糖度で値段を変える ミニトマト最高金賞・澤藤園が選んだ、味を売り切る設計とは

東京都府中市の澤藤園が、第5回全国ミニトマト選手権(主催 日本野菜ソムリエ協会)で、最高金賞と金賞をダブル受賞した。産地も生産者も伏せた食味審査で選ばれた、高糖度のミニトマトだ。美味しさの秘密はどこにあるのか。

メイン画像:ミニトマトを栽培する澤藤園(東京都府中市)

 

ひょうと台風で売り上げ半減
そこから始まった経営改革

「食を通じて人の健康に寄与したい」と語る澤井政善さん(写真提供 澤藤園)

澤藤園五代目・澤井政善さんは製薬会社の営業職を経て2013年に就農した。当時の澤藤園は露地野菜が中心で、年間30品目ほどだった。転機は2019年。ひょうと台風に相次いで見舞われ、売り上げが計画の半分ほどに落ち込んだ。

「農家の収入は基本的に農地面積に比例します。うちは全国平均の8分の1ほどしかありません。そこに天候リスクも重なるとなれば、抜本的な経営改革が必要だと思ったんです」(澤井さん)。

38aという小さな農地で生き残るには、高単価の商品で勝負するしかない。周囲にフルーツトマトの作り手はいなかった。味さえ突き詰めれば、差別化できる。そう読んだ。心情的な理由もある。病気で祖父を亡くし、製薬会社に勤務していた澤井さんには、「医薬品の代わりに、食を通じて人の健康に寄与したい」という思いがあった。機能性成分が豊富でありながら、嫌いな野菜の上位でもあるトマト。「嫌いな人でも、おいしいと言って食べられるものを作りたかった」。

水・光合成・温度
糖度を上げる3つの管理

定植直後の様子。糖度を高めるため環境制御システムで徹底管理している(写真提供 澤藤園)

2020年に統合環境制御型ハウスを建て、フルーツトマトの養液栽培を始めた。澤井さんは糖度を高めるポイントを3つに整理する。一つ目は、水を絞って実を小さくし、味を濃縮させること。二つ目は、光合成を促進して糖そのものを増やすこと。三つ目は、温度を低めに保つことだ。

ただし、一つ目と二つ目は相反する。水は光合成の原料でもあるからだ。「絞るけれど、絞りすぎない」。絞りすぎれば光合成が止まり、かえって糖度が落ちる。
この3点の組み合わせは、特別なものではないという。「基本的なことです。植物生理を勉強している人なら、誰でも思いつくと思いますよ」。では、澤藤園のトマトは何が違うのか。

同じ糖度でも
粒の大きさにこだわる

澤井さんが導入した給液管理などの装置(写真提供 澤藤園)

「ほかのトマトとの違いは、粒の大きさですね」。澤井さんは、そう即答した。「同じ糖度10度でも、うちのトマトは粒が大きい。大きいということは、それだけみずみずしく、皮も硬くなりにくい」。フルーツトマトは水を絞るぶん、皮が硬くなりがちだ。だが同じ甘さでより大きく育てば、皮は口に残りにくい。同じ糖度帯で、どこまで大きく育てられるか。そこに差が出る。

同じ味を、毎年出すことを可能にしているのが、ハウスの制御技術だ。統合環境制御は温度やCO₂濃度などをICTで最適に保ち、光合成の効率を高める。水を絞れば収量は落ちるが、その減少もある程度は補えるという。土の代わりにヤシガラへ液肥を流す養液栽培も、ブレが少ない。狙った品質を、繰り返し再現するための技術である。日照以外は制御できる。「半分実験室のような環境を用意すれば、自分の強みを強引に生かせます」。学生時代、実験に打ち込んだ理系だから、という。

糖度6度と15度を
同じ価格で売らない

左から最高金賞の「さわとまと柔(やわ)」、金賞の「さわとまと極み」(写真提供 澤藤園)

売り方にも、澤井さんの設計がある。フルーツトマトは季節によって味が大きく変動する。収穫初期は糖度が7度前後、低い時は6度台。それがピーク時には15度に達することもある。

「人の味覚は、1度違えば分かると言われます」と澤井さん。「最高15度までいくトマトを、まったく同じ商品名、同じ価格で6度のときに売ってしまったらどうなるのか。お客さんは国内トップの味を期待して買うのに、糖度6度なんて、普通のトマトと変わらないではないですか」。

そこで、その時々の価値を価格に反映している。糖度10度以上を「さわとまと」、12度を超えれば「さわとまと極み」、14度を超えれば「さわとまと極みプレミアム」と、名称を糖度で切り分ける。金賞を受賞した「極み」は、平均糖度12度を超える一粒だ。「目をつむって食べたら、トマトだとは思わないでしょうね。強烈な甘さに、適度な酸味と旨味が加わる。そのバランスが持ち味です」。

一方、最高金賞の「さわとまと柔」は昨シーズンから試験的に栽培しているブランド。その名の通り皮がやわらかく、極みより酸味は控えめで、同じ糖度でもより甘く感じやすいという。商品ラベルには、さわとまと柔平均糖度10度、平均糖度11度といったように、ラベルに平均糖度を記載し、1度ごとに価格を変えている。

1カップ120gと小さくし、さわとまと柔平均糖度10は390円、平均糖度11は420円、平均糖度12は490円、平均糖度13は580円に設定している。年間を通して販売数が多いのは平均糖度が11~13の商品だ。ちなみに、さわとまと極みプレミアム平均糖度14は720円、平均糖度15は890円で販売している(上記はいずれも昨シーズンの直売所における税込み価格)。

庭先の自動販売機が
売り上げの7割

自宅の庭先に設置している自動販売機。シニア層に加え、ファミリー層も来訪する(写真提供 澤藤園)

澤藤園のトマトは、全体の7割が自宅の庭先で売れていく。置かれているのは、一台の自動販売機だ。「少なくとも常に7割くらいは自宅の自販機で売る、と心がけています」(澤井さん)。

残りをネット販売やJA、仲卸、飲食店に振り分けるが、販路を外へ広げ過ぎないよう心がけている。「外の販路に頼りすぎると、何かあったときに困ってしまいます。7割の直販を保っておけば、仲卸が一つ倒れても、広告を出せばすぐにカバーできます」。

自販機は防犯を考え、自宅の門の内側に据えた。現役世代は夜に買いに来にくい。ならば日中に来訪する人をターゲットとしようと、新聞折り込み広告でシニア層に呼びかけた。「近くに消費者がたくさんいらっしゃるというのが大きい」と地域のメリットを語る。

甘さの理屈は、誰でも思いつく。それを毎年同じ品質で再現し、価値に見合う値をつけ、第三者に証明してもらい、自分の手で売り切る。差がついたのは、その全部を設計してきたからだろう。

これから経営に挑む若手農業者には、こう助言する。「自分の強みと弱み、地域の特性、外部環境を把握したうえで、戦略を立てることが重要です。私もフルーツトマトを始める前に、SWOT分析をしました」。最初に方向を決めておかなければ、せずに済む苦労を重ねることになる、と。

トマトが嫌いな人にも、おいしいと言って食べてもらう。脱サラして就農した時に掲げた目標に向けて、澤井さんは設計を重ねていく。

DATA

澤藤園


取材・文/佐藤美紀

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