高糖度トマトが高可販果率で生産できる! 農家の勘に頼らないAIによる灌水制御とは
2020/03/25
トマトは、栽培過程で適度な水分ストレスを付与することで高糖度となる。国立大学法人静岡大学と株式会社Happy Quality(所在地:静岡県)の共同研究により、AI(人工知能)の判断に基づいた灌水制御を開発。高糖度トマトを高い可販果率で生産することに成功した。
高糖度トマトを
高い可販果率で生産
国立大学法人静岡大学と株式会社Happy Qualityの共同研究により、AI(人工知能)の判断に基づく灌水制御が開発された。これにより平均糖度9.46の高糖度トマトを、
トマトは、栽培過程で土壌の水分を少なくして、適度な水分ストレスを与えることで、高糖度となる。しかし、その際の灌水制御は緻密なため、熟練農家の経験と勘に依存することが多かった。
AIの判断に基づいた灌水制御が開発されたことにより、容易にトマト畑の土壌の灌水制御が実施できることが期待される。
AIの判断に基づく灌水制御
3年かけて共同開発
以前より静岡大学と株式会社Happy Qualityでは、農業のAI導入について、共同研究開発を行っていた。2017年度には、「
また2018年度には、AIの判断に基づく灌水制御によって、高糖度の中玉トマトを、低負担かつ大量安定生産できることを実証していた。
2019年度は、2018年度に開発したAIの判断に基づいた灌水制御において、さらなる研究開発と実証実験を重ねて、平均糖度9.46の高糖度トマトを、バラつきを抑えて容易に栽培できることが示された。
(糖度グラフ):高糖度トマト(8以上は一般的に高糖度トマトとして販売されている)を安定して栽培できることを示す
さらに、急な天候変化にも追従した、適切な灌水制御も可能となる。「日射量の積算値が設定値になると水やりが行われる」ように設定すると、曇りの日でも急に晴れ間が出てきたときなど、本来は水やりをしなくてもいいタイミングで水やりがされてしまう。その場合、皮が割れてしまうことが多く、販売ができなくなってしまうケースが多い。
今回は、水やりのタイミングを、植物のしおれ具合を推定しながら判断するため、従来の日射比例による灌水制御に比べて、果実の裂果を大幅に減らし、高糖度トマトを95%と高い可販果率で生産することに成功した。
(中玉トマト低段密植養液栽培実験の結果):販売可能な果実の割合(可販果率)が高いことを示す
仕組みとしては、1分に1回の周期的な温度、湿度、明るさ、草姿画像の測定結果から、しおれ具合の特徴を抽出し、茎の太さをAIによって推定、太さに応じて自動で水やりが行われる。茎の太さは、水分ストレスによって太くなったり細くなったりと変化するためだ。電流を流すと弁が開く電磁弁を制御して、茎が細くなってきたときに水やりを行うように設定されている。
茎の太さは、レーザー変位計でも測定は可能ではあるが、レーザー変位計は高価であると同時に、微小な変位量さえも計測する機器のため、風による植物の揺れなどのノイズも拾ってしまう。
今回研究開発されたAIによって、高価で、使い勝手の難しいレーザー変位計を使わなくても、システム構築ができるようになった。温度、湿度、明るさは、汎用的な計測機器で問題はなく、草姿画像も格安のカメラで十分に使用できる。
応用として、水やりが重要なトマト以外の果菜類への導入が検討されている。同時に、特徴量や分析方法の研究開発商用サービスについても、実証実験が進められている。大規模農業だけにとどまらず、一般的な農地でも活用されることを目指している。
持続可能な農業に向けた
両社の展望
高齢化による労働人口の減少、新規就農者が技術不足によって所得があがらないなど農業界における社会問題は深刻化している。
株式会社Happy Qualityではこの問題の解決に向けて、ビッグデータやAI、光学センサなどの活用により、高品質・高機能な農作物を誰でも安定的に栽培できる技術の確立を目指す。
また、静岡大学ではこの技術の実用化に向けて、様々な企業との連携を通し、熟練農家の長年の経験と勘に基づいて習得したノウハウの効率的な継承や、AIとの協働による負担軽減、持続可能な地域社会の実現を目指していく姿勢だ。
DATA
TEXT:竹中唯