双方納得の取引へ。契約概念の導入による、JAと農家の新たな関係構築
2018/08/10
独禁法違反は、その取引実態から摘発されるが、規約面などにも「全量出荷」など抵触しやすい文言が未だ残っていることも、違反の証拠として取り上げられている。中央大学大学院教授・杉浦氏が語る、JAと農家の間の取引における喫緊の課題とは?
契約概念の導入と
新たな農家との関係構築
このコラムを連載させていただいている間でも、すでにいくつかのJAが公正取引委員会から注意や排除措置命令を受けている。それらの処分をうけたJAの多くにとっては、それまでの商慣習で行われてきたことが否定されている部分もあり、にわかに納得しがたい部分もあるだろう。しかし、それらのケースを注意深く見ていると、問題となっている取引形態が過去からの「慣習的」に形成されていたり、農家とJA双方が条件に同意して書面にそれを記したような「契約」の形になっていなかったりするところに問題の発端があるものが多い。
また、かなり前に作成して実態に合っていない部会規約が未だに残っているところもあるようだ。独禁法違反は、その取引実態から摘発されるというのはこれまで指摘してきたとおりだが、規約面などにも「全量出荷」など抵触しやすい文言が未だ残っていることも違反の証拠として取り上げられている。各JAにとって契約概念の導入によるJAと農家の間の取引関係の明確化、双方が納得した条件での取引であると示せる形の構築は喫緊の課題といえる。(なお、契約書の形に変えたからといって、「全量出荷」などと入れてよいわけではない。独禁法違反を避けるためには、きちんと合意した量や価格を記入すべきであり、フラットな契約の形にしなければならない。)
特に独禁法違反関係は調査や審判がスタートすると長引く傾向がある。ガバナンスコード等で、取引先のコンプライアンス状況等まで留意して取引関係を構築しなければいけなくなっている流通業者やメーカーにとって、排除措置命令等を受けたり、審判中の状況のJAと取引を継続するのはなかなか難しい状況になっており、実際に、業者との取引量に影響が及んだJAのケースもある。多くの農家がJAを出荷先の一つとして捉える時代になってきたなか、この問題を契機に契約概念の導入等を通じて、JAと農家との新たな関係を模索・構築していくことを検討すべきだろう。
PROFILE
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
杉浦宣彦さん
現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。
AGRI JOURNAL vol.08より転載