GPECレポート:省力化や環境負荷低減を実現する優れたハードウェア&栽培システム
2024/09/04
2024年7月24日(水)~26日(金)、施設園芸・植物工場展2024(GPEC)が東京ビッグサイトで開催された。ここでは、そんなGPECの展示物のなかから、注目のハードウェア&栽培システムを紹介しよう。
『いつでも、どこでも、だれでも』可能な
安定生産を目指すデンソー
最初に紹介するのは、デンソーが展示していたArtemy。2024年5月、デンソーとそのグループ会社のセルトン(オランダ)とが、Artemyの受注を欧州で開始したことが話題になった、その実物が展示された。
このArtemyは、収穫に関する一連の作業を全自動で行うことができる。デンソーは収穫ロボットを長らく開発し続けてきたが、どのようにして市販化を実現したのか?
デンソーの岡田珠里さんは「2020年にセルトンと協業を開始したことで、農業生産者のニーズを取り入れやすくなりました。そして、セルトンを経由して集めた農業生産者のニーズに応える機能をデンソーが開発、搭載することで、市販化に繋げました。」と語った。
以前より搭載していた自動収穫機能に加え、セルトンと共同開発するなかで新たに組み込んだのが、自動レーンチェンジ、収穫箱の自動交換、収穫箱の自動移載、ハサミの自動消毒という4機能だ。
「これらを搭載することで、ハウス内で収穫に関わる作業の全自動化が実現しました」と、デンソーの岡田珠里さんは説明した。
確かに、ロボットが収穫作業をこなしてくれても、レーンの移動や収穫箱の交換・移動に人手が必要なようでは、省人化が実現したとは言い難い。関連作業を収穫ロボットが全自動でこなせるようになったことで、より欧州の圃場のニーズに合致した。
次に紹介するのは、デンソーのグループ会社のセルトン(オランダ)が開発しているミニトマトの完全無人栽培システムGronosだ。移動栽培ベッド上で、本システムのために特別に開発したわい性(草丈が低い)品種を栽培する。
移動栽培ベッドで栽培するから、一般的な栽培方法よりも面積効率が高いことは容易に理解できるが、セルトンの櫻井大介さんは「技術の中心となるのは、本システムのために特別に開発したわい性品種だ」と、教えてくれた。
「弊社は、このシステムに適した品種を何年もかけて開発してきました。播種から約15週間で収穫できるまでに成長しますが、最大の特長は草丈が40cm程度にしか成長しない、という点です。また、ライフサイクル全体を通じて栽培ベッド上で移動可能です。姿形も一般的なミニトマトとは異なり、ハイワイヤー栽培の誘引や吊下しも不要。そのため、ミニトマト栽培に必要な多くの作業を自動化でき、時間と労働力、栽培コストの削減が可能です」
Gronosは人の手を掛けない完全自動化を目指して専用品種を育成してまで開発した、意欲的な新栽培システムだ。しかも驚いたことに、このGronosは海外で実証段階に入っているという。反収や人件費、設備への投資コストが見合えば、Gronosという栽培システムが市販される日も間近だ。
今後のデンソーの動きから、目が離せない。
地球に優しくコスト削減できる
養液栽培システム!
トヨタネ株式会社が展示していたのは、2024年8月に発売する新製品「給液PROめぐる」を核にする、「トヨタネ排液リサイクルシステム」だ。かけ流し式の養液栽培では、排液が圃場外に流出する。
排液は特に有害なわけではないが、大規模ハウスから大量に排出されれば、硝酸性窒素や亜硝酸性窒素が地下水を汚染する可能性がある。また、アンモニア、アンモニア化合物などの濃度にも配慮が必要だ。また多くの場合、排液には植物が吸収しきれなかった養分が含まれており、これが使われないまま圃場外へと流出している。
環境負荷の低い農業生産が求めらるうえ、肥料代が高騰している今、トヨタネは「地球に優しい栽培方法で肥料代を削減しよう!」と提案しているのだ。
「この『トヨタネ排液リサイクルシステム』とは、排液を回収したら除菌して、排液を混合して希釈液を作成、再び本圃に戻す=給液する、という仕組みです。その中心となるのが、2024年8月に発売を開始する『給液PROめぐる』です。希釈液作成から本圃へ給液までコレ一台でコントロールできるのですが、排液を混入しながらも安定したEC調整をできるのが特徴です」と話してくれたのは、トヨタネ栽培支援部研究農場の神原正樹さんだ。
「排液をリサイクルしようとすると問題になるのが除菌です。そこで活躍するのが0.01μmのUF膜を搭載した除菌フィルター『まくりーんシステム』です。このフィルターは、肥料やイオンは通過させ、細菌を捕獲します。自動的に逆洗浄するからメンテナンス頻度も高くありません」(神原さん)。
除菌システムには、『まくりーんシステム』のほか、より導入コストが低い塩素注入器も選択できる。
排液をリサイクルすることで環境に配慮しつつ肥料代を抑えることができる「トヨタネ排液リサイクルシステム」は、みどり投資促進税制の認定機器でもある。時代の要請に応える、優れた栽培システムだ。
地下水等を利用し節油を実現!
長寿製品「グリーンソーラ」
ネポンが展示していた「グリーンソーラ」は、簡単にいえば熱交換器だ。温泉水、地下水、工場廃熱水や焼却施設冷却水といった熱源を活用して、空調に利用できる。
「実は『グリーンソーラ』が発売されたのは、40年以上も前なんです。極めてシンプルな理屈・構造ながら、自然エネルギーやこれまで捨てられていたエネルギーを利用することで賢く空調できる機械です」と話してくれたのは、ネポン営業サービス統括部長の齋宮祐二さん。
「地熱水や井戸水を利用する方法のほか、木質ペレットを燃料にして作り出した温水を温度管理しやすい温風にして利用する方法や、当社の『ハウスカオンキ』のような温風暖房機と併用する方法もあります。『ハウスカオンキ』と併用した場合、低温管理が条件となりますが、重油コストを1/3も下げる効果があります。『グリーンソーラ』は極めてシンプルな構造ですからメンテナンス次第では長期利用が可能です。地球に優しい農業生産を実現しながら、時間こそかかりますが、確実に投資コストを回収できます」
重油代が高騰している今、「グリーンソーラ」は好調に売れており「例年のペース以上に出荷しております」と斎宮さんは笑顔で語った。
単体でメインの空調として機能させるだけでなく、暖房機等との併用により化石燃料使用量を削減できるのだから、地球環境負荷の低い農業生産が求められる今、「グリーンソーラ」が脚光を浴びているのも納得だ。
DATA
取材・文:川島礼二郎