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生産者の取り組み

成功する農業後継 酪農から学ぶ「非言語ノウハウ」伝承

④経営方針の理解と実践

正之さんは、酪農規模の拡大は考えていないという。現在は、搾乳牛24頭のほか、自家繁殖のメス子牛を十数頭育てている。乳牛を外部から導入することはまれであり、当面は今の規模で酪農を続けていくつもりだ。規模を大きくすれば、その分必要な飼料も多くなり、飼料設備も必要になる。また牛舎やバルククーラーなどの設備の増強も必要になる。

「自社の設備は古いですが、丁寧に使っているので、機械代も今はほとんどかかっていません。飼料、牛舎、堆肥関係設備まで、うまく連動させて低コスト経営ができています。規模を拡大すれば収入も増えるかもしれませんが、1頭1頭に気を使う時間も減ってしまいます。今のやり方が、いいバランスだと思っています」。

先代の、父・一敏(かずとし)さん(60歳)は、獣医免許を持ち、大動物の獣医として北海道農業共済組合で勤務していた経歴があり、動物の健康に対する意識は人一倍強い。そんな先代が掲げた三浦牧場の経営方針は「乳量を追うのではなく、牛を健康な状態にすること」。先代とともに作業をしていく中で、正之さんもその想いを受け継ぎ、実践するようになっていった。

酪農では、繁殖時の「精子の選択」が非常に重要だ。三浦牧場の場合、牛を大型にせず、健康な状態で飼えるようにすることが戦略の1つだという。それは健康を優先させた飼料配合にも現れている。牛が健康であれば、様々なトラブルやストレスにも強くなり、病気も減り、結果として経営が安定する。これが三浦牧場の考え方だ。

⑤新たな経営課題の解決

正之さんの代になり、新たな経営課題も生まれている。現在の取引先は、協同組合に出荷することが大半で、どうしても消費者の顔が見えにくい。

「生産者にとっては、どんな人が食べてくれているのかが見えないため、牛を育てている意義が見えにくくなっています」。

そこで正之さんは、地域の幼稚園や小学校の課外授業の話があれば誘致をしたり、近隣の病院内託児所のお散歩コースにしてもらうなど、積極的な受け入れを始めた。

「防疫の問題もあり、労力も増えます。でも、それ以上に、子供たちが牛と触れ合ったときの楽しいリアクションを見て、私自身も楽しんでいます」。

牛を見て喜ぶ子もいれば、泣き出してしまう子もいる。子供たちにとっては牛との触れ合いが、そして生産者にとっては地域の人との触れ合いが、それぞれの力となっているようだ。

「岡山の山の中にあるこんな場所でも、子供たちが農業と触れ合える機会は少なくなっています。自分が小さかった頃は、近所に和牛を2~3頭飼っているような農家も多く、牛が身近に感じられていました。今は、農業が生活から離れてしまっている気がしています」。

「消費者に、農業のことをもっと知ってもらう努力をしたい」と語る正之さんは、まずは近くに住む子供たちが気軽に訪れることのできる牧場にしたいと考えている。

 

 

話を聞いた人

三浦牧場 後継者

三浦正之さん

 

三浦牧場代表

三浦一敏さん

取材

「親子農業」研究員 ㈱ビジネス・ブレークスルー所属

乾祐哉

監修

親子農業指導教官 ㈱みやじ豚代表取締役

宮治勇輔

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