“竹のチップ”で肥沃な土壌づくりを確立! 千葉県4Hクラブ前会長が語る農業とは
2020/10/16
千葉県長南町の農家・金坂哲宏さんは、「金坂蓮魂」というユニークな名前のレンコンを生産・販売している。もちもちと柔らかい品種や、シャッキリとした歯ごたえが楽しい品種などを手がけ、やがて販路の拡大にも成功。しかし、そこにいたるまでの道のりは、平坦ではなかったようだ。
メイン画像:「ちばアグリネットワーク」の金坂哲宏さん
地域の放置竹林を活用した
肥沃な土壌づくり
金坂さんが保有する圃場は、千葉県長南町の山間部に位置する。圃場の形がいびつなうえ面積も十分に確保しづらいのが、地域の農業におけるデメリットの一つだという。就農した当初より、こうした難点に向き合ってきた金坂さんが編み出した方法は、竹のチップを土壌改良として活用することだった。この方法にたどり着くまでの経緯を、金坂さんはこう語る。
「父が急逝した直後、後を継ぐかたちで就農しました。その際、『身近にいるレンコン農家に栽培方法を教われば、おのずと、その方法を実践するかたちになるはず。父と仲の良い業界トップの農業者に追いつくためにも、どうにかして知識を補いたい』と考えました。その後、他の野菜農家に話を聞いたり、色々な文献を読んだりと、自分なりに努力をしたんです。
そんななか目に留まったのが、往年に山間部で活用されていた、落ち葉を竹チップに置き換え土壌改良として使う方法です。いろいろと試したすえ、竹のチップを活用する方法を確立しました。また、この栽培方法を続けるうち、チップの使用量にも適量があることがわかりました。現在は、慣行栽培が行われていた圃場の初期の土壌改善に利用し、以降は自然栽培へと移行させています。」
竹のチップをすき込むことで、微生物が増えて土壌が肥沃になり、優れた食味のレンコンが育つそう。しかも、化学肥料などに頼らない栽培を行っているため、「金坂蓮魂」は、いわゆるオーガニック野菜にあてはまるという。さらに注目したいのが、地域の放置竹林を活用している点だ。
「地域には放置されている竹林があり、その活用方法について議論がたびたび行われていたようです。“平野部と同じ資材を使っていれば、山間部は必ず負ける。山間部の近くにある資材を農業に活かせないか”と考えたのも、竹をレンコン栽培に活用するようになったきっかけです。ちなみにうちの圃場で使っている竹チップは、地域で林業に従事する方々に粉砕してもらったものです」
圃場に竹チップを撒く作業。過去には、周囲の人に“分解されないよ“と言われた事も
金坂さんが管理するレンコン畑。レンコンの花が美しく咲く時期もある
就農後に気がついた
意外な適性
「金坂蓮魂」というちょっと風変わりなネーミングには、意外なエピソードが隠されている。就農する前までさかのぼり、金坂さんがその由来を話してくれた。
「専門学校を卒業後、IT系の企業に就職しましたが、環境が合わず数年で退職しました。その後、働く気力がわかず、いわゆる“引きこもり”になってしまったんです」
ほとんど外出せず、ネットゲームに興じる日々が続いたある時、父親の急逝の知らせが届いたという。圃場もレンコンも、生前の父親が懸命に守ってきた財産だ。見捨てることができず、地元に戻って就農することを決めたと話す。
予期しないかたちでの就農となったが、日々農業に取り組むうち、これまで知ることのなかった自身の適性を知ったそう。
「意外なことに、自分は営業や渉外が好きだと知りました。ネットゲームをしていた時も、ゲーム内の仲間たちとスカイプなどで話しながら遊んでいたのですが、当時のネットゲーム仲間から『“引きこもり”だった頃から、人と話すのが好きだったよね』、『ゲームでも販売ランキング1位で、品物を売るのが得意だったね』と言われました(笑)。ちなみに『金坂蓮魂』という名前は、ネットゲーム仲間が考えてくれた名前です」
もちもちのレンコンは、揚げるとホクホクとした食感に
また、4Hクラブに所属したのをきっかけに、さまざまな農家とコミュニケーションをとるように。やがて、農家には、現場での作業が好きなタイプ、営業が好きなタイプ、経営者タイプなど、さまざまなタイプがいることを知ったという。
「ひとくちに“農家”といっても、それぞれに個性があり、話してみるととても面白い人もいます。ぜひ、4Hクラブに所属しているメンバーにも、コミュニケーションを楽しんでもらいたいですね。コミュニケーションのきっかけになればと、4Hクラブのメンバーの活動内容などをまとめた冊子を作っているところです」
PROFILE
金坂哲宏さん
1983年千葉県生まれ。情報系の専門学校を卒業後、一般企業に勤務。2010年に就農して以降は、レンコンの生産・販売を手がける。2018年より「ちばアグリネットワーク」の会長を務め、2020年6月に退任。
※記事中の情報は取材時のものです。
DATA
取材・文:緒方佳子