【2026年度】都道府県のスマート農業、農業DX独自事業➁「関東・甲信越エリア」

2024年に施行された「スマート農業技術活用促進法」に基づき、都道府県の2026年度予算には経営デジタル化への強い意志が反映されている。第2回は、関東・甲信越エリアの10都県の独自事業を紹介する。地域課題に応じた具体的な省力化と、データ活用による生産性向上を目指す各自治体の施策を解説する。

 

【茨城県】土地利用型農業の
労働生産性を最大化

イチゴ栽培にアシストスーツを導入(出典 茨城県)

茨城県は、全国有数の農業県として、水稲や麦・大豆といった土地利用型農業の生産性向上を強力に後押ししている。2026年度当初予算施策では、国の補助事業である「スマート技術体系への包括的転換加速化総合対策事業」等とも連携し、自動化農機の導入だけでなく、それを活かすための栽培体系の転換をパッケージで支援している。特に水稲の自動走行田植機や、AIを搭載した大型選別機の導入に注力しており、個々の機械導入にとどまらない、産地全体の構造改革を図っている。

また、農林水産省の「スマート農業技術カタログ」に準拠した機器導入に対し、関連する融資制度や利子補給等の支援措置を活用することで、生産者の初期投資負担を軽減し、大規模経営体への技術集約を加速させている。これにより、担い手農家1戸あたりの管理面積拡大と、作業時間の短戦を両立させる仕組みを整えている。

 

【栃木県】地域計画と連動した
着実な機械導入支援

栃木県内では、各市町村が県の方針とも歩調を合わせ、地域に即したきめ細かな支援を行っている 。例えば塩谷町では、独自に「スマート農業推進事業」を実施し、農林水産省の技術カタログに掲載された機器の購入費用を助成している。この事業の大きな特徴は、地域農業の将来を担う「目標地図」に位置付けられた農業者や認定農業者を優先的に支援する点にあり、無計画な導入ではなく、地域の合意形成に基づいた実効性のある推進を目指している。

県全体としても、イチゴやナスといった施設園芸における環境制御システムの導入支援を継続しており、スマート農業技術の活用によって高品質な農産物の安定供給体制を強化している。データ駆動型農業への移行を促すため、指導員による巡回指導とセットで技術導入を支援する体制を構築し、現場での技術定着を確実にしている。

 

【群馬県】野菜・花きの機関部門を
デジタルで強化

前橋市の実証農場にAIを活用したキュウリ収穫ロボットを導入(出典 AGRIST)

野菜産出額が全国上位を占める群馬県では、基幹部門である野菜および花きの生産基盤強化に向けた予算が手厚い。

産地生産基盤パワーアップ事業の概要(出典:農林水産省ホームページ)

2026年度の主要な取り組みとして、意欲ある生産者による施設・機械の整備を後押しする「産地パワーアップ事業」等の国庫補助金を積極的に活用している。また、49歳以下の認定新規就農者に対しては支援の優遇措置を設けるなど、次世代の担い手が初期段階からスマート農業技術を装備できる環境を整え、経営の安定化を図っている。

具体的には、キャベツやレタスなどの露地野菜における自動操舵システムの導入や、ドローンによる農薬散布の効率化を支援している。さらに、鳥獣被害対策として、AIカメラを活用した捕獲システムの整備にも予算を充てており、生産現場の多角的な課題解決をデジタルの力で支援している 。これにより、過酷な労働環境の改善と、農業収益の向上を同時に達成することを目指している。

 

【埼玉県】経営診断をセットにした
収益向上支援

スマート農業導入コスト低減支援事業の概要(出典:埼玉県ホームページ)

埼玉県が2026年度に推進するスマート農業普及推進施策は、合理的な仕組みを採用している。生産者への機械導入支援を行う一方で、採択の条件やプロセスとして県が委託する専門家による「経営診断」の受診を推奨している。これにより、導入した機械が単に労働を軽減するだけでなく、確実に収益増加に結びつくかを確認した上で交付する体制を構築し、投資の有効性を高める仕組みを整えている。

対象機器は、自動走行トラクターから、ハウス内の環境制御システム、生産管理ソフトまで幅広く、小規模な都市近郊農業から大規模な土地利用型農業まで、経営形態に合わせた柔軟な支援が可能となっている。また、県内の農業機械メーカーとの連携も模索しており、地元企業が開発した技術を地元の農業者が先行して導入する際の優遇措置なども検討されている。

 

【千葉県】園芸プラットフォームと
衛星データの活用

千葉県は2026年度、新たに園芸スマート農業を推進するためのプラットフォーム的な枠組みを強化している。これは技術の導入支援だけでなく、民間事業者とのマッチングや実演会を通じて、産地全体のデジタル活用能力を底上げすることを狙っている 。また、衛星データを解析し、耕作放棄地の発生確認や所有者と耕作者のマッチングに活用するリモートセンシング導入モデル施策も展開しており、農地管理の側面からもデジタル化を推進している。

施設園芸が盛んな地域では、高度な環境制御に加え、自動収穫ロボットの試験導入に対する支援も行われており、人手不足が深刻な品目における省力化を強力にバックアップしている。県が運営する「ちば農業データ連携基盤」の利用促進も図り、生産から流通まで一貫したデータ活用を支援することで、ブランド力の強化を図っている。


 

【東京都】都市型スマート農業の
実装化を推進

東京都では、限られた農地面積を最大限に活用するため、「東京型スマート農業実装化促進事業」を継続している。これは、自動操舵システムや農業用ドローン、圃場モニタリングシステムの導入を支援するものだ 。都市農業特有の小規模・多品目栽培に適した小型のロボット草刈機や収穫支援ロボットの現場実装を優先しており、専門家による指導とセットにすることで、技術の定着を確実にしている。

2026年度予算では、生産現場のデジタル化に加え、直売所やECサイトと連動した「販売DX」への支援も強化された 。在庫管理や需要予測をデジタル化することで、食品ロスの削減と収益の最大化を支援している。また、市民農園などでのスマート技術活用も視野に入れ、都民の農業への理解を深めるためのデジタル活用も推進しており、都市農業の多面的機能をデジタルの側面から支えている。

 

【神奈川県】都市部での環境制御と
省力化を支援

神奈川県内の各市町村では、都市部ならではの高度な営農を支える地域独自の事業が目立つ 。例えば横浜市が実施する「スマート農業技術設備等の導入支援事業」では、ハウス内の環境(温度・CO2・湿度など)を遠隔で監視・制御するシステムの導入に対し助成を行っている。また、農産物の販売支援システムの初期費用も対象に含まれており、生産現場だけでなく流通・販売のデジタル化までを見据えた包括的な支援体制となっている。

県全体としては、畜産分野のDXにも力を入れており、牛の行動モニタリングや自動給餌システムの導入を支援することで、労働時間の短縮と家畜の健康管理の精度向上を両立させている。地形が複雑な地域においては、傾斜地でも稼働可能な小型の自走式機械やドローンの導入を促進し、地域特有の不利な条件を技術で克服する取り組みを進めている。

 

【山梨県】高品質果樹生産を支える
先進技術

オランダ製ファンロー型セミクローズドガラス温室でトマト栽培(出典 関東農政局)

果樹王国である山梨県は、2026年度に「スマート農業推進事業」を展開している。物価高騰の影響を軽減しつつ、省力化と高品質化を両立させるため、先進機器整備を支援する。特に、3年後の生産コスト削減といった具体的な目標値を掲げているのが特徴だ 。既存機械の単純な更新ではなく、AI選果機や精密な灌水制御システムなど、収益に直連する技術の実装を厳選して後押ししている。

ブドウや桃などの基幹品目において、熟練者の経験を数値化する試みも支援されており、新規就農者が早期に技術を習得できるようなデジタルマニュアルの整備も進められている。また、気候変動対策として、気象センサーと連動した自動防除システムや霜対策設備の導入を支援し、生産の安定化を図っている。これにより、高品質な山梨ブランドを維持しつつ、持続可能な果樹経営の確立を目指している。

 

【長野県】自治体独自の枠組みで
規模拡大を牽引

長野県では、県の方針に呼応して管内の自治体が地域に寄り添った独自事業を展開している。例えば長野市が実施する「スマート農業用機械導入等支援事業」では、認定農業者などを対象に支援を行う。ドローンの操作技術認定にかかる受講費用も対象となっており、ハード面だけでなくソフト面のスキルアップも支援の柱としている 。国の事業を補完する形で、自治体独自の機動力を活かした予算措置が講じられている。

県全体としては、冷涼な気候を活かした夏秋野菜の生産において、ドローンによるリモートセンシングを活用した生育診断と、それに基づく可変施肥の導入を支援している。また、中山間地域における集落営農の維持を目的として、農作業受託組織が導入する高性能な機械に対する補助を強化しており、地域農業の維持と発展をデジタル技術で下支えしている。

【新潟県】大規模水田経営の
抜本的転換

米どころ新潟県では、水田農業の競争力強化を主眼に置いた予算が編成されている 。県の農政方針に基づき、大規模経営体によるロボットトラクターの導入や、自動給水栓を用いた水管理の自動化を強力に推進している 。2026年度は特に、地域の中心的な担い手に対し、スマート技術を活用した大規模な栽培体系への転換や普及・実証施策を重点化しており、地域全体のコスト競争力を高めるためのモデル確立を急いでいる 。

また、酒米や園芸品目への転換を支援する際にも、スマート農業技術の導入を要件に加えることで、高付加価値化と省力化を同時に進める戦略をとっている 。農業用ドローンの活用による病害虫防除の広域化や、収穫データの分析による土壌改良など、データに基づく精密な稲作経営を全県規模で展開するための基盤整備に注力している 。


取材・文/アグリジャーナル編集部

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