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日本産への海外需要の本音は? トレーサビリティができる農産物加工品の輸出強化を図る

本誌にて「これからのJA」を連載する中央大学大学院教授杉浦宣彦氏のWEB連載コラム。欧州編第3回は、海外から見た日本の輸出食品についての本音と課題をレポートする。

日本の農産物輸出
食品輸出額増加の実態

先日、わが国からの農産物輸出・食品輸出額が7年連続で増加したというニュースが発表されました。農産物・食品輸出を増やしていこうという施策がある程度の効果を上げていると受け取れる反面、詳細を見ていくとあるパターンの固定化も進行しているように見受けられます。それは、増加額のかなりの部分が食品加工物であることです。実際、農水省発表からは見えない関税コードに含まれる「各種の調整食品のその他」という部分は896億円と、牛肉とリンゴの輸出額を合わせた金額の倍を少し下回る程度になっています。

しかし、農協などからの加工用農作物の出荷額や日本酒などの輸出はそこまで増えているわけではなく、日本農業新聞2月9日の記事の中で、農林中金経済研究所の清水徹朗理事研究員が指摘されているように、「2019年の農産物輸出5877億円のうち、国産農産やそれを原料にした日本酒などの加工食品は1000億に満たず、多くは海外原料に依存した加工食品」というのが本当のところでしょう。

もともと、農産物輸出の増加額の割に農業の現場ではあまり影響が感じられないことが指摘されてはいましたが、上記の指摘はまさにそれを立証していると思います。(上記のような加工食品は場合によっては、日本でパッケージなどが変えられるだけで全く日本での生産と関連がないものも含まれている疑いがあります。)
 
この話があまり海外に伝わっていないのならよいのですが、現在、欧州で研究を続けている筆者がEU本部関係者や食品関係業者にそれとなく聞いてみると、もうすでにこの事実に気が付いており、しかも、その海外原料の多くが中国産なのではないかということまで推察が進んでいます

現在、日本国内では、中国からの新型肺炎が問題になっているわけですが、冷静に考えれば加熱済みの加工食品が直接的な感染源になるとはにわかに思えないものの、すでに日本での感染も問題視されている中、原料農産物は中国産でしたとなると、今後、日本からの加工食品に対する警戒感やレピュテーションは相当不利な状況になることは否定できません。



海外需要の本音は
高品質よりも低価格

生食用を含めた日本の農産物の海外輸出は、政府が強化策を打ち出してから相当伸びており、外国人観光客の増加によるインバウンド効果もあって、海外でも日本の果物などの需要を底上げするのには成功したと言えます。

しかし、生の農作物に関してはやはり輸送中の質の低下は防ぐことができず、廃棄せざるを得ないものがある程度発生します。また、距離も長いため運送コストもかなりかかり、海外のスーパーなどに並んだ場合は相当高い値段になっているのが現実です。

最初はもの珍しさと日本で食べたおいしさから手に取る消費者もいたでしょうが、このままではどこかで踊り場に到達してしまうように思います。事実、東南アジアの某国でお会いしたスーパーの社長は、「優とか秀とか書いてある箱のリンゴはいらない。むしろ、規格外の物でよいから出してほしい」と言っています。現地でライバルになるようなリンゴは日本の基準であれば規格外の物も多く、確実に味はおいしい日本産の規格外リンゴを並べると、価格差がそれ程でもないため、現地の経済水準から考えて確実に日本産が売れるというのです。
 
欧州では生食用農産物の輸送の限界を悟ったうえで、加工食品の生産に熱心になっています。前にも指摘しましたが、加工用農作物の生産をする、大手食品メーカーなどと契約している契約農家も多いですし、農作物の付加価値向上のため、加工食品の生産に農業協同組合自身が積極的に取り組んでいたりと、加工食品での売り上げの方が、普通の生鮮野菜などより多い農業協同組合もあります。

また、日本も最近、カット野菜やお惣菜の需要が伸びていますが、もともと、圧倒的に共働きが多い欧州では、週に幾度も買い物に行けないことや、いかに調理の手間をかけないかというのも一般家庭では大事なようで、当地のスーパーなどに行っても、生鮮食料品以上に保存がきく加工食品の圧倒的な数の多さに驚かされます。ただ、当地では、食品の安全性の観点からトレーサビリティがある程度できるかどうかも消費者の選択の重要な要素となってきています。



日本産農産品の
ポテンシャルと課題 

生食用の農産物輸出にはどうしても限界がある以上、欧州の食生活にあった日本の農産物加工品の輸出も考えた方がよいと思います。

昨年12月に発効した日・EU経済連携協定により、EUからの農産物加工品の輸入の自由化も進みましたが、日本からの輸出もまた同様な状況にあり、特に日本酒などは大きなポテンシャルがあると思われる反面、当地では、和食を食べないからと二の足を踏む人たちも多いのです。こちらから欧州の食品に合うものを積極的に提案したり、欧州が季節的にできないものを時期をずらして加工品として輸出するなど、現地の食生活にあった農産物加工品の輸出をぜひ前向きに検討していただきたいです。

また、国内生産したものであれば、トレーサビリティの問題を指摘されたとしても比較的対応できるはずです。真の農産物輸出の増加を目指して、新たな方策に出るべき時期に来ているのではないでしょうか。

PROFILE

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
杉浦宣彦

現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。

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