「キャベツ自動収穫機」普及に向けて 機械を活かす産地づくりとSOP作成に向けた取り組み
2026.09.21
キャベツ自動収穫機導入技術研究コンソーシアムが2026年6月、「キャベツ自動収穫機見学会」を開催した。本稿では、見学会の第1部(説明会)と第2部(現地圃場見学)、さらに追加取材を通じて得られた情報をまとめて、キャベツ自動収穫機を産地で活用するために必要となる栽培体系や機械運用の考え方、その普及に向けた取り組みを紹介する。
1.「キャベツ収穫機」から「使える体系(SOP)づくり」へ
2.北海道・JA鹿追町:共同利用と綿密な計画が生む「実装力」
3.本州・つくば良農:本州での利用可能性と「生鮮出荷」という発見
4.SOPが示す未来像:農業側が「機械を活かす」時代へ
「キャベツ収穫機」から
「使える体系(SOP)づくり」へ
農業現場における深刻な人手不足や高齢化の一方で、加工・業務用野菜を中心に安定的な品質・生産量を求める需要は高まり続けている。こうした背景のもと、農研機構北海道研究センター、東京大学、ヤンマーアグリ、産地・生産者らで構成される「キャベツ自動収穫機導入技術研究コンソーシアム」は、キャベツ収穫作業の省力化・自動化に向けた研究を進めてきた。
その前身となるコンソーシアムの成果として、すでにヤンマーからキャベツ収穫機(人が操作するモデル)が市販化されている。現在コンソーシアムが取り組んでいるのは、その次の段階。キャベツ収穫機をベースに自動操舵などの技術を搭載したキャベツ自動収穫機の2030年頃の市販化を目指しており、その成果を踏まえて手順書として取りまとめる活動を行っている。
しかし、自動収穫機は完成すればすぐ現場で活用できるわけではない。機械が能力を発揮するには、品種選びから健康な苗づくり、正確な移植、作付計画、収穫・出荷体制までを含めた生産体系の整備が必要となる。
スマート農業技術の導入と運用の手順書(SOP)の作成(提供:農研機構北海道農業研究センター)
そこで進められているのが「スマート生産方式SOP作成研究」だ。栽培体系、作業手順、機械運用、データ活用などを一体的に整理し、現場で導入可能な手順書(導入・運用手順書)として体系化する取り組みだ。
コンソーシアムの代表者である北農研の佐藤さんは「今回の取り組みでは、JA鹿追町さん、笹川北斗農場さん、つくば良農さんという農業生産現場の方々が協力してくださった。彼らと密に情報を共有できたことで、本当に使っていただけるSOPづくりができています」と現状を説明してくれた。
北海道・JA鹿追町:
共同利用と綿密な計画が生む「実装力」
説明会では、JA鹿追町の今田伸二さんが登壇し、キャベツ収穫機(自動ではない市販機)を導入した背景と産地づくりの歩みから語り始めた。鹿追町は人口4,797人(2026年6月末時点)という小さな自治体だが、十勝特有の四輪作体系(小麦・豆類・馬鈴薯・てんさい)に部分的にキャベツを組み込み、大規模キャベツ産地として成長してきた。今田さんは地域の変化について次のように振り返る。
「1987年頃にキャベツ生産を始めた当時は農業生産者も沢山いましたから、人手を掛けて収穫しても問題ありませんでした。ただ、徐々に人が減り集約化していくにつれて、産地として維持するのが難しくなっていきました」
提供:JA鹿追町
キャベツ収穫機は高価だから、個人の購入・所有を待つだけでは普及が遅れる。そこでJA鹿追町では個々の農家が収穫機を所有するだけでなく、JAが5台を保有して地域全体で共同利用している。3台はオペレーター付きの委託収穫、2台は生産者への貸出し用として運用しているが、その分担について今田さんは次のように話す。
「委託収穫が忙しいときは貸出し用を委託に回しますし、委託用に余裕があるときは貸し出します。委託用と貸出し用の割合を明確に決めているわけではありません」
また機械を遊ばせず産地全体で最大限活用するため、全車にGPSを搭載して稼働データを分析し、翌年の運用改善へとつなげている。そして今田さんが最も強調したのが、機械以上に重要となる「作付計画」の存在である。
収量予測により、あらかじめ適正規模の予冷庫を確保して廃棄を回避・販売期間の延長を実現した。(提供:JA鹿追町)
「収穫機を導入すれば解決、ではありません。運用計画をしっかり立てることで、機械が生きるのです」
そこでJA鹿追町では、収量予測・収穫適期予測のほか、需要、育苗能力、移植機や収穫機の能力まで含めた作付計画を作成している。
この年間計画や機械運用を支える情報管理の仕組みづくりに取り組んだのが、日建リース工業だ。同社の町田さんは、作付計画、収量予測、収穫実績、出荷情報をつなぐ「トータルソリューション」を説明した。RFIDや重量計を活用して収穫したキャベツの情報を一元管理することで、販売側へのリアルタイムな供給情報の共有や、翌年の栽培計画への活用を目指す。
提供:JA鹿追町
キャベツを機械収穫するには、苗が真っ直ぐに育ち、一斉に収穫適期を迎える「健康な苗」が必要となる。今田さんは、平成10年頃から育苗センターを中心とした体制を整備してきた歴史についても熱を込めて語った。
「苗の太さや形状を選別する技術を30年以上前から使っていました。現在は機械の更新の関係から人による選別に戻していますが、考え方は変わっていません。悪い苗は可能な限り植えない。後で補植する方が労力がかかりますから、育苗センターでしっかり選別して後工程の負担を減らしています。
機械だけあっても上手く回りません。計画、育苗、資材、物流……これらを一体化して運用しないと、機械を導入しただけではなかなか上手くいかないのです」
苗を正確に植え付けることも、機械収穫のメリットを享受する上で必須となる。プレゼンテーションとに登壇したヤンマーアグリの西井康人さんは、キャベツ収穫機とともに、移植機の高精度化が重要である、と説明した。また、ここも自動走行することで効率化の実現も目指した。
東京大学とヤンマーアグリが共同開発したキャベツ二畦自動移植機
「開発した移植機のベースとなるのは市販機『PW20R,A』。これにRTK-GNSSによる自動走行機能を搭載し、さらにLiDARセンサーを装備しています。このLiDARが畝の形状を認識して、苗を畝の中央へ正確に植え付けることができるようになりました」と解説してくれた。
技術開発に携わる東京大学深尾研究室の浅野真輝助教は「LiDARセンサーは価格が下がってきており、市販機にも装備しやすくなっています」と普及への手応えを語った。
開発機では、GNSSで位置測位せず、LiDARセンサー(ぶら下がる形で搭載されている)を用いた畝認識により自動走行する。
本州・つくば良農:
本州での利用可能性と「生鮮出荷」という発見
今回の実証で大きな意味を持つのは、JA鹿追町でのキャベツ収穫機を核に据えた生産体系の検証にとどまらず、条件が異なる本州の農業法人「つくば良農」(茨城県つくば市)でも検証を行った点だ。
つくば良農は25haの農地で2台のキャベツ収穫機(と今回の実演機である自動収穫機)を用いて、通年でほぼキャベツのみを生産している。同社の青木さんは、多品目ではなくキャベツに絞る理由について次のように説明してくれた。
「多品目にすれば通年仕事ができますが、現場が混乱しやすいのです。キャベツに絞ることでマニュアル化を進め、ヒューマンエラーが激減しました」
また同社はJGAPを取得しているが、「頑張ってGAPを取得するぞ、というのではなくて、働く環境を整えていたら、いつの間にか取得できる条件が整っていたという感じです。誰がやっても安全に、効率的に作ることができる環境づくりを心がけています」と語る。
同社が収穫の機械化を進める背景には作業負担の軽減がある。青木さんは
「当社の規模ならば、仮に熟練者が5人いれば手収穫でも対応できるんですよ。一方で、手収穫を長時間続けることは身体的な負担があまりに大きくて、それに依存した体制を維持することは難しい。機械は疲れませんからね」と実感を込めて明かした。

見学会当日はあいにくの豪雨に見舞われたが、合間を縫って移植機と自動収穫機の実演が行われた。移植機はLiDARが畝の形状を識別し、見事に自動で畝の中央へ苗を植え付けていた。これも後の自動収穫の成否を左右する重要な工程だ。

続いて行われたキャベツ自動収穫機の実演では、走行と刈取操作の無人化が確認できた。ヤンマーアグリの西井さんは
「開発したキャベツ自動収穫機のベースは、当社の市販キャベツ収穫機『HC1400』です。そこに自動操舵機能を追加し、さらに刈取部の高さを自動で調整する機能を搭載しました。刈取部の高さ調整には高い技術が求められますので、この自動化の意味は大きい。
また、キャベツは左右に倒れてしまうことがあります。そのような場合でも安定して収穫できるよう、倒伏した株を刈取部へ導くスライダー状の部品を追加しています」と技術的な工夫を明かした。
刈取部(掻き込みホイル)の高さを自動調節するための工夫(提供:ヤンマーアグリ)
自動操舵と高さ調節の自動化によって熟練オペレーターが不要になる点について、JA鹿追町のスタッフは
「簡単そうに見えますが、刈取部の高さを調節しながら真っ直ぐに走行するのは熟練の技が必要です。高い技術を持った熟練者を常に確保できるとは限りませんから、人手不足の現場においてこの自動収穫機は非常に価値があると思います」と、現場ならではの評価を寄せた。
走行と刈取部の高さ調整を担う熟練作業者は不要とはいえ、収穫したキャベツの品質確認と外葉除去に2名、コンテナに入れる作業に1名、計3名が必要となる。
一方で、青木さんにこの機械が市販された際の購入意向を問うと、経営者としてのリアルな本音を語ってくれた。
「残念ながら、はい、とは即答できないんです。この圃場は1haなのですが、もしもここで2台同時に熟練者1名で動かせるなら価値があります。収穫機1台あたりの処理能力を1日2反程度とすると、収穫時に2台を同時に運用できれば導入効果があるのですが、今の当社の規模だと足りないのです。
導入効果は機械の性能だけではなく、収穫期にどれだけの面積を処理できる作業体系を組めるかで決まります。ですから逆に言えば、この自動収穫機の導入メリットが出せる体系というのは確実に存在すると思います。当社が行った実証の情報も盛り込まれることでしょう」
キャベツ自動収穫機で収穫され、コンテナに入れられたキャベツ。生育揃いもよく、外葉も除去されている。これなら生鮮向けに出荷できても不思議ではない。
さらに実演中、青木さんから「自動収穫機で収穫したキャベツを外資系大手小売店向けにも出荷している」という興味深い事実が明かされた。加工・業務用だけでなく、「適切な品種選定や栽培方法によって、機械収穫でも生鮮市場の要求に対応できる」という新たな可能性が示された。
SOPが示す未来像:
農業側が「機械を活かす」時代へ
北農研の佐藤さんは「今回のSOP作成研究では『JA鹿追町』と『笹川北斗農場』、『つくば良農』というキャベツ産地・生産者さんが密に協力してくださった。この現場の声を徹底的に拾い上げていくことで、真に実用的なSOPになると確信しています」と力を込めた。
今回のプロジェクトで重要なのは、キャベツ自動収穫機という機械が完成したことではない。機械が能力を発揮できるよう、農業全体の体系を再設計する重要性だ。健康な苗、正確な移植、自動収穫機、効率的な機械運用、収穫後の物流、販売側との情報共有……これらが一体となって初めて、キャベツ自動収穫機が現場で真価を発揮する。
その成立条件を整理し、他地域でも導入可能な形に体系化する「SOP(導入・運用手順書)」。これが公開されてキャベツ自動収穫機を運用するノウハウが明らかになれば、北海道以外の地域での普及を後押しする大きな力となる。
そして将来、この考え方は白菜、レタス、ブロッコリーなど、キャベツと同様に収穫作業の省力化が求められる他の葉物野菜にも展開していくはずだ。今回のキャベツ自動収穫機見学会は「機械を活かせる体系」を築く時代に向けた、大きな一歩と言える。
※本検証課題は「スマート生産方式SOP作成研究(農林水産省)」の支援により実施された。
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