最新アグリビジネスの成功の秘訣は? 先進事例から学ぶ講演レポート
2020/09/10
近年の規制緩和や消費者の安心・安全志向の高まり、さらにはコロナ不安すらも追い風にして、今アグリビジネスへの注目が高まっている。ここでは、そんなアグリビジネスにおける先進事例から成功の秘訣を学ぶことができる研究会を紹介しよう。
≫ 前回の記事「【視察・講演会】自社の成長に何が必要かを知る! ビジネスモデル再構築のためのポイント」はコチラ!
アグリビジネスの
成功の秘訣を学ぶべし
人口減少社会、少子高齢化、格差社会の拡大……何かと暗い話題が多い現代の日本ではあるが、それを逆手に取って成長を続ける農業生産者やアグリビジネスプレイヤーは決して少なくない。
人口減少や高齢化の進行は効率化を進めるチャンスだし、格差社会が進むことで高価格・高付加価値商品への需要は増して行く。そうした商品・サービスを提供できる企業は、これから成長するに違いない。
そんなアグリビジネスで成功するための秘訣を、生きた先進事例から学ぶことができるのが、コンサルティング会社のタナベ経営が主催するアグリビジネスモデル研究会だ。ここでは7月21日~22日に北海道岩見沢市で行われた研究会の講演を要約してお届けしよう。
北海道大学の野口教授が語る
最新ロボット農機とスマート農業
初日に行われたのは北海道大学の野口伸教授の講演。講演のトピックは3つ。「農業におけるSociety 5.0:スマート農業」「岩見沢市のスマート農業に対する取組み」「スマート農業の今後の方向」である。
講演を行う野口教授。野口教授はスマート農業の核となるロボット農機研究の第一人者であり、総理直轄プロジェクトであるSIPにおいて、第一期農業分野のプログラム・ダイレクターを務めた
野口教授はSociety 5.0について語った。
「人類社会は、狩猟社会をSocity 1.0とすると、農耕社会が2.0、工業社会が3.0、そして現在の情報社会が4.0に当たります。では、5.0は何かと言うと、より高度な情報社会、と言うことができるでしょう。
そこでは人が情報を収集・分析することはなく、IoTを駆使してセンサー情報から得られたビッグデータをAIが解析して、より高付加価値な情報を提供・提案したり、機器への指示を行う……そのような社会がSociety5.0。この革命を農業に起こすことで、社会課題を解決していこう、という考えです」。
農業への適用事例として、野口教授はSIP第1期での成果を紹介した。「衛星画像による広域診断情報生成とWebGIS情報利用」「水田の水管理を自動化する給水・排水システムの開発」「スマート農機群」などがそれである。
また、データ収集の中心となるべく、農業データ連携基盤『WAGRI』が構築され、既に運用されていることも、合わせて説明された。『WAGRI』に各種データを集めて、それを様々な形で農業生産に利用していく……まさに農業分野でのSociety5.0が既に徐々に実現しつつあることが理解できた。
続いてのトピックは「岩見沢市のスマート農業に対する取組み」である。
「近年、岩見沢市はスマート農業に関連して度々話題になっていますが、そもそもの発端は市内営農者109名が2013年に『いわみざわ地域ICT(GNSS研究会等)農業利活用研究会』を設立したことなんですよ」。
同年には位置情報配信サービスと農業気象配信サービスが開始され、産学官連携体制が構築された。この実績が高く評価され、以降、総務省や農水省、内閣府などの支援を受けながら、岩見沢市はスマート農業関連の実証事業や社会実装事業を行う現場となっている。
「2018年からは、内閣府の近未来技術等社会実装事業として、SIPの成果である遠隔監視による農機の無人走行システムを社会実装するフィールドにもなっています。
また、2019年6月には、岩見沢市と私達北海道大学、それにNTTグループが、世界トップレベルのスマート農業およびサステイナブルなスマートアグリシティの実現に向けた産官学連携協定を締結しました。この連携協定では、①高精度測位・位置情報配信基盤 ②次世代地域ネットワーク(5G・BWA) ③高度情報処理技術およびAI基盤の3テーマに取り組んでいます」。
最後にお話されたのは「スマート農業の今後の方向」。ここでは、SIP第2期「スマートバイオ産業・農業基盤技術」の取組みの一つとして行われている『スマート営農システム×スマートフードチェーン』が紹介された。
農業生産分野の方であれば、農業データ連携基盤『WAGRI』を中心にした生産システムにおけるデータ利用はご存知だと思うが、更に下流にある加工、物流、貯蔵、販売、消費、リサイクルの各データを吸い上げる仕組みを作り、より効率的かつユーザーニーズに合った農業生産を実現しよう、というものである。
端的に言えば、スマートフードシステムという食品の大きな循環の中で、消費者に食料を届けるまでをデータ連携によって最適化する、ということである。
野口教授の専門であるロボット農機のみならず、それが使われるアグリビジネスの将来まで、広く深く学ぶことができる講演であった。
ファームノート成功の秘訣を
実例に沿って解説
翌日の講演はファームノートの取締役・下村氏。ファームノートは酪農家向けのITソリューションサービスを提供するベンチャー企業である。
ファームノートの下村氏。同社では「Internet of Animals」の世界を実現するため、センシング技術の開発や人工知能の活用にも取り組んでいる
農業には様々なデータが必要だが、それを集約できるようなプラットフォームを目指してつくられたのが、同社が提供するクラウド牛群管理システムの『ファームノート』だ。スマートフォン・PC・タブレット等にて、何時でも何処でも牛群の情報を記録・分析・共有できる。
下村氏は、『プロダクトマーケットフィット(以下、PMF)』という考え方を『ファームノート』を例に解説した。PMFとは、プロダクト(=製品)がマーケット(=市場)にフィットしている状態のことである。今世の中で売れて利益を出している製品は、『PMF』にある、と言える。
「当社が『ファームノート』の開発を始めた7年前の2013年を振り返ると、当時は未だ市場には、AIどころかスマホアプリすら存在しませんでした。たとえば牛群管理システム、といっても、歩数計を活用して体調や行動を把握する、という仕組みでした。こんな状態で、果たして農業にAIは必要なのか? スマホで牛群を管理できるのか? そこから議論を始めました。
ベンチャーを立ち上げる時、あるいは新製品を出すとき、不安を感じると思います。そこで役立つのが、今回お話する『PMF』という考え方です。そこで見るのは3点。市場の規模、市場の伸び、それに競合他社です」。
下村氏によると、『ファームノート』の開発を始めたのは2013年頃。ちょうどスマート農業が注目され始めていた時期だ。
「当時参照していた統計資料などを見返しても、国内の農業は衰退産業だと言われていましたが、スマート農業だけは伸びていました。この傾向は開発を継続していた2015年、それにサービスのローンチ直前の2018年になっても変わりませんでした。市場の規模は決して大きくはありませんでしたが、ベンチャーが挑むには充分であることは把握しました。ですので『PMF』で言うところの市場の規模と伸びはクリアしていました。
懸念材料として、スマート農業のなかでも酪農生乳生産に限って、横ばいから下降気味だったことがありますが、当社は、そのなかで酪農業界で起きていた変化に注目しました。一戸当たりの飼養頭数が伸びていた。大規模化が起きていたのです。ですので、将来的には酪農牛乳生産における効率向上が必須になる、と予測した。そこで開発を継続しようと意思決定しました。
それから競合他社。とある大手電機メーカーもこの分野に参入しましたが、即撤退しました。2019年には別の大手電機メーカーも参入しましたが、まだ脅威と呼べる段階ではない様子。ということで競合は少ない。これで『PMF』の3つ目の指標、競合他社についてもクリアしました。
このように当社は、『PMF』の考え方に沿ってマーケットを確認し、『ファームノート』というサービスを作り上げていったと言えます。とはいえ、当時の私たちはこの考え方に沿って熟考していたというより、図らずとも同じ視点を重要視し、理にかなっていただけで、色々と遠回りもしました。ですので、皆さんが新製品投入に向けてディスカッションする際は、この考え方を是非活用してみてください」。
今では酪農家に欠かせないサービスになりつつある『ファームノート』だが、その成長の一端には入念な市場分析があったことが分かった。
アグリビジネスモデル研究会では、この2件の講演のような先進的な成功事例を学ぶことができる。次回の開催は9月29日~30日を予定しているとのことなので、ご興味を持たれた方は是非、問い合わせてみて欲しい。アグリビジネスで成功するキッカケを、きっと掴めるはずだ。
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取材・文:川島礼二郎
Sponsored by 株式会社タナベ経営