可能にする「低樹高ジョイント栽培」の導入③直販の拡大である。

「まず、4割を占めていた晩成品種の豊水や新高を『甘太梨』へと大きくシフトしました。甘太梨は希少性が高く、もともと丸尾農園でわずかに栽培していましたが、道の駅ではリピーターがつくほどの人気品種でした。そのポテンシャルに注目し、主力品種として本格導入することで、ブランド価値の向上と直販強化を図りました」。


甘太梨の幼果

その甘太梨の栽培にあたり採用したのが、父・正秋さんも8年前から導入していた「低樹高ジョイント栽培」だ。主枝を高さ1mほどで横に伸ばし、そこから側枝をY字に展開していく栽培方法だ。従来の3本主枝仕立てでは成園化までに8〜9年を要するが、この新技術では約5年で成園化が可能となる。また、剪定作業は側枝の成長点を切るだけと単純化され、通常10年かかるといわれる剪定技術も不要になる。丸尾農園では実際、剪定にかかる作業時間が従来の10分の1に短縮された。

作業効率が大幅に改善されたことで、丸尾さんは直販活動に時間を割けるようになり、直販サイトへの出品も開始。

「晩成品種ながら早期出荷品種に匹敵する価格での販売が実現できました。さらに、伊万里4Hクラブの先輩の紹介で大手スーパーとの取引も始まり、甘太梨の希少性も相まって、市場価格以上の単価での取引が実現しました」。


生育状況を確認する丸尾さん

丸尾さんのこうした取り組みの成果は数字にも表れている。

「令和4年度には市場出荷が9割だった甘太梨も、令和6年度には8割以上が直販へと切り替わりました」。

これにより販売単価が向上し、経営改革は大きな成功を収めた。直売体制のさらなる拡充と農園の規模拡大に向け、今後は果樹にとどまらず通年収穫が可能な野菜の栽培にも挑戦していく予定だ。伊万里4Hクラブでの学びを活かし、経営者目線での農業を意識しはじめた丸尾さん。

こうした丸尾さんの取り組みを、同じく梨を栽培する伊万里4Hクラブ会長の山口将樹さんは「頑張っている若手農家がメンバーにいることは、会が活発になって良い」と話す。


伊万里4Hクラブ山口会長(左)と丸尾さん(右)

丸尾さんは、自身の事例を地域の梨農家や他県の4Hクラブメンバーにも積極的に共有し、地域農業の活性化にも尽力していくという。

PROFILE

伊万里4Hクラブ

丸尾 大介さん


1998年佐賀県生まれ。地元農業大学を卒業後、果樹試験場で仕事をしながら果樹の専門知識を学び、3年前に親元就農。両親と共に丸尾農園を営む。


写真・文:株式会社LaTo

AGRI JOURNAL vol.36(2025年夏号)より転載

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