マイクロプラスチックを出さない農業へ! 『ペースト2段施肥』を活用した実証が進行中
2022/08/10
被覆肥料を使っている稲作農業者であれば一度は「こんなにゴミを出し続けて良いのか」と不安を感じたことがあるのではないだろうか。マイクロプラスチックを出さず、被覆肥料に負けない収量を確保できる技術を紹介しよう。
マイクロプラスチックが
海岸に漂着している
マイクロプラスチックとは、直径5mm以下のプラスチックのこと。様々な調査・研究から、水田で利用されている被覆肥料の被膜殻が、海岸などに漂着するマイクロプラスチックと化していることが分かってきた。多くのTVニュースや新聞などで報じられ、世間一般にもこの問題が広く知られ始めている。
そしてなかでも農業由来のマイクロプラスチックが今、大きな問題になりつつある。下記のような写真を目にした農業に関わりのない方々は衝撃を受けるかもしれない。
流出しているプラスチックゴミの製品質量比でみると、被覆肥料は全体の15%。これは人工芝の23.4%に次ぐ2番目と、非常に大きな割合を占めている(一般社団法人ピリカによる調査)。
被覆肥料とは、水溶性粒状肥料をプラスチック樹脂で被覆した肥料のことで、作物の生育に合わせて肥効特性を制御できるため作業の省力化に有効であり、1980年代以降、稲作の効率化を支えてきた立役者のひとつである。しかしSDGs(持続可能な成長目標)という指針が世界的に認知された今、被覆肥料をこのままにして良いはずがない。
被覆肥料は現在、国内の水田の約6割で使用されている。いわゆる一発肥料は代表的な被覆肥料であり、コスト削減効果が話題のBB肥料もまた、被覆肥料の一種である。
業界は動き出している。JA全農・全国複合肥料工業会・日本肥料アンモニア協会の肥料関係3団体は、2022年1月に連名のプレスリリースを発表した。そこには「『2030年にはプラスチックを使用した被覆肥料に頼らない農業に。』を理想に掲げ、さらに努力してまいります」と書かれている。肥料メーカーでは、被殻膜を薄くするための研究・開発を進めており、これは確実にマイクロプラスチック削減に繋がっていく。さらに、生分解性素材を用いた被覆肥料の研究開発も進められている。
だが、現在販売されている被覆肥料と同じ性能を生分解性素材で実現するのは容易ではない。性能を高めるには肥料価格を上げる可能性があり、肥料価格高騰が大問題になっている今、それを農業生産者に押し付けることはできない。
そこで肥料関係3団体では「現行技術による代替施肥方法の実証と普及」に注目している。代替施肥方法とは、具体的にはペースト施肥のこと。ペースト施肥に使われる肥料の嚆矢は片倉コープアグリだ。1979年に国内初のペースト肥料を市販した。そのペースト肥料の2段施肥を可能にする施肥機を片倉コープアグリとともに開発したのは三菱農業機械だ。このペースト肥料+2段施肥技術の活用により、被覆肥料の施用と同等の効果を得ることができる。
古くて新しい注目の技術、
それがペースト2段施肥
ペースト肥料とは、尿素、燐安、塩化カリを主原料とするペースト状(粘性のある液状)の肥料のこと。肥料メーカーの片倉コープアグリが日本初のペースト肥料を1979年に市販開始した。苗の活着・初期生育が良好で、液状ゆえ、プラスチック被膜殻を使用しないためマイクロプラスチックが発生しない。大型規格のタンクは取り回しが良く田植え作業を軽労化できるなどのメリットもある。
ペースト肥料に対応した三菱農業機械の施肥機。
片倉コープアグリと協力してペースト肥料に対応した施肥機を開発したのが、三菱農業機械だ。同社の開発・設計統括部 渡里圭介さんに話を聞いた。
「ペースト施肥機開発を始めたのは、琵琶湖の自然環境を守るためでした。1970年代、琵琶湖は富栄養化を原因とする環境問題に直面していました。その主な原因は工場排水や生活排水でしたが、農業分野には肥料の適正使用つまり肥料(マイクロプラスチック殻)が水田外に流出しないよう求められました。
そこでペースト肥料を片倉コープアグリが、施肥機を当社が開発したのです。当初から側条施肥を基本としていましたが、2段施肥、農薬混和、一発施肥と、着々とペースト施肥の技術は進化しています。畑作や果樹への展開も行ってきましたから、今では多様な作物でペースト施肥を利用できるようになりました。近年ようやくSDGsの意識の高まりにより、『持続可能な農業』という考え方が広がりつつありますが、それに当社は1970年代から挑戦していたんです」。
マイクロプラスチックゴミを出さない『ペースト2段施肥』の技術
ペースト肥料を上下層の2段に分けて施肥することで、肥効持続期間を延長させる技術が『ペースト2段施肥』だ。通常の施肥では上根だけだった肥料供給を下根へも直接施肥できるから、下層の根を有効に生育させ、収量にプラスの影響を与えることが期待されている。