今話題の「NFT」は、農業をどう変えていくのか?
2022/05/13
最新の農業マーケティングについて、流通経済研究所・折笠俊輔氏に聞く連載。今回は、最近よく耳にするNFTという言葉がテーマ。一見農業とは結びつかない言葉だが、NFTは農業をどう変えていくのだろうか。
NFT、ブロックチェーン、メタバースという言葉を良く聞くようになりました。昨年には、アメリカのデジタルアーティストBeeple氏のNFTアートが、75億円という巨額で落札されたニュースが話題になりました。ここでは、NFTとは何か、それが農業をどう変える可能性があるのかを議論したいと思います。
NFTとは何か
NFTとは、「Non-Fungible Token」の頭文字を取ったもので、日本語では「非代替性トークン」と言われています。なんのこっちゃ、というワードに聞こえますが、分解すると、非代替性=替えの利かない=唯一であるトークンということになります。このトークンというのは、ブロックチェーンで保護される暗号資産のことを指します。
ここで、簡単にブロックチェーンについて説明しましょう。ブロックチェーンは、取引情報などをブロックとして記録し、それがチェーンのようにつながって管理される仕組みです。この仕組みの中で、ある取引(情報)を改ざんしようとした場合、つながった他のブロックの情報も改ざんしていく必要があること、情報自体がブロックチェーンを構成する複数のシステムが、それぞれ情報を保有し、常に同期される「分散型台帳」という管理方式になっていることから、改ざんやデータの破壊が難しい仕組みとなっています。
改ざんやデータの破壊が難しい特性から、金融などの分野で利用が進んでいます。特にビットコインなどの暗号通貨などは、ブロックチェーンによって成り立つ通貨であり、マーケットであると言えます。このブロックチェーンで保護している暗号資産をトークンと呼びます。
つまり、NFTとは、替えの利かない、唯一のブロックチェーンで保護される暗号資産のことを指す言葉であると言えます。このNFTによる最も大きなメリットは「デジタル資産の所有権を明確化できる」ことです。
冒頭でアメリカのデジタルアートが巨額で取引された話を書きましたが、簡単にデータをコピーできてしまうデジタル情報は、オリジナルを証明することが難しかったのです。
例えば、ピカソの絵であれば、実物として本物の絵がありますから、それがオリジナルとして、売買で所有権が移転していきます。しかし、デジタルアートの場合、作者が一人にそのデータ(例えば、似顔絵のアイコンなど)を販売したとしても、そのアイコンをSNSの自分のプロフィールに使うと、簡単にほかの人にもコピーができてしまいますし、データとして同じものが簡単に作れてしまいます。著作権はあっても、オリジナルとしての唯一性を保証することが難しかったのです。
しかし、NFTを使えば、その所有権の来歴などを改ざんが困難なブロックチェーンで保証することで、同じデータであっても、自分のもっているものが本物である、つまりオリジナル(=唯一)であると証明できるのです。
NFTの農業への活用
NFTはその特性上、デジタルコンテンツの所有権や、唯一性の保証に利用されます。例えば、デジタルのアート作品や、音楽、トレーディングカードなどです。また、仮想現実の世界において、自分自身が唯一無二の自分であることを証明するにもNFTは有効でしょう。
農業はデジタルで完結できない産業です。リアルな世界で、土と水と太陽を使い、出来上がった農産物を物理的に運び、取引を行う必要があります。そのため、NFTをそのまま農業に利用することは簡単ではありません。一度、デジタル世界とフィジカルな農業を何かしらの形で接続する必要があるのです。
例えば、農地の権利情報をデジタル管理した場合に、その唯一性を証明するために権利書をNFTにする、といったことなどもそのひとつです。そのほかにも、仮想現実(オンラインゲームやメタバースなど)で農業を消費者が体験し、そのアクションによって、デジタル上で出来上がった農産物を消費者がデジタル上で収穫すれば、NFTとして所有権を発生させて、そのNFTを貨幣や物々交換のように交換していく仕組みを作る……といったことも考えられるでしょう。
とはいえ、まだまだ農業×NFTの分野は構想段階のものが多く、具体的なサービスや仕組みは今後の発展に期待するしかありません。
今後のNFT活用に向けて
NFTはアート分野などを中心に注目を集めつつ、発展しています。しかしながら、法整備における定義の曖昧さや、取引の複雑性(実際に私もアートを購入してみましたが、購入の手数料が日によって大きく変動したり、専用の暗号通貨を購入したりと、現段階では、購入も販売も非常に面倒だと思います……)から、今すぐ「コレに!」という感じで活用できるといったものではありません。
NFTは、全く新しい技術と概念の産物です。むしろ、これから新しい活用方法や用途を農業分野でも作り上げていくべきものです。もしかすると、ちょっとしたアイデアで大きなマーケットが生まれるかもしれません。ぜひ、生産者の皆様も「NFTの使い方」について考えてみてください(貨幣の代替でOKだと、唯一性がいらないので、ただの暗号通貨になってしまう難しさがあります)。
筆者プロフィール
公益財団法人 流通経済研究所
主席研究員 折笠俊輔氏
小売業の購買履歴データ分析、農産物の流通・マーケティング、地域ブランド、買物困難者対策、地域流通、食を通じた地域活性化といった領域を中心に、理論と現場の両方の視点から研究活動・コンサルティングに従事。日本農業経営大学校 非常勤講師(マーケティング・営業戦略)。